止め処ない、記憶に残らない夢。ただ疲労と不快感だけが残る、そんな浅い眠りに見る夢。彼の心をかき乱し、苛立たせる夢から、一刻も早く解放されたい。
　しかし、目を開ければ夢以上に不快な現実が彼を待っていた。
「…ソル、何の真似だ」
　責め咎めるような口調だが、白い頬には微かに朱が浮かんでいた。赤い瞳には、困惑したような怒りが覗いている。
　両手は頭上で一つに纏められ、手首で縛られていた。テスタメントには見えなかったが、それはソルの腕に巻かれていたものだ。そして、全裸のまま、大きく足を広げられた姿で横たえられていたのである。
　それから、もう一つ。鼻腔をくすぐるのは、芳醇な酒の匂い。ブランデーに違いない。
「…気分はどうだ」
　相変わらずのぶっきらぼうな声。手にしたタンブラーには並々と酒が満たされていた。
「いい訳がないだろう！　いいから、これを解け」
　自由な足を閉じ、取り敢えずそこをソルの目から隠しながら、テスタメントは叫んだ。
　じっと見つめられていると、怒りよりも羞恥の方が強くなる。まして、ソルはきちんと服を着ていたのである。
　腕を動かすと、頭上でぎちりと鎖が軋んだ。どうやらベッドの支柱に繋いであるらしく、腕はそれ以上動かせない。
「…ふん、まあ、悪くねぇ眺めだな」
　テスタメントの赤い目が、ソルを睨み付けた。
　男が寝台の脇に立った。手にしたタンブラーをゆっくりと傾ける。
「あっ…」
　微かな喘ぎを、ソルの耳は聞きつけていた。琥珀色の酒は、寝台に横たわる獲物の胸から腹にかけてとろとろと流れていく。
　ソルの片手が更に下へと向かう。腹から下腹部、そして、閉じ合わされた足の間へ。
「やっ…！　ソル、何を…っ」
　股間に注がれる酒の雨。空気に濃厚な酒の香り。
　酒を注がれた箇所が、徐々に熱くなっていく。肌から直接吸収されるアルコールの所為だ。やがてそれは火となり、テスタメントの全身を燃え上がらせた。
　殊に足の間から沸き上がる熱さは、欲情の高ぶりにも似て、激烈で、甘美だった。
「あ…、いや、ソル、…熱い…いや…」
　体が灼かれる媚薬にも似た熱に、テスタメントの声もいつしか揺れていた。
「熱い、か…？」
「熱い…体が……あぁ……」
　軽い酩酊状態にあるのか、常よりも艶のある喘ぎ。それは、ソルの獣欲に火をつけるのに充分な官能の悦びに満ちていた。
　ガラリ、硬い音。次の瞬間テスタメントの口に押し込まれたのは、冷たい塊だった。
「っ…！」
　それは、数個の氷だった。
「どうだ、冷てえだろうが」
　一つ二つなら噛み砕くこともできただろう。だが、数個になっては噛むどころか、口を閉じることもできない。
　顔を横に向け、氷を吐き出そうとするテスタメントの口を、ソルのごつい手が塞いだ。
「吐くなよ」
　無慈悲な命令に、テスタメントは細い眉を顰めた。必死に首を横に振り、その無情な手から逃れようとする様が、また残酷なほど扇情的だった。
　空いた方の手で、テスタメントの乳首をつまむ。ひく、と酒に赤く染まった体が揺れ、まだ残っていた酒滴がたらりと体を滴り落ちる。
　既に足をとじ合わせておく力も抜けてきたのか、長い足が放恣に投げ出されていた。
　ざらざらとギアの口の中で氷が鳴った。口中に溜まった水と唾液に咽せる。苦しげに咳き込んでいるテスタメントの口に、ソルは指を突き入れた。
　角が取れ、唾液でぬめりさえ帯びている氷を、ソルは遠慮なくテスタメントの女の部分に押し込んだ。
「っ……！！」
　一瞬、テスタメントの目が大きく見開かれる。足掻き、腰をくねらせてその小さな侵入物から逃れようとしたが、所詮は無駄なことだった。
「…大人しくしろよ。俺のモンより細ぇだろうが」
　そんなことを言っても甲斐ないことで、無論ソルは承知の上だった。
　一つ、二つ、三つ…。三つ目まではすんなり入った。四つ目を口からつまみ出す。唾液が糸を引いた。これが最後の一つだ。
　咽せながら喉を鳴らして口中の唾液と水を嚥下する、その仕種が思いの外淫靡で、また違う何かを連想させる。
　半ばまで入れる。体内で触れ合った氷が、不愉快な軋りを伝えた。
「いや…！　ソル、冷たい…っ」
　自然な動きから、異物を排出しようとするのを、弄ぶ様にまた半ばまで押し込む。
「ア…アァ…、いや、…いや、ソル…ッ！」
　拒もうという動きから、艶めかしく腰をくねらせる。
　誘われるように、ソルはその反発を何度も楽しんだ。既に悲鳴は甘い媚を含み、こんなどうしようもない状態にありながら、更に溺れて行っているのがはっきりと分かる。
　寒い、熱い、燃える、凍える、灼ける…何がなんだか分からない。
　体の外は燃えるように熱いというのに、体の中からじんわりと冷えてゆく。どうにかなってしまいそうだった。まして救いがたい事に、自分が感じているのが、テスタメントには尚厭だった。既に、酒のせいでなく己自身が勃起している。
「…イイ格好だぜ？」
　低い声で耳元に囁かれる言葉は、傷つけることを目的としたものでしかなかった。だが、ギアの耳には届いてはいないかもしれない。
　生殺しのまま、ソルはゆっくりと服を脱ぎ捨てた。逞しい裸身を晒す。
　テスタメントの顔を跨ぐと、頭の後ろに手を添えて、強引に顔を上げさせる。
　鼻先に突きつけられたもの。天を貫く勢いを示して隆と硬起したペニス。
「銜えろ」
　反射的にテスタメントは首を横に振っていた。口にする度に、その凶器は彼を窒息させるかと思われ、ただ、ひたすら苦しいだけだった。
　ぎり、と男の力強い手がテスタメントの顎の付け根を強く掴んだ。
　半開きになった口に、強引に押し込んだ。
「ぐ…っ！　うぅっ…」
　縛られ、馬乗りになられている状態で、最早テスタメントには逃れようがなかった。
　まともに喉の奥に突き当たる、それ。気持ちが悪い、吐き出しそうだ。
　殆ど失神寸前のテスタメントに構わず、ソルは腰を動かした。幹にぬめぬめとまとわりつく舌、くわえ込み、柔らかく愛撫する紅い唇。それは、本人の意志に関わりなく、それ自体別個の生き物のようにソルを誘い、高ぶらせていった。
　これだけは、ソルが教え込んだモノではない。何度最中に聞き糺したか知れないが、絶対に誰にもしたことはないと明言した。激しい責めに身も世もなく泣き、身悶えして叫びながら、ソルの名に誓ったのだから、嘘ではあるまい。
　だから、それは天性のものだった。
　男を引きずり込み、更に深い地獄へと導く、罪深き天使。
　それに、今や囚われているのは、一体誰なのか。
　とうとう理性の糸が切れたのか、テスタメントは不自由な顔を上げ、貪欲に舌を使い、吸い上げてくる。じゅるじゅるといやらしい音を立ててしゃぶり、先端を甘く噛む。亀頭の割れ目を舌先で軽くつつき、啄むように唇を寄せては離す。
　己の唾液と先走りに濡れたペニスに、愛しげに頬ずりする。赤い舌が、慈しむように幹をなぞり、優しく舐め上げる。整った白い顔が、陶酔に上気していた。
　貪婪に奉仕を繰り返す恍惚とした表情が、ソルは好きなのかもしれなかった。
　僅かに腰を引くと、大きく口を開け、舌を突きだした淫らな表情がよく見えた。待ち望むかのように、ちろちろと赤い舌が動いていた。
「飲みてえか？」
　こくり、と幼くあどけない程の表情で頷く。
「掛けて欲しいか？」
　やはり、素直に頷く。濡れた目が、哀願するような上目遣いでソルを見ていた。
　懸命に顔を上げ、舌を伸ばして急かすようにちろりと舐める。
　本当は、ソルも我慢の限界だった。だが、もっと焦らしてやりたい。まだ一度も聞いたことのない言葉がある。それを是非言わせたかった。
　…考えは纏まった。
　ソルは筒先を押し下げた。喜んでテスタメントが吸い付いてくる。
「ッ…！」
　その瞬間、テスタメントの美しい顔に白濁した精が飛び散った。
「あ…」
　指先で顔中になすりつける。口に指を含ませると、丁寧に舐め始めた。
「美味いか？」
「あぁ…、とても…」
　とろけそうな声だった。心底悦んでいるに違いない。
　ぎし、と寝台が軋り、ソルは再び氷を手にしていた。
「…ほら、こいつも舐めろ」
　大人しく従う。器用に歯の間に挟んで、舌先が弄ぶように見え隠れしている。まるで、それがソルのものであるかのように、丹念に舌を這わせていく。
「出せ」
　角が丸くなったところでそう言うと、淫らな感じで口を開けた。先程のように指を入れて取って欲しいのだろう。
　太い指が二本、突き入れられる。引き抜くと、愛おしむように舌が追ってきた。
　そしてもう一度、完全に冷たくなっている谷間にそれをあてがい、ゆるりと進めた。
「アァッ…ン……！」
　甘い喘ぎが上がった。自然と足が大きく開かれる。
「あっ…あ、ん…ソル…ゥッ…」
　甘えるような媚びるような声。迎え入れたいのか、腰を突き上げ、総てをさらけ出している。
　けれど、ソルは氷が溶けるまでそれを出し入れするつもりだった。体内に呑み込まれた分の氷は、既に殆ど溶け、しとどにシーツを濡らしている。
　柔らかく続く快楽の波は、甘美な拷問だった。冷たい小さな塊では、最早テスタメントは満足できなくなっていた。
　早く、早く…！　けれど、決定的な刺激を欠き、ただ飢えだけが膨らんでいく。
　遂に自ら腰を振り始めたテスタメントの痴態に、ソルはまたもや下半身に血が滾ってくるのを感じた。
「…どうした、欲しいのか？」
　テスタメントは必死に幾度も頷いた。このままでは、狂ってしまいそうだ。
「…聞こえねえな」
「ほ、…欲しい…」
「何がだ？」
　懇願するような紅い瞳、だが、断固とした赤茶の視線に、テスタメントは言った。
「お…お前、が…欲しい、ソル…」
「どうして欲しい？」
　氷は溶けて無くなり、ぬるりと指が秘所に吸い込まれた。異常に冷たい。
「何を、どうして欲しいんだ、テス」
　カッと白い頬に血が上った。が、言うしかなかった。内壁を抉るように動くソルの指に翻弄されて。
「お、お前の…ペニス…を、私の中に…、あぁっ…あ、ん…！」
「中に、何だ？」
　最後の、一言。それを聞きたかった。
「あっ、あぁ…ソル…ッ、挿れて…挿れてぇっ…！」
　叫び。自身の言葉に煽られた絶頂。
「…上出来だ」
　男の熱い体が覆い被さり、硬く脈打つ楔が、テスタメントに打ち込まれた。
「あぁっ…、イイッ、…イク…、イクゥッ…！！」
　獣の狂宴は、まだ終わりそうになかった。

　空っぽの心と体。総ての憎悪も恨みも溶けて流れ出してしまったような。
　索漠とした哀しみの念に満たされて、テスタメントは眼下に眠る男を見下ろしていた。
　…私は、この男を愛しているのだろうか…それとも、殺したいのだろうか…。
　どちらでもいい。最早、愛でも憎しみでもいい。
　どちらであるにせよ、彼がこの男に深く繋がれていることだけは、事実なのだから。
「ソル…お前の存在は、どこまでも私を苦しめる…」
　つ、と涙が一滴、ギアの冷たい頬を滑り落ちた。

　…答は、みつかったでしょうかねぇ。コワされないといいのですけれど。
　幸せも、愛も、総てその人だけの真実。一定の幸福なんて、どこにもないのですから。

〜Ｅｎｄ〜

H.13.12.03. mon. 00:20 Ighia.LIED

相棒と一緒にカットバシまくりのGGX１作目。何考えてたんだろう、私。
旦那は非道いし、テスはＭだし、のどーしよーもない話です。
未萌芽の状態の愛、まだ二人は自分の想いが分かっていない、というところです。
何てゴタク並べてる場合じゃないんですけどね。
ウチは延々とこの状態が続いて、何故かそれでテスが旦那にメロメロ（死語）になる。
いつの間にやら、旦那もベタ惚れになっている、という不思議な二人（笑）
私の書くモノなんて、所詮この程度が限界ですよ。