「流れ行く時」

或る嵐の夜。その旅人は来た。
奇異な形状を持つ剣を提げ、その肩に傷ついた美しい人を担ぎ。
低い声で一言二言。
ルームキーを受け取って、早々に部屋に消えた。

数時間前。
ソルは、幾度目か、あの美しい死に神と対峙していた。
「これ以上、我らの仲間を殺させる訳にはいかん」
細身の躰に似つかわしくない大鎌を手に立ちはだかる。
「またてめぇか。しつけぇ野郎だぜ」
ギアの死骸が転がる荒野で、二人は戦った。
そして・・・。
またしてもテスタメントはソルの圧倒的な力の前に敗れ去ることになった。
「な・・・ぜ…、私は、お前に・・・・・・」
傷ついても傷ついても立ち上がってくる。
そのしつこさにいい加減辟易しながらも、ソルはテスタメントを犯した。
本当は、犯さねばならぬ理由などない。
けれど、これは最早一種の儀式となってしまっていた。
もしかしたら、この躰が忘れられなくなっているのかもしれない。
「いやだ…っ、イヤッ…！　止めろぉ…っ！」
強引に広げられた足の間で男の躰がリズムを刻んでいる。
その躰を押し退けようとした両手も、男の手に抑えつけられている。
もがく足は、無駄に地を蹴るばかりだった。
「痛い…っ、いや…だ……！」
押しひしがれ、苦痛に歪む顔が扇情的だった。
「てめぇが力抜かねぇからだ…」
その両足を肩に担ぎ上げ、男は更に深くテスタメントを犯した。
節くれ立った雄が、テスタメントの内部を軋ませる。
逞しい上体が、テスタメントの細い体に覆い被さってきた。
・・・熱い。
ふと、屈辱の中でテスタメントは変化を感じた。
男の熱い息遣いと、躰の疼きを。
下腹部の不快感は変わらないものの、痛みは以前より軽減されていた。
その理由も分からないまま、テスタメントは男を受け入れていた。
「あぅっ…あぁっ……いや…」
息が弾む。男のリズムに合わせるように。
何故か、テスタメントは感じ始めていた。
引き裂かれるほどの痛みもないのは、ソルが手加減をしているからなのだろうか。
熱く太い楔が、テスタメントの狭い女を一杯に塞ぎ、突き上げる。
もう、苦しくなかった。
いつしか、こうして躰を奪われることに慣れてしまったというのか。
懸命にその考えを振り捨てようと思うのに、躰には力が入らなかった。
真新しい傷口から、絶え間なく血が流れていく。
失血が体力を奪っているのも事実だったが、それだけでないことにも気付いてしまった。
まさか、私は・・・。
愕然とする。
そんなことはあり得ないのだと、その考えから逃れようと再び激しく抵抗した。
「イヤだ、いやっ…！　やめろ……っ！」
兎に角この恐ろしい考えを認める訳にはいかないのだ。
「・・・うぜぇな。黙れ」
苛立った声が聞こえる。
ソルの手が、テスタメントの細首をぎちりと掴んだ。
…そうだ、こうでなければ…。
この男は私の躰を奪い、私はこの男を殺す。
それだけだ。
薄れ行く意識の中で、テスタメントは安堵したように微笑んでいた。

重い瞼を上げると、そこは見知らぬ一室だった。
「・・・ここは？」
鉛のように重い手足に力を込め、起き上がる。
「起きたか」
はっと声のする方を見れば、壁に凭れて煙草をふかす男の姿。
「貴様……！」
得物を探そうと伸ばした手にも、足にも包帯が巻かれている。
テスタメントの動きが止まった。
「これは…貴様が…？」
黙ったまま、ソルは煙草をふかしている。
室内に紫煙が広がる。
その煙を目で追いながら、ソルが低い声で呟いた。
「…テスタメント・・・」
一瞬どきりとする。
名前を呼ばれたのは初めてだった。
「お前………」
後は言葉にならなかった。
黙って窓の外に目をやり、煙草を燻らせる。
「…貴様、何故、私を助けた。…ソル」
テスタメントの唇が、初めてその名を形作った。
胸の奥でぞわりと何かが震えたような気がした。
「・・・ただの気紛れだ」
何の情もない声が低く答える。
テスタメントはきっと男を睨み付けた。
「気紛れだと…！　貴様、たったそれだけの理由でこの私にこの様な屈辱を…！」
ソルは片頬に意地の悪い微笑を浮かべると、寝台に座ったままのギアに歩み寄った。
「言い方が気に入らねぇなら、変えてやるぜ」
ゆっくりと躰を折り、唇が触れ合うほどに顔を近づけると。
「…退屈しのぎ、だ」
バシッ、とソルの頬が鳴った。
「ふざけるな…！　貴様…」
「…上等だぜ」
噛みつくように唇を重ね、強引に舌を差し入れる。
突き飛ばそうとした両手を捉えて動きを封じ、そのまま寝台に押し倒す。
「んっ……んぅっ……」
テスタメントの美しい眉が曇った。
舌の動きに誘われるように、覚えのない感覚が深く躰の奥から突き上げてくる。
「離せっ！貴様…！」
キっとソルを睨み付け、衣服の乱れを整えると、テスタメントは寝台から離れた。
「…次は、必ず貴様を殺す、ソル。私を助けたことを後悔して死ね」
ソルは挑戦的な笑みを浮かべた。
「…犯されたくなったら、また来るんだな」
美しい眸に怒りの色を燃やしながら、テスタメントは窓から虚空へ身を躍らせた。
黒い死に神は闇に消えた。

ギアの王国。その中にあるテスタメントの部屋。
ただ殺戮を繰り返すだけの兵器ではない彼は、自分の部屋を持っていた。
大きな姿見の前に立つ。
戦う者に相応しくない、細身の躰が映っている。
ゆっくりと衣服を脱ぎ落とす。
全身に、きちんと包帯が巻かれている。
さらさらとその包帯を解くと、傷はもう殆ど癒えていた。
「ソル・・・」
鏡に触れる。
そこに映っているのは、頼りなげで不安そうな青年の顔。
凶悪な悪魔の顔ではなかった。
瞬間、その中を過ぎる男の影。
思わず振り向いたその気配は、無論ただの幻でしかなく。
カシャーン・・・
乾いた硬質な響き。
テスタメントの拳が、その鏡を叩き割っていた。
「・・・次こそ、…今度こそ・・・、ソル…」
何かが、彼の中でゆっくりと変わり始めていた。

〜Ｅｎｄ〜

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初めてのベッドトーキング、ではなく、ただの会話になってしまいました(^^;;;
いやいや、失敗。
これが精一杯、です。
でも、…まぁこんな感じでしょうか。
次は〜どうなんでしょうねぇ〜。
まだなんも考えてないや（笑）
早く続きを考えよう。
どうなったら、これがラブラブになるのかにゃ〜（笑）