肌を侵蝕する冷気に、重く怠い眠りからゆっくりと覚醒していく。不快な倦怠感が躯の芯に残っていた。
「・・・・・・っ！」
今度こそはっきりと目覚めた。一体、どうしたことだ、これは。
「んんっ・・・！」
声を上げようとしたが、くぐもった呻き声が口から洩れただけだった。身を捩るが、躯の自由が利かない。口を覆う布を取り去ろうとした手は、後ろ手に縛られていた。
「おや、殿、お目覚めですか」
目の前に、左近の男らしい顔があった。いつも通り穏やかで不敵な笑みを浮かべている。
そうだ、確か左近の邸で月を眺めながら酒を飲んで…そこから後の記憶がない。
「んっ…！ んっ…！」
「あぁ、そんなに暴れないで下さいよ。…って言っても無理か」
笑いすら含んだ声で宥めるような言葉を掛ける。大きな手が、三成の栗色の髪をそっと撫でた。
何故、どうしてこんな事になっているのか分からない。ただ、恐らく自身の身に付けていた扱きに口を塞がれ、両手を縛られて柱にもたれ掛かっていることだけは確かだった。
単衣は胸がはだけられ、白く細い肩と薄い胸が露わになっている。春とは言え、まだ夜は冷える。冷たい夜気に肌は一層青白く血の気もない。
下帯は取り払われ、大きく裾を割られてしなやかな足も露わに投げ出されている。その足の間に左近が、いた。
「んんっ…、う、ん…」
「何故こんなことをするのか、不思議ですか？」
身を捩りもがき、左近を蹴りつける三成の白い足が、闇の中で一つの生き物のように見える。
必死の、それしか出来ない抵抗を、左近は楽しそうに見遣ると、のたうつ足を捕らえ大きく広げた。
「何、簡単なことですよ。太閤殿下のお言いつけ通りにしようかと思いましてね」
確かに左近は太閤秀吉手ずから羽織を下賜され、今後は万事三成と心を合わせよと言われた事がある。勿論、その時は素直にそう思っただけであったが。
「んっ、ぅんっ…！」
膝裏に手を当て、限界まで足を開かせると、じっと其処を見つめる。虚しい抵抗を続ける筋肉の動きが、余りに必死で愛おしさすら覚えた。
「心を合わせるには、先ず肌を合わせるのが一番かと思いましてね」
三成の目が大きく見開かれた。そんな馬鹿な話があるものか、と声を出せたら叫んでいただろう。
「…おっと、しゃべりすぎましたかね。あんまり放っておいちゃ、こいつが可哀相だ」
左近の手が露わにされた其れに触れた。激しく三成は首を横に振って、拒絶の意思を伝える。
何、事実は簡単なんだがね、と左近は胸の内で呟いた。その、美しい顔に欲情を覚えた。確かにその志にも賛同できる、良い主君だとも思う。だが、才走ったその小生意気な綺麗な顔が必死に懇願し、泣き乱れる姿が、ただ見たいと思った。それだけのことだった。
「ご奉仕させてもらいますよ、殿」
いつもは頼もしい笑顔が、今だけは三成には怖く感じられた。明らかな獣欲に狂った目なら、幾度も目にしてきた。ただ、欲を吐き出したいだけの、理性を失った獣。だが、今の左近はそうではない。平常と何一つ変わってはいないのだ。それが、怖い。
「んーっ…！」
大きな武骨な手が、思いの外しなやかに動いて、三成自身を扱き上げた。
「へぇ…流石に感度は抜群ですね」
にやりと、初めて左近が知らぬ顔で笑った。
せめて足を閉じて隠したいのだが、足の間には左近の逞しい躯がある。ただ、逃すまいと締め付けているようにしか見えなかった。
「んっ…、んんっ…！ う、うぅっ…！」
「では、失礼をして」
一見恭しい態度で頭を下げると、左近は三成の首筋に舌を這わせた。忽ち三成の首筋が強張る。おぞましい、こんな…。
暖かい舌が幾度も丹念に細い首を上下すると、何かむず痒いような妙な感覚が沸き上がってくる。
腕の下でぴくりと躯が震える。明らかに弱くなった抵抗力を見極めると、左近は三成自身を扱き上げる手を早めた。
舌がゆっくりと下がっていく。耳朶から首筋、鎖骨の窪み、そして薄い胸の小さな乳首へと。
「んんーっ！ んっ、ぅんっ…！」
身を捩り、もがく。細い肩が震えた。こんなのは嫌だ。
だが、それしかできない抵抗は、ただ艶めかしく身を震わせて男の愛撫に応えているようにしか見えなかった。
「おやおや。もっと、ですか」
笑いながら左近が言う。一瞬躯が浮いたと思うと、三成は左近の膝の上にいた。
二箇所から与えられる快楽に、青ざめていた三成の躯はうっすらと汗ばんでいた。
ぷくりと膨らんだ乳首を舌先で押し潰すように転すと、抵抗だけではない微弱な身悶えが含まれたようだった。
嫌だ。嫌だ、こんな…。それなのに、無理強いをしている筈の左近の手は、暖かくて優しかった。
「う、んっ…、んっ…！」
熱が昂ぶっていく。感覚が嫌でも其処へと集中してしまう。
「そろそろ限界、ですかね」
耳元で左近の声が低く囁いた。
「どうぞ、俺の手に」
「うぅっ…！」
三成は激しく首を横に振った。そんな無様はしたくない。
けれど、強く扱き上げられて追い上げられていく、その流れには逆らえなかった。
「・・・・・・んっ！」
三成の躯が大きく痙攣した。自身の腹に生暖かい雫が飛び散り滴った。
「・・・・・・！」
美しくきつい目が、険しい光を湛えて左近を睨み付けた。怒りと屈辱から、切れ長の目尻に涙が浮かんでいた。
「いいねぇ、その顔。ぞくぞくしますよ」
その顔が、左近の欲望に漸く火を付けたようだった。三成の精に濡れた指が、更に奥を目指して下がっていく。
ぞわりと三成の背に悪寒が走った。彼も戦国の世に生きる者。衆道が何か知らぬ訳ではない。この先に待つものに思い至り慄然とした。まさか、信頼する家臣にそのような事をされるなど、考えたこともなかったのだ。最早自分は小姓などと言う年齢でもないのに。
畳を、左近を蹴りつける足が一層激しく暴れた。
「駄目ですよ、そんなに暴れても。…もう、遅い」
左近が三成の腰を引き寄せた。柱に括り付けられた腕が引かれ、肩が外れそうに痛んだ。
「んっ…！ う、んっ…！」
細い眉が寄せられる、苦悶の表情が美しかった。
ぬるついた太い指が、容赦なく三成の体内に侵入してくる。
「んーっ…！」
吐き気がする。気持ちが悪い。それより何より、左近にこんなことをされているのが、胸に痛い。
ぽろりと大粒の涙が三成の頬を滑り落ちた。
「・・・もっと、泣かせてあげますよ、殿」
優しい、声。それが酷いことを口にして、また優しく三成の頬を濡らす涙を吸った。
ちらりと三成の視界に入った「其れ」は、三成が見たこともない程のものだった。「そんなもの」を受け入れるなんて到底できそうにない。思うだけで恐怖に体が竦んだ。
だが、三成の恐怖になどお構いなく体内で蠢いていた指が引き抜かれ、次の瞬間。
「・・・・・・っ！！」
灼熱の、衝撃。まだ充分に解れたと言えない其処に、ねじ込まれた熱い楔。
余りの衝撃に三成の意識が飛んだ。腰を掴まれ揺さぶられ、痛みに覚醒するも、突き上げられまた失神する。そんなことを幾度繰り返しただろう。
「う、んっ、んんっ…」
最早止めようも無くなった涙が、三成の白い頬を流れ落ちる。
「痛いですか？ 大丈夫ですよ、すぐに良くなりますからね」
左近の膝に抱き上げられている所為で、三成は其れを根本まで銜え込んでいた。
勝手なことを言うな、痛くて苦しいだけだ。そう言いたい三成だったが、左近の広く逞しい背を見ていると、こんな時だというのに、奇妙な安堵すら感じてしまう。両手が自由であったら、この背に縋り付いてしまったかもしれない。
「ま、可愛いお声は次の楽しみに取っておきましょ」
おどけたように言うと、左近は三成の細い腰を掴んで下から激しく突き上げた。
裂ける。体が引き裂かれてしまう。もしも声を上げる事ができたら、一体どんな無様な悲鳴を上げたことだろう。
目の前で仰け反り震える白い喉頸に、左近は軽く咬み付いた。いっそのこと咬み千切ってやりたいぐらいだ。
左近、左近、左近…！
胸の内で男の名を呼びながら、三成の意識は白く洗われていった。
深更はとっくに過ぎ、夜明け前の深い闇が支配する空間で、左近は己の下でぐったりと死んだように眠る主君を見ていた。
細工は簡単だった。二人きりの月見の宴に招き、酔い潰れた所を縛り上げる。それだけ。余り酒の強くない主人の酒に、ほんの少量の眠り薬を混ぜるだけで事足りた。正体もなく眠る顔が、年よりもあどけなく見えて可愛らしいと思ったものだ。
途中で幾度も意識を失う程激しく責め続け、とうとう何の反応も返さなくなってから漸く、その戒めを解いてやった。
「次にはお声をたっぷり拝聴させて頂きますか」
乱れて額に掛かる髪を撫でてやりながら呟いた。
殿の罵声を浴びながらするのも悪くはないなどと思う。やがて、その声が甘い喘ぎに変わる時を思うと、楽しみになる左近だった。
「ま、明日は大激怒でしょうが」
容易にその様子を想像できる。どれ程怒っても、腰は立たなくなっているだろうが。
さてさて、どうやって言いくるめるか。胸の内でその為の軍略をあれこれ考えながら、左近は三成の隣に横になった。
この綺麗で生意気で愛おしい主君の総てが、今や欲しくて仕方がないのだった。
西に沈もうとする月は、穢れない夜の闇に、尚白く輝いていた。
〜終幕〜
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溺愛Logisticsの華様とさくら様に差し上げました^^
初めてのさこみつは、やっぱり強姦風味…。
えぇ、ゲームベースだと、うちの左近は結構酷いヤツです。
そのくせ殿にゾッコンですからね（笑）
続きもありますが、それはいずれ、ということで。
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