「ＤｏｋｉＤｏｋｉ★うさぎちゃん」
春になってきて気候がぽかぽかすると、何とはなしに人は浮かれる物だ。
勿論、悪魔の森に棲むギアとても例外ではない。
だが、一つ困った事態が生じてきた。
それは、不定期に生じる「うさぎ化」である。
テスタメントの頭に耳が生え、尻尾が出来ると、精神までうさぎ的になってしまうのであった。
知っての通り、うさぎは極度の寂しがり屋で、寂しくて死に至ることすらある。
流石にギアが寂しさに焦がれ死にすることはないけれど。
それでも、寂しさの余り何も手につかなくなってしまうのだ。
ソファーで足を抱えて、何時戻るとも知れぬ恋人の帰りを待ちわびる。
『まま、どうしたの？ 元気ない…』
みゃうぅぅぅ…。
ちび達と猫たちが心配そうに寄ってくる。
「うぅん、何でもないから、心配しなくていいんだよ」
母の如き包容力で、ちびと猫を抱き締める。
けれど、彼が本当に欲しいのは、自分を抱き締めてくれる恋人の力強い腕であった。
あの厚い胸板に抱かれ、その鼓動を感じたい。
「ソル・・・早く帰ってきてよぉ…」
そのうさぎの耳に草を踏みしだいて近づいてくる、幾分重い足音が聞こえてきた。
「ソルだ！」
ぴん！と長い耳が跳ね上がった。
こんな場所に訪れる人間は限られている。
というより、ソル以外には、テスタメントは考えられなかった。
足音はドアの前でぴたりと止まった。
「お帰りなさぁい、ソル♪」
勢い良くドアを開けて、テスタメントはその人物の胸に飛び込んだ。
「…おいおい、随分派手なお出迎えだな、レィデー」
「え…？ ソル…じゃない・・・！」
テスタメントが飛び込んだのは、黒コートの伊達男ジョニーの胸の中だった。
そのままの体勢でテスタメントは硬直した。
「絶対ソルだと思ったのに〜〜〜〜〜」
うるうるした赤い目でテスタメントはジョニーを見上げた。
まるで、ジョニーが悪いとでも言うかのように。
「おいおい、どうしたんだい、レィデー」
そう言いつつ、ジョニーはテスタメントの頭でしんなりと項垂れるうさぎ耳を見た。
「…話には聞いていたが…こいつは、アンフェアーなキュートさだぜ」
ジョニーの小声の呟きはテスタメントには届かなかった。
「何でソルじゃないの〜〜〜」
子供が駄々をこねるように、テスタメントは半べそをかいた。
「一人で寂しいなら、俺はいつでもこの胸を貸すぜ、レィデー」
さりげなく、ジョニーの腕がテスタメントの細い腰に回された。
「・・・何やってんだ、てめぇ」
その後ろから、押し殺した不機嫌な声。
「おや、お早いお帰りで」
「離れろ、そして帰れ」
勿論そこにいたのはソル。
元々無愛想な顔が更に仏頂面になっている。
「あ、ソル〜〜〜〜」
喜んで駆け出そうとしたテスタメントをやんわりと抱き締めたまま、ジョニーが言う。
「俺はこのレィデーに用がある。それを済まさないうちは帰れないねぇ」
「煩ぇ、帰れ！」
おやおや、ジョニーは胸の内で呟いた。
こんなに感情的なソルってのも、珍しいんじゃないかい？
「やれやれ、しょうがないねぇ。じゃ、テスタメント、ディズィーが是非遊びに来てくれと言っていたからな。何時でも来てくれよ」
「あ・・・、うん。分かった」
「次に会う時も、そのキュートな耳を付けておいてくれよ」
気障な仕草で手を振り、ジョニーは悠々とソルの隣を通り過ぎた。
「・・・次やったらブッ殺す」
「じゃぁ、見つからないようにやらないとな」
一瞬、男達の間に激しい火花が散った。
勿論、ジョニーはソルをギリギリでからかうのが楽しいのであった。
悠然と消えていく背中を振り向きもせず、ソルはテスタメントの元へ歩み寄った。
「ソル、お帰りなさい」
ぽす、と恋人は胸の中に飛び込んできたが…。
その身体を抱き上げ、ソルは我が家へと足を踏み入れた。
そのまま居間を横切り、寝室へ直行する。
「え？ ソル…？」
腕に抱いた躯を、幾分荒っぽくソルはベッドに投げ出した。
「やだ、何・・・？」
がたがたと椅子を引き寄せ、ベッドの脇に置くと腰を下ろした。
「ソル、どうしたの？」
すり寄ってくるテスタメントの服を、手早く脱がせる。
「やだ、もう…」
両手で躯を隠し、はにかんで赤くなるのが可愛いと思う。
だが、可愛いからこそ、この気持ちも沸き上がってくるのだ。
「お前は、俺以外の奴に抱きついた。…そのお仕置きだ」
「え…？ だって、あれは絶対ソルだと思って…」
困ったような顔をする。
寂しかったのだという、その気持ちも分かるが。
年甲斐もなく妬いている、ソル＝バッドガイ（推定２００歳）であった。
「ダメだ」
ぴしゃりと言って、ソルは両手足に巻いたバンドを外した。
危険な物を感じ取って、逃げようとする躯を押し倒す。
素早く、バンドで両手首と足首を戒める。
「あ、いや・・・」
反射的に躯を丸めようとするのを押さえつける。
「こら、真っ直ぐしろ」
泣きそうな顔でソルの顔を見上げると、その口元に悪戯な笑みが浮かんでいた。
ぴん、と耳が伸びる。
何か良からぬ事を企んで、楽しんでいる表情だった。
「ソルのエッチ〜〜〜〜〜」
半泣きの表情を浮かべるが、断固としたソルの顔を見て悟ったらしい。
おずおずと足を伸ばす。
「こっちもだ」
戒められた両手も真っ直ぐ頭上に伸ばされる。
一本の美しい棒となって、テスタメントはソルの目に晒された。
椅子に腰掛けたまま、ソルはじっと恋人の美しい裸身を見つめていた。
いつも肌を重ね合うとは言え、一方的に見られることは余りない。
恥ずかしさに、全身が火照ってくる。
「み…見ないで・・・」
小声で呟くと、ソルはにやりと笑った。
「こんだけじゃ、足りねぇよな」
問い返す間もなく、テスタメントの目に何かが被せられた。
それは、ソルの額を覆っている、ヘッドギアだった。
「やだ、ちょっと…」
完全にテスタメントの視界は覆われた。
ギアとは言え、透過性レーダーの目を持っているわけではない。
「さぁて、これから、ウサギの観察といくか」
「やめてよぉ、ソルゥ…」
哀願する声は、羞恥に揺れていた。
けれど、振り解こうと思えばいくらでも出来るのに、そうしようとはしない。
つまり、テスタメントはソルの悪戯を受け入れる気になっているのだ。
愛する人が喜んでくれることなら、何でもしてやりたい。
そう思ういじらしい心が、テスタメントの中にある。
その為になら、どんなことにでも耐えられる、と。
「先ずは・・・」
男の指が、うさぎの耳を軽く引っ張った。
「あっ・・・」
ぴくり、と躯が震える。
「そーかそーか、此処は感じるんだな」
あやすように耳を玩ぶ。
くすぐったいような気持ちがいいような、不思議な感覚だった。
「次は、と…」
「あぁんっ…！」
次に刺激が来たのは、思いも掛けない場所だったせいか、テスタメントは盛大な声を上げてしまった。
「いや、ソルッ…、そこ、いやぁ・・・」
ソルは、テスタメントの足の親指を口に含んでいた。
こそばゆさが、もどかしい快楽となって、ダイレクトに躯の奥に届くようだった。
細い躯をのたうたせ身悶えるが、暖かくて柔らかい口腔から逃れられない。
優しく歯を立て、軽く舐める。
性器を愛撫される以上にはしたない嬌声が、テスタメントの唇を割った。
「あぁんっ…ソル、イヤァァッ…！」
どれ程の時間が過ぎたか。
それは、僅かな時間だったに違いない。
気付けば、ソルの躯は離れていた。
一瞬、一人きりで虚空に放り出されたような錯覚。
全身が触覚だけになってしまったかのような。
どこかに触れて欲しい。
一人ではないのだと、安心したい。
男の太い指が剥き出しの脇を撫で上げる。
掠め過ぎるだけの微妙な感覚が、物足りなくさえ感じられて。
「ソル…、お願い、これ、取って・・・」
「…俺は今、うさぎの研究中だ」
そう言えば、ソルは昔何かを研究していたんだっけ…？
何だったかな。
今のソルからは想像もつかなかったけど…。
「此処はどうだ？」
「きゃっ…！」
湿った舌が、臍の周りを舐める。
鎖骨の上を指が辿り、頬にキスが落とされる。
永劫にも等しい愛撫の拷問が、テスタメントの理性を崩壊させていた。
それでも、触れて欲しい場所にはソルは触れない。
目隠しの所為で、次にどこに触れてくるか予測もつかない。
手と唇で、散々踊らされ、よがり声をあげてしまう。
「じゃ、今度は後ろだな」
頭上からの声。くるりと軽く反転させられる躯。
「これか？」
形のいい尻には、これまた丸く可愛らしい尻尾。
その尻尾をちょっと引っ張る。
「あっ、いや・・・」
ぴょこん、と尻尾が揺れ、耳が跳ね上がる。
滑らかな尻を撫でながら、ソルは肩胛骨の辺りに舌を這わせる。
「あぁんっ…！ やめ…そこ、やぁ…」
もぞもぞと逃れようと身動きするが、男にのしかかられて碌に動けはしない。
ただ艶めかしく躯をくねらせるばかりだ。
愛撫を続けながら、ソルは手早く服を脱いだ。
腹に腕を廻し、腰を上げさせる。
「あぁ…ソル、早く・・・、頂戴…」
焦らされ、高められたテスタメントの躯は、欲情に仄かに赤く染まっていた。
透明な蜜が溢れんばかりに満ち、未熟な男は硬く張り詰めている。
「なんだよ、こんだけでもう我慢できねぇのか？」
そういうソルの声も、欲望に上擦っていた。
「だって…だって…！」
苦しげに首を振る。
一頻り濡れそぼったそこを目で犯し、舌なめずりすると、一気に引き裂いた。
「あぁっ…、ソル・・・！」
テスタメントは、その熱い楔に狂わされ、泣き咽んだ。
男の腰が動く度、あられもない嬌声を上げる。
行かないで、行かないで…ドコニモイカナイデ…
心と体をソルという炎に貫かれ、テスタメントはそう叫び続けた。
いやらしく濡れた音が羞恥心を煽る。
これでいい。このまま、ずっと。
快楽の波に揺られ、幾度も絶頂の高みに昇り詰める。
この男以外の誰も欲しくなどないのだ。
「ソルッ・・・！」
躯の奥に男の熱い迸りを感じた瞬間、テスタメントは幸福に酔いしれ、失神した。
ぐったりと気を失っているテスタメントを見下ろし、ソルは微かに笑った。
可愛くて、愛しくて。
そして、詰まらない嫉妬にかられた自分が可笑しくて。
全く、お前だけだぜ、こんな気持ちにさせるのは。
心の中で呟く。
照れくさくて余り言葉には表さないけれど、ソルはこの両性のギアを愛していた。
それが、紛うことのない事実。
愛しくて、引き裂いてしまいたいほど。
誰の目にも触れさせたくないなんて、子供じみた欲。
そんな想いを嗤うと、ソルは恋人の隣に横になった。
今夜は抱き締めて眠ってやろう。傍にいられなかった月日の分だけ。
目覚めたとき、テスタメントは最大の幸福で愛しい男の寝顔を見ることだろう。
それが、永遠の始まり・・・。
〜Ｅｎｄ〜
