「雪が降ったら」

はらり　はらり
冬の落とし物
はらり　はらり
白い花びらが
ちらちら　ちらちら
風に舞うよ
ちらちら　ちらちら
優しく降り積もる
…この夜

目が覚める。
リルダーナは今、真冬だった。
朝の冷え込みは厳しい。
クレイドルは起き上がった。
気が付くと、隣で寝ている筈の男の姿がない。

「ナデュー…いないのか…？」

小声で呟く。
寝台には微かな温もりが残っていた。
いつ頃出て行ったのだろう。
まるで気づかなかった。
昨夜の情事の気怠さが残る頭を振り、身支度を整える。
何となく起きたくない。
こんなことは珍しい。

「全く…。あいつの所為だ…」

ぶつぶつと呟く。
いつもより激しく熱かった、昨夜の愛の名残が体の奥を震わせる。
溜息をつくと、クレイドルは食事の支度に取りかかった。

「クレイドル〜」

あの脳天気な声はナデューに間違いない。

…全く、俺がどれだけ心配したと…

微かな苛立ちを感じる。

「よぉ、今頃起きやがったか。ちょっと来いよ」

「俺は忙しい」

なるべく不機嫌な声で応じる。
お前を待っていた訳ではないのだと。

勿論、ナデューはそんなことは分かっている。
我が侭で意地っ張りで、全然素直じゃない。
それなのに案外ヤキモチ焼き。
独りでいたいと言いながらも淋しがり屋で。
そこが可愛いとナデューは思っていた。

「いいから来いってンだよ」

ぐい、と腕を掴んで引っぱり出す。

「やめろと…！」

抗議の声も無視。
ナデューはドアを開けた。

「あ…………」

ひいらり　ひらり
はらはらと舞い落ちる、白い結晶。

「雪…か…」

暗天から静かに、クレイドルの肩に髪に降りかかる。
柔らかな、雪。

「ガラじゃねェけど、な…メリークリスマスってヤツだ」

「聖者降誕、か…。
確かに俺達には似つかわしくないな」

ふ、と微かな笑みがクレイドルの口元に浮かんだ。

「…可笑しいか？」

ナデューが拗ねたような顔で問いかけてきた。
彼なりの演出効果を期待していたのだろう。

「…いや、…偶には……悪くない」

話すうちにも二人の髪に肩に、ましろの雪が降り積もる。
次第に激しさを増す雪を、クレイドルは陶然と見上げた。
暗い空に舞う純白の雪。
美しい、と思った。

「…あぁ、…悪くないな、ナデュー…」

「…冷えてきたゼ、中に戻るか？」

ナデューがそっと背後から抱きしめてきた。
暖かい、その腕。
不意にこみ上げる、激しい想い。
その胸に縋り付いて甘えたい衝動に駆られる。

「ナデュー…！」

今宵一夜、神の奇跡が起こる夜。
恋人達の憩う、リルダーナの夜。

******
クリスマス創作。
結構ネタはベタ（笑）
取り敢えず、キレイに甘々を目指してはみたのですが…。
…フッ。所詮この程度。
シャンペンで酔いました（笑）
ギリギリイブに間に合わないかも、と思いましたが。
何とか間に合ったようでやれやれです。