メイドさん

文化祭も終わり、人気のなくなったとある教室。そこに二つの影が重なり合っていた。
一人が壁に縋り、もう一人が背後からその腰を抱いているようだ。
一見すると、訳もなく盛った男子生徒が、見境無く女子生徒を人の居ない教室に連れ込んで犯しているように見える。
確かに、後ろから愛撫されている影は、フリフリでヒラヒラの愛らしい衣装をつけていた。だが、女と言うには背が高すぎる。骨張った薄い体つきはどう見ても男のものだった。
「やっ…柳生・・・」
少し掠れた甘い声は、確かに男の声だった。女とは違う色気がたっぷりと含まれている。
「なん・・・、なんしよっと…」
窓の外では夕陽が傾いている。あと暫くすれば完全に闇に閉ざされることになるだろう。斜めに差し込む茜色の陽が、彼の銀の髪を赤く染めていた。
柳生は襟元から差し込んだ手で乳首を弄び、もう片方の手でスカートの下をまさぐっていた。
「何、ではありません。こんなところを人目に晒すなんて、悪い人ですね、貴方は」
七三分けに分厚い眼鏡、寧ろ生徒と言うよりは教師の風貌だが、確かに制服を着用している。耳元で囁きかける声は少年と言うより、完全に大人の男と同じだった。
「あっ…あ、ん・・・」
スカートの下の手は、仁王の其れを強く弱く握り、絶妙な快楽を与えている。
柳生の手の中で震えている其れは、既に限界近くまで張り詰めていた。
「やっ…、もう…柳生、やめ、て…」
柳生の腕の中で仁王は少しだけ拒むように首を振った。
「おや、止めて欲しいのですね」
意地悪く言うと、すっと柳生は躯を引いた。
「あ・・・」
支えを失った躯はずるずると床にへたりこんだ。短いスカートから覗く脚がとても魅惑的だ。均整の取れた足は、今ガーター式の編みタイツに包まれている。
「阿呆、こげん、半端な…」
切れの長い目に涙を浮かべて、仁王は怒ったように柳生を見上げた。
妖しい色に煌めく唇が拗ねたように尖っている。
「下着は？」
「ロッカーん中」
柳生はへたり込んだ仁王に手を貸して立ち上がらせながら言った。
「そうですか。では帰りましょう」
「んじゃ、俺着替えて…」
その体を抱き締め、優しく柳生は言った。
「構いません、そのまま私の所へおいでなさい」
「こんままか？」
「ええ、勿論」
紳士なんて呼ばれている割に、言うことは全く紳士ではない。紳士だったら仮にも恋人を、女装させたまま帰ろうなどとは絶対に言わない筈だ。しかも、先程の脱衣麻雀で仁王は、点数のカタに下着を丸井にやってしまったというのに。
そんな非紳士的な柳生を、仁王は良く知っていた。
「イヤじゃて言うたら…？」
「おや、そんなことは言えない筈ですよ。貴方は私の何ですか？」
囁く声だけが低く優しい。その声が好きだったが、仁王は絶対に言ってやらないと決めていた。
「さて、何やろね」
「そういうことを言いますか、この口は」
柔らかい唇を、柳生が己のそれで塞いだ。反射的に滑り込んできた舌を、愛おしむようにそっと咬んだ。
短いけれど情熱的な口づけの後、柳生は仁王が考えても居なかった言葉を口にした。
「今日だけは、貴方は私の所有物ですよ。先程のオークションで競り落としたのは私なのですからね」
「え・・・？あれ、マジやったん？」
勿論、と柳生は仁王の耳に囁きかける。その為に大金を払ったのですから、と。
「…電話」
「はい？」
「ケータイ貸しんしゃい」
柳生が鞄から取りだしたそれを仁王はひったくると、馴れた手つきである番号へ掛けた。
「柳か？俺じゃ。きさん、ようも…！…何？…巫山戯んなっ、やったら四分六で俺が六やろ。…勝手言うな！俺やけんそげに高く、……五分？…まぁよかろ。…あぁ、じゃあ明日。…余計な御世話っ…！」
一方的に切られたらしい会話。仁王は明らかに不機嫌になった。
「もういいですか。行きますよ」
何やらむくれている仁王の耳に、柳生は艶めいた声で囁いた。
「私の部屋で…先程の続きをしましょうね」
その声に、仁王の背をぞくりと甘い震えが滑り落ちた。柳生の声には魔力があるに違いない。
細い腰を抱き、柳生は仁王をエスコートしながら教室を出た。
既に陽は殆ど落ち、人気もなく静まり返った校舎は、世界の総てにも思えた。
「なぁ…ホントにこんままで帰るとね？」
仕方なさそうに寄り添って歩きながら、仁王が少し甘えた声で尋ねる。
柳生がこんな下らない事を考えついたのは、仁王の行動を怒っているからなのは分かっていた。ここは色仕掛けでも何でもして、最悪の事態からは逃れたいところである。
「嘘ですよ。こんなに可愛い貴方の姿を、おいそれと他人に見せたい筈がないでしょう？」
仁王はほっと安堵の溜息を吐いた。
文化祭なら悪ノリでできるが、流石にこの姿で街へ出るのは憚られる。
「家に連絡してお祖父様の車を回してもらいましたから」
このボンボンめ…！と思ったが仁王は口には出さなかった。
その言葉を信じて校門へ向かうと、ドデカイ黒塗りのリムジンが堂々と横付けされていた。
「なんね、これ？」
その車体の迫力に、仁王は開いた口が塞がなかった。リムジンという物があるのは知っていたが、実物を間近に見るのは初めてだった。
「さ、どうぞ」
いとも紳士的に柳生は後部座席のドアを開け、仁王を先に車内へ入れる。
バタン、とドアが閉まると、柳生はすぐさま仁王を自分の膝に横たわらせた。これも車内が広いから楽にできることだ。
優しく髪を撫でていた手が、するすると動いて短いスカートの下に滑り込む。慌てて起き上がろうとした仁王の肩を押さえ、にっこりと微笑んだ紳士は、そっと人差し指を唇に当てた。
いやに紳士的な仕草だが、片手は仁王の尻を撫でるのを止めない。
格好が格好だけに、変に感じてしまう。まるで痴漢にでも遭っているようだ。それでも必死に唇を噛みしめて、ともすれば零れそうな甘い溜息を呑み込む。
ただ柳生の膝に縋って小刻みに躯を震わせるばかりだ。
そうして、緩やかな刺激にじりじりと灼かれる時間がどれ程過ぎたことだろう。
感じるまい、気にするまいと思うほど、くすぐったいような感触に感じてしまう自分が、仁王は恨めしかった。
漸く焦れったい愛撫から解放された時、仁王は最早自分で立つこともできなかった。快楽に痺れて、手足に力が入らない。
「大丈夫ですか、仁王くん、私に掴まって下さい」
なんて空々しい台詞。いずれどこかに居る家族の耳に入れる為の台詞に違いない。
ぐったりしている仁王に肩を貸し、柳生はしっかりした足取りで自室へと引き取った。
「柳生…こん阿呆が…」
仁王は柳生の部屋に入るなり床に座り込んだ。中途半端に焦らされた躯が切なく疼く。
これ以上は無いほど優雅な笑みを浮かべて、柳生は恋人を抱き締めた。
「さ、可愛い私のメイドさん、着替えを手伝って下さいね」
「柳生～、きさん、本気で言っちょんか」
くすくすと笑い声を漏らしながら、柳生は愛らしいメイドを撫で、抱き締め、頬ずりした。
「当たり前でしょう。私は貴方のご主人様なのですから」
腕の中の恋人は、不服そうに柳生を睨み付けていた。
可愛らしい猫耳に、ヒラヒラのメイド服を着た仁王は殺人的に可愛かった。男の女装など奇怪な物なのに、何故こんなにいやらしいほど似合うのだろう。
その姿に柳生は確かに眩惑された。そして、不特定多数の男どもも。
それなのに、彼はまるで自覚もなく、或いはこの上なく自覚した上で、無防備な姿を衆目に晒していた。一体何人の男が、このフェロモンメイドに惑わされたことだろう。
いくらクラスの出し物であるとは言え、惜しげもなくこんな姿を晒す仁王に柳生は怒りを覚えていた。怒り、或いはこの姿を目にした他の人間に対する嫉妬。
思い知らせなければいけない。彼は自分のものなのだということを。
「それとも、嫌なのですか？」
「当たり前じゃ。なして俺がそげん事…」
ふい、とそっぽを向く仕草は、全く機嫌の悪い猫そのものだ。頭に着けた猫耳のカチューシャが相応しい。
「いけませんね、そんな悪いことを言うメイドには躾が必要でしょう」
仁王は、その時までこれも他愛のない悪ふざけだと思っていた。この優しい紳士は口で何を言おうと、仁王が嫌がるような真似をしたことは一度もない。
だから、きっとまたいつものように優しく抱いてくれるものと多寡を括っていたのだ。
しかし。
ベッドに押し倒されて唇を塞がれる。その背に回そうとした手を捕らえられたと思った次の瞬間、手首にひやりと冷たい感触。ガチャリという不気味な金属音。
「なっ…！」
仁王の手首を戒めたものは、本格的な手錠だった。
「柳生、これ…！」
「素敵でしょう？貴方に似合うと思って、買ってみました」
彼を見下ろす男の顔は、どこまでもどこまでも優しくて…狂っている。
こんなものはインターネットショッピングで簡単に手に入りますよ。嬉しそうにそう言う柳生は、既に仁王の知っている紳士ではなかった。
両手を頭の上に上げる格好で、手回し良く付けられていた鎖をベッドの支柱に縛り付ける。
勢いで短いスカートが捲れ上がる。編みタイツに包まれた脚と、剥き出しの股間の対照が淫靡だった。
「あぁ…いい眺めですね。そのまま大人しく待っていたまえ」
満足げに仁王を見下ろし、柳生は立ち上がった。
ドアを開け、静かに部屋を出る。この部屋は柳生の要望により完全防音になっているから、幾ら呼べど叫べど家人に気付かれる事はない。
柳生がトレイを持って戻ってきたとき、仁王は懸命に起き上がろうともがいているところだった。躯を俯せに反転させ、丁度腰を上げたところである。
「おやおや、待ち切れませんでしたか」
「ひぁっ…！」
淫らに突き上げられた仁王の尻を、柳生がやわやわと撫でた。
「止さんかっ」
「大人しく待っていろと言ったのに。聞き分けのないメイドですね」
今夜一晩だけのフェロモンメイドは、柳生の手から逃れようと身をくねらせた。
「きさん、まだ人んことメイド扱いすっとね！」
仁王の怒声など聞こえぬふうで、柳生はくるりと仁王の躯を再び反転させ、仰向けにさせるとその太股の上に腰を下ろした。
「重かよ、どきんしゃい」
「可愛いですよ、仁王くん」
その手が優しく仁王の脇腹を、腰を、太股を撫でる。
幾度も高ぶってははぐらかされた欲望が、再び躯の奥で燻り始める。
逃げようと身を捩っても、艶めかしく身悶えるだけで、徒に柳生を喜ばせるだけだ。
布地の上から胸をまさぐる。少し強く爪で乳首を引っ掻くと、ぴくりと仁王の躯が跳ね上がった。柳生の指にぷくりと尖ったそれの感触。
しつこいほど柳生はそれを爪で引っ掻いた。
「やっ…あ、ん…、や、柳生…や…」
もたらされる快楽に従順な躯が、持ち主の意志を裏切って反応を返す。
ゆっくりと形を変えつつある仁王の其処を注視しながら、柳生はサイドテーブルに置いたトレイからコーヒーカップを取り上げた。
「あっ…いやじゃ、…もう、やめぇ…」
優しすぎる手が、徐々に仁王の躯を煽り立てていく。愛らしいメイド姿と如実に変化していく其れの対比が、柳生の目を愉しませる。
優雅にコーヒーを口に運びながら、柳生はたっぷりと苦しく息づく仁王のものを視姦した。
こんな格好であられもない場所を凝視され、全身が恥じ濡れる心持ちの仁王だが、逆に見られていることで変に感じてしまうのは何故だろう。
見ないで欲しいと思うほど、躯を伝う快感が倍増される気がする。
「それでは、貴方が給仕をしてくれないので、貴方に食べさせてもらいましょうか」
どこまでも優しい笑顔で柳生が言った。
何を言っているのか、仁王は咄嗟に飲み込めない。苦しくて、早く解放されたいと思うばかりだ。
コーヒーカップをトレイに戻し、柳生は別の皿を手に取った。
仁王の鼻先に、甘ったるい匂いが漂う。生クリームの匂いだった。
嫌な予感がする、と思う間もなく、ひやりと冷たくぬるついた感触が「其処」に触れた。
「あっ・・・！」
柳生の指がリズミカルに動いて、仁王の男に生クリームを塗りつけていく。柔らかく優しく、満遍なく。
「そうそう、こちらにもたっぷりとご馳走してあげましょうね」
仁王の脚の上から退くと、柳生はその脚を大きく広げた。
さらけ出された秘部にも、殊更丁寧に生クリームを塗りつける。
「やっ…やじゃ、気持ち悪…っ！」
忽ちにして仁王の股間は真っ白に塗りたくられた。
「それでは、頂きます」
柳生の唇が仁王のペニスの先端を覆った。ゆっくりとクリームを舐め上げる。
「ひぁっ…あん…！」
暴れる仁王の耳に、ガチャガチャと鎖の擦れる音。
腰を引こうにも両足はがっちりと柳生に捕らえられている。
「やっ…！や、ぎゅう…やめ、て…」
散々に焦らされた所為か、其処はいつもより敏感で、既に柳生の舌先に生クリームとは違う味が混じり始めている。
あと一息、というところで柳生は口を離した。
仁王は荒い息をついている。
生理的な物か、それとも快楽の故か、吊り上がった目尻に涙が浮かんでいた。
「貴方の所為なのですよ、仁王くん。私以外にこの様な姿を晒して喜んでいるから」
「やけん、クラスの出し物やって…」
「でも駄目です」
にっこりと柳生は切り捨てた。
「だから、今夜はもっと愉しませて下さいね」
「もう…よかろうが…」
その仁王の口元に、柳生は指についた生クリームをこすりつけた。先程仁王のものに塗りつけた指だ。
「ふふ…可愛いですよ、とてもいやらしくて」
「よさんか…」
拒絶する声はとても弱々しい。快楽と屈辱に挟まれて、思考がまとまらない。
再び柳生が仁王のペニスを咥えた。今度は根元まで深く咥え、強く吸い上げる。
「あぁんっ…！」
仁王の腰が跳ね上がった。そのまま柳生の口腔内に射精する。
「・・・・・・」
柳生は躯を起こすと、仁王に口づけた。
反射的に舌を絡めようとした仁王の口に伝わってきた、もの。
「・・・！」
どろりと口から零れたそれは、今吐き出したばかりの自身の精液だった。
「やっ柳生、これ…！」
「おや、お嫌いですか？いつも私のものは美味しいと言って下さるではありませんか」
柳生の笑みは、果てしなく優しかった。
「阿呆…っ！」
遂に仁王の目から一滴涙が零れ落ちた。
「上の口は随分とひねくれているのですね。では、下の口にも聞いてみましょう」
仁王のすらりとした両足を肩に担ぎ上げると、柳生はいきり勃った己をいきなり沈めた。
クリームの油分が潤滑剤の役目を果たして、ずぷりと根元まで咥え込む。
「やっ…！痛い…！」
「うそ、でしょう…こんなに喜んでいるのに…」
強い締め付けに呼吸を乱されながら、柳生は意地の悪い声で答えた。
「ほら、こんなに嬉しいと鳴いているのが聞こえるでしょう」
わざと音を立てるように腰を動かす。ぐちゅぐちゅと濡れた音が室内に響いた。
「違う、違う…っ！」
身を捩っても、男の楔からは逃れられなかった。却って敏感な部分に刺激を受けるだけだ。
「貴方は私のもの…そうですね？」
「嫌じゃ、誰がっ…、俺は…！」
叫ぶ。その声も柳生は愛していた。気が強くて、容易に屈服しようとはしない、その瞳の強さが好きなのだ。
「それでは、納得させてあげますよ、時間は、まだまだあるのですからね」
「あっ、あぁっ…いやぁっ…！」
仁王のよがり声が、夜を切り裂く。
それは、一晩中絶えることがなかったという。

～Endless End～

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ちぃ様に差し上げました、表27000Hit御礼です。
「脱衣麻雀その後」でメイド姿でお仕置きされる仁王…。
如何なもんでしょうか？
つーか長ぇよ、無駄に…。
久々に普通の(?)中学生だ～と思ってたんですが…。
変態紳士此処に極まれり！って感じですか…。
これって１８禁？
それより、あたし、エロ下手？
兎に角、完成しました。
この手のネタは好きだけど、暴走しやすいのが…(笑)