「この想いを」
「…私は、どこか変なのかなぁ」
ぼんやりと暖炉をみつめながら、テスタメントは呟いた。
ゆらゆらと闇の中で炎が踊っている。
その火影の向こうに、一人のオトコの姿が見えた気がして苦笑する。
居るはずがない、オトコの姿。
無意識にでも求めているというのだろうか。
視線を移せば、テーブルの上に小さな箱と、大きな包み。
まだ封をしていないそれを作るために、費やした努力は大変なものであった。
作ること自体ではない、作ろうと思い定めるまでの過程が、である。
「…やっぱり、どこかおかしいんだな、私は」
自然と苦笑が浮かんでくる。
待っているのは、何時来るとも知れない男。
テスタメントを思うままに強姦し、そしていつの間にか居座るようになった男。
そんな男の為に、テスタメントはチョコレートを用意していた。
明日は、バレンタインデー。
来ないかもしれない、いや、多分来ないだろう。
そう思いながら、尚こんなモノを用意している自分が滑稽だった。
それでも、何かしたい自分がいるのも事実で。
だから、先程から膝を抱えて、ぼんやりと同じ言葉を繰り返しているのであった。
「何で…待ってるんだろう…」
酷い男だと思うほど、そうじゃないと否定したがっている。
そして、傷ついたテスタメントを介抱した、あの時の優しさを思い出す。
「分からないな…。ソル、お前は何を考えている…？」
誰もいないこの森、ただ雪だけが降り積もっていく。
こんな静かな夜に、独りでいると思考が空回りするだけだと分かっていても、
テスタメントはソルのことを考えていたかった。
もしかしたら、ソルが帰ってくるかもしれない、とどこかで期待しながら。
会いたいのか、私は、ソルに…？
幾度も衝突し、その度に総てを奪われた。
そんな男に何故会いたいのか。何故拒むことができないのか。
受け入れることすら、不可能だと思っていたのに。
「何で、待ってるんだろう…」
うとうとと眠りに落ちながら、テスタメントはもう一度同じ言葉を呟いた。ゆらゆらと揺られながら、夢を見ていた。
止め処なく脈絡もなく、移り変わる情景。
嘗て在った幸福な自分、手の届かないあの日々。
血にまみれ、哄笑する自分。
屍の上を歩き続けねばならない定めを呪うこともできずに。
そして、押しひしがれ、犯されている姿。
苦鳴は、やがて喜悦のすすり泣きに変わり、総てが暗転した。目を開ければ、穏やかな朝の光。
雪は既に止んでいるようだった。
頭の隅に残る重い夢を振り払おうと、軽く首を振る。
そこで、自分に掛けられている毛布に気づいた。
「…誰だろう？ 昨夜、ここで寝ちゃったんだな…」
頭が覚醒しきっていない。起き上がったまま、ただ毛布を見つめていた。
「…起きたのか、テス」
「あ…ソル。何時帰って来たの？」
ドアを開けて姿を現した男の存在が、信じ切れなかった。
もしかしたら、都合のいい夢なのかもしれない。
だが、その夢は、確かな足取りでテスタメントの前に立った。
「テメェ、何こんなところで寝てやがんだ？」
「ん〜、何となくね。それより…」
立ち上がろうとしたテスタメントを、ソルは逆にソファに押し倒した。
「ちょっ…、ソル、何をする…！」
「犯らせろ」
そういう短い問答の間にも、ソルの手は手際よくテスタメントの衣服をまくり上げていた。
「や、犯らせろってねぇ、ソル、…あっ…ぅん」
薄紅色の蕾に、ソルが舌を這わせただけで、テスタメントは過剰なほどの反応を返す。
それが、ソルには楽しいのかもしれない。
「…なんだよ、待ってんじゃねぇか」
ぴちゃ、と濡れた音がテスタメントの耳にも聞こえた。
ソルの武骨な指が、薄い花びらを弄んでいる。
「やっ…、ちがう、…うっ、ん……、あぁ…」
ゆっくりと指がテスタメントの「女」の中に沈められていく。一本、二本…。
そこは柔らかく湿り、ソルの指を難なく銜えこんで放さない。
内壁を軽くこすってやるだけで、切なげに腰が動いた。
「い、や…ぁ、ソルゥ……」
拒む声には説得力がなく、ただ甘い響きを残すだけ。
いきなり指を引き抜くと、名残惜しそうに愛液が滴り落ちた。
「イイ具合じゃねぇかよ」
意地の悪い声で呟く。
ただもう、中途半端に燃え上がった躯が苦しくて、テスタメントは熱い吐息でその言葉に応える以外になかった。
そんな素直な反応が可愛くて、ソル自身も煽られてくる。
もともと犯りたくて帰って来たのだから、それも当然ではあるが。
いつから「犯る」が「犯って泊まる」になったのだろう。
近頃はもう「此処」から「出かけ」て「帰ってくる」ようになってしまったソルだった。
「は、早くぅ…、ソル、ねぇ……」
羞じらいながらも少しずつ脚を開いていく。
そう言われて躊躇するようなソルではない。
「あっ…！ あっ、あんっ…」
更に脚を広げさせると、しとどに濡れた花芯にゆっくりと身を沈めていく。
そこは男を待って微かに息づいていた。
片手で華奢な「男」を握り、腰を動かす。
「あぁっん…！ あ、…はぁっ…んっ…」
ぴくん、と反り返る躯、思わず腰を突き上げるような姿勢になる。
それが、更に深く男を銜え込む結果になるのは、もう分かっていることだった。
「俺を、待ってたんだろう…？」
わざと耳元で囁く。耳元から首筋が敏感なのは承知の上だ。
「待って、なんか…いない…」
強がる言葉の裏で、艶めかしく動く腰が、自分を裏切っている。
浅ましいと思いながら、もっと深く突いて欲しいと思う自分がいる。
どうしようもないままに躯の飢えが膨らんで、乱れていく。
いつも多少の自己嫌悪と共に、テスタメントはソルを迎え入れるのだ。
「ふん…そうかよ」
ソルはテスタメントを抱き寄せると、激しく突き上げた。
「あぁっ！ いや、あ、アァッ…ソル、ダメェッ…！」
その動きに翻弄され、テスタメントは慎みも忘れて叫んだ。
同時にペニスを擦り上げられては、正気など保ってはいられない。
「イヤ、イヤ、イヤァッ…！」
逞しい背に縋り付き、爪を立てる。
置き所のない足が宙を蹴り、テーブルを蹴り上げた。
「…あ！」
一瞬痛みに眉を顰めたが、視界に入った物を見て、慌てて起き上がろうとする。
「逃げるな」
その肩を押さえつけ、ソルは益々強く深くテスタメントを犯していく。
「ヤッ…やめ…、ソル…あ、ん…、アァッ…！」
それでも片手が何かをまさぐるように動いているのを見て、ソルも動きを止めた。
「…何だ、こいつは？」
透明な包み紙に包まれたハート型のチョコが、幾つも辺りに散乱している。
「あ…！ 何でもないの」
そう言いながらも、テスタメントの頬は見る間に真っ赤になった。
「…チョコ？ お前が食うのか？」
「ち、違う…けど、そう…でもない…」
脈絡のないことを言っている。
「あ、…だから、今日はバレンタインで、…あの、でも、…別に、誰にあげようとか…
そんなんじゃなくて、その…、チョコは………好き？」
「…何言ってんだ、お前？」
ソルには何が言いたいのかさっぱりだった。
その為に中断させられた情事の名残が、まだ躯の奥で疼いている。
「…で、結局、俺にくれるもんだった、ってことだな？」
ひょい、と包みを取り上げ、チョコを取り出すと、無造作に口にした。
ほろ苦い、甘みを抑えたチョコレートの味。
「あ…！ ダメ…」
切なげな制止の声が、いやに色っぽく聞こえた。
「イイ声出すんじゃねぇよ…」
にやり、と獰猛な笑みを浮かべる。
腕の中に、細い躯を抱きしめる。
胸の奥からゆっくりと浮かび上がってくる、遙か昔の言い伝え。
もう、二度と自分には縁のないものだと思っていた、けれど…。
再び、ソルは腰を動かし始めた。
今度は引き裂くように激しく、ではなく、愛おしむようにゆっくりと。
「あぁ…、ソル……、もっと…」
甘い声が囁いた。
形のいい唇が、やがて、狂乱の果てに一つの単語を叫んだ。
「…ソル、愛してる…！」
それに答える男の声は、快楽の波にさらわれて、遂にテスタメントの耳には届かなかった。テスタメントが目覚めると、ありありと情事の跡を残したまま、ソファーに横になっている自分を発見した。
陽はとうに昼を過ぎ、ゆるゆると傾こうとしている。
「…ソル…」
男の名前を呟く、もう、いないだろうと思って。
「呼んだか？」
振り向けば、そこにソルがいた。
「テス、…確かに、もらったぜ」
その手には、チョコレートの入った箱と、もう一つの包み。
「あ…、ダメだったら」
起き上がろうとして蹌踉めく。
前にのめった躯を、男の逞しい腕が抱き留めた。
「……ソル、好きだよ…」
その熱い腕の中で、観念したようにテスタメントが呟いた。
この男の前で、隠し事はできないと。
「………俺も、だ」
夕陽が、室内を紅に染め上げ、二人の赤くなった顔を隠した。〜Ｅｎｄ？〜
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やれやれ、バレンタインには間に合ったが…。
ラブラブは恥ずかしいです（笑）
やっぱり鬼畜系獣道女に、こーゆーのはつらかったですワ（笑）
でも、あんまりバレンタインっぽくないかも。