「闇　の　宴」

　 　暗く冷たく見捨てられた、淋しい世界球。ここアンヌンの地の奥深く、溶岩渦巻く鍾乳洞で、今しも悪魔どもの血みどろの狂宴が始まっていた。
「クッ…！　う、ぁ…ッ！」
「なんだよ、まだこんだけじゃ足りねえってのか、お前？」
　浅黒い肌に引き締まった体つきの悪魔が、溶岩溜まりのすぐ近くで、もう一人の悪魔を抑え付けていた。長いくすんだ金色の髪が乱れて岩盤に散っている。
「ナ、デュー…、キサマ…ッ！」
　俯せに押しひしがれ、後ろ手に鎖で縛り付けられている悪魔が、不自由な首を、それでも後ろに回して自分を組み敷く男を睨んだ。
「へ、え…、イイ顔だぜ、オマエ。もっと楽しませくれよ、なァ？」
　ナデューと呼ばれる火と破壊の悪魔は、新たな獲物の肩を強く咬んだ。
　ひく、と白い躯が震える、痛みか快楽か。
「なンだよ、オマエ、痛くされる方が感じるのか、クレイドル？」
「バカ、な…ことを言うなっ…！　俺は…、うぁ…んっ」
　クレイドルの細い眉がぎゅっと寄せられた。苦しげに喘ぐその躯を、一匹の白蛇が絡め取っていた。赤い舌先が、奇妙に人間じみた動きでクレイドルの脚の付け根を嬲っている。容赦なく執拗に。
　クレイドルの両腕を縛めている物は、彼自身が身につけていた鎖だ。力強い腕を首に巻かれ、意識が遠のいた隙に衣服を剥がれ、縛り付けられたらしい。
　何故、そんなことになったのか、クレイドルも恐らくナデューも分からなかっただろう。何気ないやり取り、或いはそれが売り言葉に買い言葉だったのかも知れない。
　逃れようともがく。クレイドルの腰の辺りに不愉快に熱いものが押し当てられている。それから、逃れたかった。この腕から逃げ出さない限り、彼に反撃の機会はないのだ。
　それに、彼は自分が犯されることなど考えてみたこともなかった。誰もが彼の力に屈服し、その獲物を傷つけ堕とすのが彼の至上の快楽だったのだから、このような事態が招来されるなど、彼のどんな昏い夢にも出てきたことがない。
　だが、男の指は何の躊躇もなく、彼自身を掴み扱き上げる。もたらされる快楽だけは確かなものだったが、それだけに屈辱が深まっていく。
「離せ、ナデュー…ッ！」
　身を捩る。腕に食い込む鎖が、ギチリと音を立てて軋んだ。
「クク…、何だよ、感じてやがるのか、オマエがよ？　オレはまた、こんなことじゃ感じねえンじゃねェかと思ってたぜ」
　後ろから大きく開かされた足の間に、精悍な躯が割り込んでくる。自らの欲を誇示しつつも、決して決定的に彼を引き裂こうとはしない。それは、優しさでも何でもなく、ただ、少しでも長くクレイドルを嘲弄し、苦しめる為だけの手段だった。
　指が、クレイドルの全身を隈無く探る。敏感な部分を探し当て、執拗に弄ぶ。案外素直に反応を返す躯に意外の感を覚えつつ、更に嬲るような言葉を口にする。
「なァ、こんだけじゃつまンねえよな。もっとイイ顔見せてくれよ。そうすりゃ、オマエだってもっとラクに気持ちよくなれるンだぜ？」
　返事は、なかった。ただ、この男の腕から逃れようと、白い躯が淫らに波打つ。堅い岩盤に肌が引き裂かれ、所々に赤く血がにじみ出している。
　ククク…、とナデューは声を立てて笑った。
「オマエなら、こう言うだろうなぁ、クレイドル。『白い肌に赤い血がよく似合う』ってな。…オレも、そう言わせてもらうぜ、なァ？」
　カッとクレイドルの白い頬に朱が上った。屈辱よりも怒りだった。何よりも、こんな無様な自分に腹が立つ。こんな男の腕を払いのけることも、快楽を拒むこともできない非力な自分が、無性に悔しかった。
「離せ、俺を………っ！」
　叫びは悲鳴に近かった。理性のタガが外れたか、白い背から黒い羽が勢い良く開き、空中で苦悶にのたうった。
「イ・ヤ・だ・ね」
　一言の元に否定して置いて、ナデューはゆっくりと腰を進めた。
「イイか？　いいンだろ？　なァ、言ってみろよ、オマエの口からよ」
　乱れて地に広がるクレイドルの長い髪を、根本からグッと掴んで持ち上げた。
　痛みに仰け反る白い首に、冷たい血の蛇が絡みついた。
「ウッ…」
　不自由な体勢で、抵抗することすらできなくなってしまったクレイドルは、それでも抗うことをやめようとはしない。だが、それすらも快楽を誘う媚態でしかないとは気づきもせず。
　男から逃れようと淫らに腰を振る姿に、ナデュー自身も煽られてくる。空いた手でその暴れる腰を抑え付け、一気に引き裂いた。 　仰け反った喉から声にならない掠れた苦鳴が上がる。あまりの痛みに、叫ぶことすらできなかった。
「…イイな、その声…。オマエがそんな…色っぽい声出せるなんて、知らなかったぜ」
　手荒く腰を動かす。容易に動けないほどきつくソコはナデュー自身を締め付けていたが、構わず強引に引き出してはまた押し込む。傷つき、裂けた傷口から溢れる血が破瓜にも似て、一層酷く引き裂いてやりたいという救いがたい思いが募った。
　痛い、ただそれだけがクレイドルに感じられるものだった。男の律動は吐き気を誘うばかり。灼熱する痛みが瞼の裏で赤く爆発し、屈辱の炎は、自分を犯している男の顔を思い起こさせた。
　だが、最早クレイドルは拒絶の言葉すら口にすることはできなかった。声を出したら、際限ない叫びになりそうな気がして。そんな声など、絶対に聞かせたくなかった。
　けれども、男の楔は容赦なく打ち込まれ、かつて味わったことのない痛苦に、クレイドルは失神せんばかりだった。
　クレイドルの、案に相違して細い腰を押さえていたナデューの片手が、前に回された。
「何だよ…、もうビンビンじゃねェか。そんなにオレのがイイのかよ」
　ナデューの手に握られたクレイドルのそれは、既に熱く張りつめ、今にも放出せんばかりにひくひくと痙攣していた。
「素直にイイって言ったらよ、…イカせてやるぜ。なァ？」
　掴んだ髪をぐい、と引き寄せて耳元で囁く。獲物は、手の中で微かに首を横に振った。
「だ、れが……そのような………っ！」
　強情な言葉ににやりと笑うと、ごく緩く、手の中のものを扱いた。
　白い体が震える。堪えきれずに滴った先走りの透明な液が、ナデューの手を濡らした。
　そのせいで、ナデューに引き裂かれている箇所が更にきつく窄まった。元々男を受け入れるように出来ているわけではない器官だけに、ナデューの物も千切れそうなほどきつく締め付けられる。
「オイ、そんなに締めるなよ、…出ちまうじゃねェか」 　無茶なことを言う。が、最早クレイドルの耳には入っていなかった。
「ま、いいゼ。…そんなイイ顔見せてくれたンだしなァ。ご褒美だゼ」
　そして、再び腰を前後に動かし始め、それに合わせるようにクレイドルのものも扱いてやる。僅かに、その部分の緊張がゆるんだようだ。徐々に動きが早くなる。
「イク、ぜ…？」
　暗い地の底に、二つの欲が解き放たれた。

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赤面通り越して顔面蒼白って具合です（笑）
昔の私…トンでたなぁ…。ほぼ１年前の作品。
最初はこういうイメージだったんですよ、ウチのナデュクレは。
それが何故か今やあんな始末に…（笑）
勿論、文句・罵倒は大いに受け付けます。