― 安眠できる場所 ― 夜、私室に戻ったオレは、クレイドルがいないことに初めて気が付いた。 何も言わず…。 一人で…。 どこに行ったンだ…。 ここ最近、オレ達は当たり前のように毎夜ベッドを共にしていた。 それなのに、まるでそんなことはなかったかのように。 忽然と、静かにいなくなった。 オレはベッドの端に腰掛け、アイツの温もりを探す。 伸ばした手の先に触れる真っ白いシーツには、何も見つからなかった。 アイツの温もり、匂い…存在。 それらの全てが、クレイドルはいないという事実しか告げていなかった。 「どこに行きやがったンだ、クレイドルは…」 言葉にすることでクレイドルが戻ってくるわけでもないのに。 わかっていても、オレは不安という寂しさを孕んだ感情を口にすることで、 自分の心を紛らわすしかなかった。 静かに紅い瞳を閉じる。 心を落ち着かせて辿る。 クレイドルの軌跡を。 頭の片隅に微かにこびり付いている言葉を。 僅かに残っているであろう、クレイドルの…。 ― 「………デュｰ、……の夜、出かけ…。……するな」 そう言えば、昨日だったか一昨日だったか、ナンカ言ってたような気がする。 オレはそのとき、アイツに夢中で適当に返事をしていたような…。 クレイドルの言葉。 オレの腕の中で呟いていた。 上手く思い出せねェ。 チクショウ！ オレはシーツに這わせていた手を引き、閉じていた瞳を開けた。 …なんとなく思い出した。 ベッドから腰を上げるとそのまま真っ直ぐドアに向かって行った。 …アイツの、クレイドルの言葉。 アンヌンの闇から出る。 …どこに行くか言っていたこと。 リルダーナの闇へ飛ぶ。 静かな闇の中、リアムの家の窓から微かな明かりが洩れていた。 オレは少し距離を置いて家の中を視る。 そこにはリアムとクレイドルの姿があった。 リアムが何か喋っている。 クレイドルは胸の前で腕を組み、ソファに座ったまま動かない。 しばらくするとリアムは椅子から立ち上がり、クレイドルの傍へ行った。 今にも触れそうな距離まで近寄った。 それでも身動きしないクレイドル。 『……かわいい』 顔を赤らめながら、リアムがそう呟くのが聞こえた。 それは穏やかに眠る、クレイドルへ向かっての言葉だった。 「かわいいだぁ！？リアムのヤツ…侮れねェ。 しかもアイツもなんだって起きねェンだ！ あんな無防備な顔サラシしやがってよ……。 オレ以外のヤツに見せるなんて、スッゲエムカツクぜ」 リアムがクレイドルの傍から離れた。 少しして戻ってくると、手にしていた毛布を優しくクレイドルの身体にかけていた。 「フ〜ン、リアムのヤツ、イイトコあるじゃねェか。 あのままクレイドルに手を出しやがったら、タダじゃ済まなかったンだがよ。ククク…」 リアムが自分の寝室に入った。 どうやら眠るらしい。 「やっとお子様は寝たか。さ〜て、そろそろお姫様を迎えに行くか。 まったく世話焼かせやがるぜ、うちの姫はよ。 ま、そこが可愛いってこともあるがな、ククク」 口ではそう言いつつも、内心浮かれている自分がいることに気が付いていた。 その半面、『なぜオレが…』という気がしないでもないということにも。 「…オレ、クレイドルに振り回されてるのか！？」 突然がっくりと膝が落ちるような、そんな感覚に襲われた。 長い前髪を左手でかきあげ空を見上げると、小さく溜息を吐いた。 「惚れた弱みってヤツ…か。…フン」 自嘲気味に笑う自分がなんだか少し可笑しかった。 そのままの姿勢でドアに凭れかかろうとした、その時……。 カチャ。 ガン！！ ドアの開く音が聞こえたと同時に、思いっきり後頭部に激痛が走った。 「…イテッ………」 「…何やってるんだ、ナデュー」 オレはその場で頭を抑え、しゃがみ込んでいると上から声がした。 「何やってるンじゃねェよ…。イッテェじゃねェか！」 「こんなところにいるお前が悪い」 自分は全く悪くないといった口調で、何事もなかったようにドアを閉める。 それはそうだが、オレとしてはおもしろくない。 心配したり外でじっと待っていたり、挙句にはドアをぶつけられたり…。 それもこれもすべてクレイドルのせいだ。 「オマエが勝手にいなくなるのがいけねェンだ！」 わかっていた。 それが八つ当たりだってことは。 なんの脈絡もない、だた拗ねていたというだけなのも。 「ハァ…。昨日言っておいただろう、出かけるっていうことは…。 …フフン、そうか聞いてなかったんだな、ナデュー。 で、心配して俺を迎えに来てくれたのか…。 可愛いところあるな、…ナデュー」 それはいつもオレがクレイドルに言っているようなセリフだった。 言われた始めて気付いたが、すごく恥ずかしい。 「ナデュー、顔が赤いぞ。フッ…面白い」 クレイドルは本当に面白がっていた。 喉の奥で笑ってやがる。 笑いながら手を伸ばしてきた。 オレはその手を取った。 「そろそろ帰ろう。今日はすごく眠いんだ。 さっきもリアムの前で熟睡してしまったし…。 昨日お前が寝かせてくれなかったから……」 クレイドルは欠伸を噛み殺しながら本当に眠そうに言った。 しかし先程の笑いはまだ消えていなかった。 「イ・ヤ・ダ！帰らねェ」 素直じゃないオレは素直じゃないセリフを吐いていた。 クレイドルが不思議そうにオレの顔を見ていた。 「何意地になってるんだ？」 「意地になンかなってねェ！」 「…それじゃなんだ？リアムに嫉妬しているのか？」 「………違う、そうじゃなくて………」 そうじゃなくて、オレは何を言おうとしていたのか…。 何を言いたかったのか…。 そんなオレの思考を妨げるようにしてクレイドルが言った。 「ナデュー、悪かった。俺がもっときちんと言っておけばよかったことだな。 ………心配かけて、……悪かった」 クレイドルは俺の首に両手を回すと、真っ直ぐに見つめそう言った。 先に謝られては何も言えない。 「…オレを放って出かけるのが悪いンだ」 「そうだな。これからはそんなことはしない」 「クレイドル…」 「なんだ」 「オマエ、早く帰って寝てェだけだろ」 「…バレたか」 「当たり前だ。いくらオレだってオマエがいつもと違うことくらいわかる」 「フフン、そうか。だがそれだけじゃない。 お前の新たな面が見られて嬉しかったのもある。それと…愛してる、ナデュー」 クレイドルからのキス。 珍しいこともあるモンだと思ったが、オレは何も言わずそのままクレイドルに任せた。 唇が離れた。 オレはさっき言いかけた言葉思い出した。 「オレ以外のヤツに寝顔なんか見せンじゃねェよ、クレイドル」 腕の中にいるクレイドルに向かって言った。 やっといつものオレに戻れた気がする。 そして、クレイドルも…。 クレイドルはオレに身体を預け、凭れながら夢の世界に誘われていた。 オレはそんなクレイドルをそっと抱え、飛んだ。 オレたちの帰る場所へ。 オレたちが眠る場所へ。 ― ＦＩＮ ―
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かがみ様より頂きました、１４０００ＨＩＴのキリリクでございます♪
「夜イベント前後のナデュクレ」というリクで、こんなにも愛らしい姫とナデューが…♪
しかし、ウチのリアムなら、この時点で絶対襲ってる（笑）
振り回されてるナデューがとってもカワイイ〜♪
心底惚れると、ナデューは弱いかも、とか思ってみたり。
でも、姫はそこがカワイイ、と自分のことを棚に上げて思っているのでした（笑）
かがみ様、素敵な小説、どうもありがとうございました〜（＾＾）
これからも楽しみですワ〜☆