「情欲訪問販売・深夜」

仁王の背後で扉の閉まる音。背を向けた仁王にゆっくりと近づいてくる男の足音。
背後から柳生の腕が仁王を抱き締めた。
「あ・・・」
ふわりと男の唇が仁王の耳元を掠める。静かに目を閉じ、仁王は決して溺れるものかと気持ちを整えた。
あの長く整った綺麗な指が、仁王のなだらかな胸を優しく撫でる。指先が乳首を掠め、不意打ちに近い感覚にぴくりと体が動いた。
柳生は仁王の下着に手を触れていた。それは、何の変哲もないトランクスで。
「…おや、随分と無粋なものを穿いておいでですね。折角私が素敵なのをプレゼントしてあげたというのに」
笑いを含んだ声が囁く。
「阿呆、あげなモン一人で穿いてられるか」
柳生が先程置いていったのは、到底下着などと呼べそうもない、殆ど紐で出来た代物。申し訳程度の小さな布すらシースルーで、何の役にも立たない。
確かに見せる相手もなくそんな物を着けていたら、色情狂かと勘違いされかねない。
「いけませんよ、もっと美しくいやらしくなって下さらなくては」
「それは…きさんの為やなか」
柳生は満足そうな笑みを浮かべた。仁王からは見えなかったが、それは、穏やかそうなセールスマンのものとは思えない邪悪な美しい笑みだった。
すぐにその気を変えさせてあげますよ。私でなければ感じることもできなくなるほどに。
その言葉を胸深く呟き、柳生は仁王の首筋に舌を這わせた。
戦慄きながら仁王の手がバスローブに掛かった。脱ぎ落とそうという手を静かに柳生は止めた。
「そのままで…」
「けど…」
柳生は淀みない仕草で仁王の下着だけを脱がせた。背後から仁王の胸に腕を回し、引き締まった胸を、脇腹を静かに撫でる。
緊張を解そうとするように静かな長い吐息が聞こえる。
そのまま柳生は床に膝を付き、後ろから仁王の太股を舐め上げた。
「あっ…！」
思ってもいなかった場所への愛撫に、思わず声を上げる。
その声に柳生は少しだけ笑みを浮かべた。思った通りだ。何と良い反応を返すことだろう。
そのままバスローブの裾をたくし上げると、目の前の小さな形良く引き締まった尻の割れ目に舌を這わせた。
「ひっ・・・！止しんしゃい…！」
柳生の腕の中で、細い体が少しだけ硬くなった。感じているようだ。
「ふふ…ここですか」
優しいのに意地悪な声。そのまま柳生は唇を移し、細い腰骨に噛みついた。
「あぁんっ…！」
前に逃げようとする足を両腕で抱え込んで、更に執拗に柳生は骨張った腰に愛撫を施した。
「やっ…あん・・・」
甘い声。押し寄せる快楽に膝から力が抜けていく。
ずるずると仁王はその場にへたり込んで、床に膝を落とした。縋るように上半身をベッドに凭せ掛ける。
「そこ…やじゃ…、や、あん…」
拒絶の言葉。だが、それは誘惑を通り越して挑発でしかなかった。本気で嫌がって抵抗するつもりなら、体は前に逃げようとする筈だ。それなのに、仁王の白い尻は、柳生の目の前でひらひらと左右に揺れていた。
小賢しくも柳生に挑もうとするその抵抗が、柳生には心地よかった。
私を罠に填めるお積もりですか。宜しい、受けて立ちましょう。
静かな闘志を内に燃やし、柳生は床に放り出しておいたケースを開けた。
「ねぇ、もっともっと、美しくなって下さいね」
仁王の前に手を回し、半ば立ち上がったペニスをきゅっと握りこんでやると、ぴくんと仁王の体が反応した。
耳元に口を寄せ、軽く息を吹きかけてやると、くすぐったそうに首を横に振る。
「可愛いですよ、とても、ね」
シーツに縋っている両手を捉える。カシャン、という軽い金属音。
「なっ…！」
ガチャガチャと金属の擦れる音が仁王の腰の辺りからしている。
仁王の両手は後ろ手で纏められ、無粋な金属で戒められていた。
確かに手錠であったが、仁王の手首に当たる暖かく柔らかい感触。
「貴方の綺麗な手を傷つけたくはありませんからね。可愛いでしょう？あぁ、貴方には見えませんか」
それは、愛らしいボアの付いた手錠。ヒョウ柄だった。
「離せ、こん変態…！」
まさかいきなり手錠が来るとは予想だにしていなかった仁王は、柳生の下でもがいた。
「暴れなくてもいいのに。ただ、気持ちよくして差し上げたいだけなのですから。ね、仁王くん」
そう言うと、柳生は仁王が使い掛けたローションのボトルを手に取った。
仁王の腰の上で傾けると、とろりとした冷たい液体が、仁王の腰から尻へと伝った。
「やっ…冷たか…」
「すぐに暖かくなりますよ、貴方の熱で」
くちゅ、と音を立てて柳生の指が狭間に滑り込んだ。
「あっ…や、ん・・・」
其処は、さしたる抵抗も示さず柳生の指を呑み込んだ。
異物を排除しようと強い締め付けを繰り返し、やがては誘うように息づき始める。
「ほら…。ね、貴方が私のために馴らしておいてくれたのでしょう、仁王くん」
「だ…誰が、そげんこつ…」
柳生の長い指が内部のしこりを掠めた。
「ひっ・・・！」
仁王の体が跳ね上がった。
「ここですか。ほら、良いと仰有い」
「あ、ふっ…。やじゃ…」
ふるふると仁王は首を横に振った。感じているのは明らかなのに、それでも抵抗の様子を見せるのはプライドか羞恥か。
「あっ…、あ、ふ……んっ…や、あぁっ…！」
幾度も前立腺を指先で引っ掻いてやると、仁王は切羽詰まったような甘い声を上げた。
「あっ…や、イク…！」
その瞬間、柳生は指を引き抜いた。
はぐらかされた熱に悶える体を、軽々と抱き上げてベッドに横たわらせる。
「やはり、イク瞬間の顔は見せて下さいね」
熱に潤んだ目が、柳生を見上げていた。総てを放棄したように見せながら、まだ強い意志を残した視線が、柳生を心地よく酔わせる。
柳生は周囲を見回した。先程仁王が買った細いバイブが目に留まる。それを手に取り、すぐに投げ出した。
「こんなものでは足りないでしょう」
柳生の目の下で、男に馴れた其処が、赤く飢えたように息づいていた。
柳生はケースから別の物を取り出すと、仁王の目の前でちらつかせた。
「ねぇ、せめてこれぐらいでないと」
それは、先程の倍以上も太いバイブだった。ぼこぼこと不均衡な大きさの球が連なったような、卑猥で淫靡な形状をしている。
「やっ…そげん太かの…」
くくく、と柳生は楽しそうに喉の奥で笑った。
「何を仰有いますか？旦那様のはもっと太いのでしょう」
見せつけるようにゆっくりと、柳生の手がバイブにローションを塗って行く。あの、形の良い、綺麗な手が。
それがいやらしい水音を立てながら、愛しそうにグロテスクな其れを撫でているのを見て、仁王は得も言われぬ気分を味わった。それは、興奮なのだろうか。
心に忘れようとしていた夫の存在に炙り出される羞恥が、躯の餓えを助長していくようだった。
手が自由になればいいのに。そう思っても、手は腰の下で無情な金属の輪に絡め取られている。手が動けばこの熱を解放する事も、男に取りすがることもできるのに。
「行きますよ」
男の笑みはどこまでも端整だった。
「あっ…、あぁっ…！」
入り口に宛がわれたそれが、一気に仁王の内部に侵入した。
人体では有り得ない凹凸が仁王の快感の源泉を貫き、その衝撃で仁王は達してしまった。
仁王の白い腹と胸と、脱いでいなかったローブに、白濁した液が飛散している。
緩い痙攣を繰り返し、荒く息を弾ませて少し困惑したような顔で柳生を見上げる目に、柳生は満足した。
「あぁ…やはり思った通り、素晴らしいですね」
ゆっくりと柳生はバイブを引き抜いていった。そして、先端部だけ−人間で言う亀頭に当たる分ほどだけを仁王の中に残した。
「とても綺麗ですよ。だから、もっと淫らに美しいところを見せて下さい」
「やっ…、なぁ、…早う…」
仁王は自分がこんな玩具で達してしまったことに恥じているようだった。それに、これでは柳生を自分の躯に溺れさせるという当初の計画が台無しだ。
「欲しいですか？…では、可愛くおねだりして下さいね」
「なん言うと…？なぁ…意地悪せんで、早う…」
欲情に濡れた声が柳生を誘った。このままでは、半端な快楽だけで終わってしまいそうだ。
「ふふ…暫くしていないうちに腰の振り方も忘れたのですか？こんなに淫乱な躯をお持ちなのに」
「なっ…！」
仁王は唇を噛んだ。自分だけが乱れているのがとても嫌だった。柳生はまだネクタイを解いてもいないというのに。それなのに、躯の深いところを咬む焦りに似た餓えが、仁王の理性を押し流そうとしていた。
「いいのですか？抜いてしまいますよ」
「やっ…！抜かんで、なぁ、…なぁ…！」
柳生の目の前で、ゆっくりと仁王の躯が動き出した。
淫らに、貪欲に深く快楽を求めて細い腰が揺れる。
「あっ…あぁ…やじゃ…こげんとは…あぁ…やっ、あ…、あぁっ…！」
もどかしそうに腰が動き、無機物を深く呑み込んで、充たされない躯を埋めようと次第に動きが激しさを増していった。
くちゃくちゃという水音が室内に溢れる。
「綺麗ですよ。えぇ、思った以上に…」
そう言う柳生の笑みこそ綺麗で。まるで人形のように整った笑み。けれど、レンズの奥の瞳は熱い情欲に燃えて鋭い。
「は、ぁ…ん・・・もう…あ、んっ…」
躯から抉り出される快感に、仁王の言葉は最早意味をなしていなかった。白い躯が汗ばみ、うっすらと上気しているのが悩ましい。
「いい子ですね。お利口さんにはご褒美をあげましょう」
あやすような、からかうような声は、普段の仁王なら悔しさと怒りに反発しただろう。だが、今の仁王は、快楽に飢えた獣と同じだった。
柳生は仁王の長い両足を肩に担ぎ上げると、解放を待ち望んで張り詰めた仁王のペニスをそっと口に含んだ。
「やっ…！もう、俺・・・！」
狂乱した声が、柳生の耳に届いた。
熱に上擦った声で幾度も叫び、泣いた。
男の舌が優しく亀頭を舐め、強く吸い上げてやると、しなやかな躯を弓なりに反らせて仁王は柳生の口の中に精を放った。
ゆっくりと、その一滴まで味わうように柳生はそれを飲み下す。苦い味。それは、一種勝利の味だった。
「美味しいですよ、仁王くん」
口元を手の甲で拭いながら柳生が言うと、仁王は熱に潤んだ瞳で見上げてきた。
「手…離しんしゃい」
「何故です？」
そう言うと、仁王は少しだけ照れたように顔を背けた。
「・・・背中、痛か。それに・・・」
言い淀む言葉。それが何なのか、柳生には推測はできなかった。だが、どうやら思い通りに仁王は柳生とのセックスを受け入れたらしいということだけは分かった。
「私の背中に爪を立ててくれるつもりですか」
笑いながら言い、柳生は仁王の躯を俯せにさせると、あっさりと手錠を外した。
「おー痛」
仁王は漸く解放された手首をさすりながら言った。
幾ら柔らかい素材でカバーしてあっても手錠は手錠だ。ほっそりとした手首には、赤い、罪の環。
「痛かったですか」
「当然たい。阿呆」
言いつつ、仁王は柳生のネクタイに手を掛けた。しゅるりと解くと、其の手でワイシャツのボタンを外して行く。
「脱がせてくれるのですか？お優しいですね、仁王くん」
「…俺一人だけ脱いどるのはフェアじゃなか」
そう言いながらも仁王の手は柳生のベルトに掛かった。布地の下に確かにある、熱く勃ち上がった其れの熱に、こいつも何も感じてない訳ではないのだと、心のどこかで安堵していた。
自分だけを感じさせて、よがらせて、それでも何も感じていないと言うのでは、余りにも自分が惨めだ。
「私が欲しいのですね」
分かっていることをわざわざ聞く男の性格の悪さ。口に出して言わせようと言う魂胆なのは明らかだ。
意地でも言うものかと仁王は唇を噛んで顔を背けた。
俺が欲しいなら、欲情に猛り狂って襲いかかってくればいいのに、何で同じ目的なのにこの男はこうなのだろう。今までの男と、何が違う？
「・・・欲しくないと言うのならばそれでも結構」
柳生の手が折角外したシャツのボタンを掛けようとする。
仁王は浅ましく見えないよう、ゆっくりとベッドに身を沈めると足を開いた。
「・・・来んしゃい」
柳生は優しい笑顔を見せた。この男の笑みは、どうしてこんなに優しいのだろう。
「いい子ですね。素直にして下されば、沢山可愛がって差し上げますよ」
さらりと服を脱ぎ捨てる。思っていた以上に、その躯は引き締まり、美しく均整が取れていた。鍛えてあるのに、どこか華奢な感じの残る仁王の躯とは正反対だ。
「…もっと、足を開いて」
目を背け、少し頬を赤らめながら、黙って仁王は言われたとおりに更に足を開いた。
そのすんなりと長い足を肩に担ぎ上げ、柳生は一気に腰を進めた。
「あっ…！」
少しだけ、息が止まる。躯の中に侵入してくるのは、紛い物ではない本当の熱を持った男で。どれだけ、それを求めていたか。
「・・・いきますよ」
そう言うと、柳生は今までの穏やかさを忘れたように、激しく仁王を突き上げた。
「あっ、ああっ…！イイ…っ！い、や…あぁっ…！」
仁王は柳生の背に腕を回した。
「もっと…、もっとキツう…、抱いて…！」
叫び。高く上擦った声。それが、柳生を心地よく快楽へと導いていく。
「あぁ。思った通り、ですね…」
満足の呟き。少しキツイほどの締め付けが、柳生を咥えて離さない。
激しく突かれ、幾度も繰り返し訪れる快楽の波に、仁王は溺れた。こうして抱かれる日を、どれ程待っていたか。
男の楔が体内で暴れ回り、眠っていた快楽を抉り出す。
「あ…イク…あぁ、もう…！…千歳ぇっ…！」
無意識のうちなのだろう、仁王の唇が、夫の名を呼んだ。
その瞬間。柳生の動きが止まった。髪を振り乱し、貪婪に腰を動かし続ける仁王を冷たい目で見下ろす。
「仁王くん、貴方を今抱いているのは誰ですか？」
イク寸前で止められ、とろりと快楽に酔った目が縋るように柳生を見上げた。恐らく、自分が何を口にしたのか、分かっていないのだろう。
「なん言うと…？なぁ、早う、もっと…」
柳生の腕に縋ろうとする仁王の手を掴んで引き起こす。
柳生の腰に跨る格好になった仁王は、自重で最奥まで貫かれ、甘く切ない吐息を洩らした。
「目を開けて、私を見て」
「何…？なぁ、早うシて…」
仁王の腰がいやらしくくねる。もっともっとと更なる快楽をねだる。
「あっ…あぁんっ…、は・・・ぁん…、なぁ、もっと…」
限界まで張り詰めた仁王のペニスの根元を、柳生は強く掴んだ。
「貴方を、今抱いているのは、私です。貴方は私の腰に跨って、私のペニスを咥えて、よがって、泣いて、私を求めているのですよ」
柳生の声は、少し怒りを孕んで熱い。
朧に、仁王は理解した。自分が誰の名を呼んでしまったのか。
けれど、奇妙なことに、そのことに対して怒りを覚えているらしい柳生に、仁王は喜びを感じていた。
「いや…、なぁ、もうイク…、イカせて…」
「・・・私の名を呼びなさい」
ふるふると仁王は首を横に振った。拒絶の意思表示ではない、苦しいのだ。
「私の名を呼んで、イきなさい…！」
仁王の細い腰を掴み、柳生は激しく前後に揺さぶった。
「イヤァッ…！アァッ、イク…！イクゥッ…！や、ぎゅう…っ！」
「もっと…！」
手を止めず、更に腰を動かすと、仁王は柳生の頭を強く抱き締めた。
熱い声が、柳生の耳元で叫ぶ。
「や、ぎゅう…柳生…っ！アァッ…！」
「…いい子です」
その声に応えるように、柳生も激しく腰を突き上げた。
「い…イイッ…！イクゥッ…！」
そして、二人は同時に絶頂に達した。
その後、嫌がる仁王を押さえ付け、柳生は更に仁王を犯し続けた。
仁王は既に三度も四度も吐精して、そろそろ満足しているようだが、柳生の胸の中には、先程の夫の名前という一件が残っていた。これだけよがらせているというのに、仁王は脳裏で夫に抱かれているというのだろうか。
それは、柳生には許し難いことだった。
ぐったりと息を弾ませて躯を投げ出している仁王を横目で見ながら、柳生はケースから更に何やら取りだした。
いびつな洗濯ばさみに細長い筒がくっついたような形をしている。
「それ・・・なんね？」
ぼんやりとした声で仁王が尋ねる。男の腕に抱き締められ、よがらされ過ぎて頭がぼうっとしていた。
「御存知ではありませんか？」
あぁ、天使の如きその微笑。それが、先程から仁王を責め苛んでいるのだ。
微笑みながら、柳生はそれで仁王の小さな乳首を挟んだ。
「ひっ…！何しよんじゃ！」
痛みに驚いて慌てて仁王はそれを払い落とそうとした。
その両手をぐっと押さえ付け、柳生は静かに言う。
「いけませんよ。大人しくしなければ、もう一度手錠を使いますからね」
「イヤじゃ、こげなモン…！」
叫ぶ。その衝撃で緩く止めたボディクリップが弾けるように仁王の乳首から滑り落ちた。
「ひぁっ…！痛っ…！」
その様子を見て、柳生はまたうっすらと笑みを浮かべた。先程投げ捨てた手錠を手に取ると、もがき暴れる仁王を押さえ付け、頭上で再び両手首を戒める。
「こげなんはイヤじゃ。止めぇ…」
切れの長い目が涙に潤んでいる。恐ろしく色っぽく、その艶に柳生は益々煽られた。
「さぁ、暴れないで。暴れるともっと痛くなりますよ」
両膝で仁王の腰を押さえると、もう一度クリップで仁王のぷくりと立った乳首を挟んだ。
只でさえ敏感な場所にそんな物を付けられ、快感よりも痛みの方が先立つ。
イヤじゃイヤじゃと繰り返し首を横に振るけれど、その動きに釣られてボディクリップも揺れ、痛みは募るばかりだった。
「いいですか？」
優しい声がそう言ったと思う間もなく。
「ああああぁぁっ…！」
空気を震わせるモーター音。胸の飾りが、前触れもなく振動し、形容しがたい痛みが仁王の心を焼いた。
「やっ…、いやぁっ…！痛、…痛か…っ！」
止める間もなく涙が溢れ出した。
その涙と絶叫に胸がぞくぞくするような邪悪な歓喜を覚え、柳生は猛り立つ欲望を仁王の腰に叩き付けた。
痛みと屈辱と快楽に我を忘れて、仁王は身も世もなく泣き叫んだ。
「旦那様の名を呼んでごらんなさい」
「ひっ、いやぁっ…！助けて、ちぃ…！ちぃっ…！」
美しい目から涙が転がり落ちる。その時、柳生は確かに嫉妬を感じた。
あがく躯を押さえ、涙に濡れた顔をじっくりと観賞した。どんな顔もいいと思うが、快楽に乱れよがる顔がこんなに美しいと思った人間は初めてだった。
「私を、本気にさせて下さいね…」
柳生の声は仁王の耳には届かない。
ただ啜り泣く仁王の中に、柳生は熱い精を吐き出した。

そして、翌日未明。
柳生はきっちりとスーツを着こなし、仁王の家を後にしていた。
住人はまだ眠っている。眠るというよりも、気絶していると言った方が近いかも知れない。
「・・・いけませんね。また新しい商品を売りにいかなくては」
柳生は少しだけ振り向いた。仁王の携帯に勝手に自分の番号とアドレスを入力してある。今度連絡したら、どんな顔をするだろう。
やはり、罠に填ったのは私ですか。
自嘲気味に心に呟いた。初めて見た瞬間、恋に堕ちたのだ。
ただ、彼は歩いていただけだった。誰かと挨拶をして、髪を掻き上げて。そんな刹那に柳生は恋をしたのだ。
一度抱いたら終わりだと思っていた。一度この思いを遂げたら、それで満足するだろう。所詮一時の想いに過ぎないのだから、と。
けれど・・・。
「もう、離しませんよ、仁王くん…」
聞く者のいない道で低く呟くと、柳生はまだ暗い道を何処かへと消えた。

仁王が目覚めれば一人だった。
全身が怠く、重い。男の姿はどこにもない。汚れた躯さえ綺麗に拭われている。
あれは、悪夢だったのだろうか。けれど、躯に残る気怠さと満足は確かなものだった。
不意にこみ上げてきた罪悪感。招いたのが自分だったとしても。
「千歳ぇ…早う帰って来て…」
丸めた膝の間に顔を埋め、仁王は静かに泣いていた。
この一夜が、決して嫌なものではなかったと言うことすら忘れたように。
次を拒むことができるかどうか、仁王には自信がなかった。

〜to be Continued〜

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やっと…！やっと終わりましたよ、奥さん！（誰だよ）
長ぇよっ！紳士、ネチネチ犯りすぎ！(笑)
割愛した筈のボディクリップは救済しました(笑)
また伸びたよ…(笑)
エロまで前後編になるかと思ったじゃない(笑)
え〜と、これで謎は解けた。ってことですか。
はい、紳士の一目惚れだった訳ですわ。
計算尽くだったんですね、仁王の家に行ったのも。
ということで、後は千歳が帰ってきてからのお話です。
エピローグはちょっと後になるかと思いますが…。
オチなんてどうでもええんじゃっ！という方。
多少なりとご満足頂けたでしょうか？