「恋い焦がれ」

「ぶっちょ〜、俺、今度の土日休むけん、よろしうな」
「はぁ？何アホ言うてんの、全国前のこの時期に」
一人の大男が脳天気な事を言い出すと、声を掛けられた美少年は頓狂な声を上げた。
「何や、どないしたん？」
珍しい事もあるもんだとわらわらと部員が寄ってくる。
「俺なぁ、もうどげんしてもまさに会いたかとよ」
「ちょぉ待ち。アレか、前に言うてた昔のオトコっちゅうか…」
「何言うと、まさは俺のオンナじゃ」
部員は一斉に奇妙な表情になった。さて、どこからツッコんだらいいやら。
「…あぁ、あれやろ、関東の立海に転校したとか何とか言う」
何とか話を進めようとする部長の白石。
「あの帽子のオッサン率いる学校か？」
「あれ監督ちゃいますの？」
笑い声。千歳も一緒になって笑っている。
「…とにかく、アカン。分かった、千歳？」
「…なら、関東大会の偵察でよか」
「何がええんや」
呆れたように溜息を吐くのは忍足だ。
「兎に角、俺は土日は自主休部。ほなそーゆーことで」
ひらひら〜と手を振り、千歳は返事も聞かずに部室を後にした。

もうすぐだ。もうじき会える。
そう思えば思うほど燃え上がる心。
全国大会なんて待ちきれない。
歯止めが利かないのは若さ故なのか。
そのちょっとの辛抱ができないのだ。
会いたくて。ただそれだけで。
恋い、焦がれ。
思い出す、あの面影はいつも挑発的な笑みを浮かべている。
どうやって成長したのか、それが気に掛かる。
だから、千歳は東京へ向かうのだった。
関東大会なんてどうでもいい。
銀の髪をした、あの男に、ただひたすら会いたいのだ。
これは、恋なのだろうか。
もうとっくに終わったと思っていたのに。
何故こんなに胸を灼くのだろう。
そして、千歳は知る。
会いたかった男は、千歳の知らない顔をして、一人の男に寄り添っていた。
変わらない、けれど、まるで違うその表情。
再び千歳の胸は灼かれる。
「久しぶりやの、まさ・・・」
「あ、千歳…」
恋と嫉妬に、焦がれる、胸。

〜ＢＡＣＫ〜