「日常」

平和な森の日常は、テスタメントの悲鳴で破られる。
「キャァァァッ！！」
「どうしたっ、テス？！」
すわ何事かとソルがキッチンに駆け込んできた。
案外、心配性で、テスタメントにベタ惚れのソルであった。
「いやぁぁぁぁっ、ソル、嫌い〜〜〜〜〜〜っ！！」
「…何？」
盛大な悲鳴をあげながら、テスタメントはソルの逞しい上体にしがみついている。
言うこととやることが一致してねぇんじゃねぇのか？
ソルは首を傾げた。
「あれ…、アレがぁぁぁ〜〜〜〜っ！」
テスタメントの細い指が震えながら、キッチンの一点を指した。
・・・・・・油虫。
世の女性にこれの苦手でない人はいないであろう。
そして、大した理由もなく嫌われている存在もないであろう。
ニホンオオカミの絶滅は哀しまれても、コレが絶滅して哀しむ人間はいない。
いや、寧ろ積極的に絶滅して欲しい。
そんな油虫が、テスタメントの大事なキッチンを居心地よさそうに這いずっていた。
「何だ、ただのゴキブリじゃねぇか」
呆れたようにソルが呟く。
「いやぁぁぁっ、ソル、取って〜〜〜」
テスタメントはべそをかいている。
「お前、ギアだろうが。んなもん、得意の鎌でざっくりやっちまえ」
何で中ボスがごきぶり如きを怖がらねばならないのか。
しかも、テスタメントは一応「男」として育っているというのに。
ソルに抱かれるようになってから、女性化の著しいテスタメントであった。
「イヤっ！　私の鎌があんなのに触れるなんて許せないっ！！」
涙に潤んだ目がキッとソルを睨んだ。
「ねぇ〜〜〜、取って。お願い」
その赤い目が、今度は甘えるようにソルを見上げた。
「…しょうがねぇな、じゃぁ、ガンフレイムで…」
「お部屋を黒こげにする気？　はい、これ」
テスタメントがソルに手渡しのは、丸めた新聞紙だった。
…もしかして、殺虫剤はブラックテックになってしまうのだろうか。
そんな世界には行きたくないぞ〜〜〜〜！
「…ったく、たかだかこんな虫如きで…」
ぶつくさ言いながら、ソルは新聞紙片手に壁に歩み寄った。
「だって…父さんはちゃんと退治してくれたもん」
ソルの脳裏に、新聞紙を手にゴキブリを追い掛ける聖騎士団団長の姿と、
後ろで応援している幼いテスの姿が浮かんだ。
思わず吹き出しそうになった。
「あっ、ほら、逃げちゃうよ」
バシッ！
「…チッ、外したか」
「あっ、あっ、そっち逃げた！」
キッチンの入り口の柱にしがみつきながら、後ろからテスタメントが指示する。
コイツは案外動きも素早いし、死んだ振りまでするから質が悪い。
「もう〜、ソルの下手くそ〜〜〜」
急に元気になったテスタメントが背後でブーイングの声を上げる。
「おのれ、チョロチョロと…」
バシッ、バシッ！
ブ〜〜〜〜〜〜〜ン
「きゃぁぁぁぁぁぁっ！！！！」
奥の手、とばかりにソレはテスタメントめがけて飛んだ。
勿論、テスタメントはダッシュで逃げていた。
「この野郎…！」
ドカァッ！（→ＨＳ）
壁に止まったソイツを、テスタメントの悲鳴にキレたソルの封炎剣が叩きつぶしていた。
「………やれやれだぜ」
お得意の勝利ポーズを決め、ソルが呟く。
「・・・ソル、終わった？」
恐る恐る居間の方から声をかける。
「あぁ、もう平気だぜ」
「・・・良かった。やっぱりソルは頼りになるね」
ぎゅう、とテスタメントはソルに抱きついた。
そのまま唇を重ね。
・・・・・・・・・・三分経過。
「・・・もう、ソルったら…」
艶めかしい声が、誘うように囁いた。
ソルはその細い体を抱きしめ………。
「ソルったら、お台所の壁こんなにしちゃって。ちゃんと塞いどいてね」
するりと身をかわし、テスタメントは指示した。
「・・・俺は、お前がイヤだってぇからやってやったんだぜ？」
不服そうなソルの声。
「ダァメ。こっからまたあんなものが入ってきたらどうするの。
ここ直さないと、ご飯作ってあげないからね」
すたすたとテスタメントは出て行きかけ、振り向くと一言。
「………ゴホウビは、その後で、ね」
そう言い残して消えた。
結局、日曜大工に精を出すことになったソルであった。

〜Ｅｎｄ〜

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昨夜、足元を黒いモノが過ぎりました。
何とか勝利したと思ったのに、掃除機の影に一匹隠れていて、２連戦。
もうイヤァッ！
という実話から生まれた、つまんないお話（笑）
お嫌いな人には堪らないでしょう。
私も死ぬほど嫌いです。
…書いていて、お前ら新婚さんか？と（笑）
こんな光景、ありませんか？