（以下、メルヘンちっくにならないので、いつもの文体でお送りします）
柳生はぱたりと参考書を閉じた。宿題は勿論、予習復習も済ませたのは当然の事だ。
さて、気になる猫を振り返ると、子猫は躯を丸めて気持ちよさそうにぐっすりと眠っていた。
おかしな話だが、柳生はこの猫に「一目惚れ」をしたのだ。あまりの愛らしさに。
珍しい銀の毛並みはつややかで、すらりと長い尻尾も均整の取れた足も、端整な容貌も。
何もかもが柳生の好みで、思わず拾って連れてきてしまったのだが。
「思った通りですね。とても可愛いですよ」
満足そうに目を細めて、柳生は呟いた。
そっとその小さな身体を抱き上げ、自分のベッドに乗せる。
パジャマに着替えると、柳生はその小さな身体を腕に抱くようにして眠りについた。
そして、夜半。柳生はふと寝苦しさを覚えて目を覚ました。すると。
「これは・・・！」
柳生の隣では、全裸の見知らぬ少年が丸くなって眠っていた。
「んにゃ・・・？」
柳生が身じろぎしたのを感じたのだろう。少年は寝惚けた顔を上げた。
「君は誰ですか…？」
「ん・・・？…あ・・・！」
がばっと少年は身を起こした。
柳生の目の前に、薄くしなやかな躯が晒される。
「しもた、今日は満月やったんか…！」
ベッドから飛び出そうとする少年の腕を、柳生はしっかりと掴んだ。
「待ちたまえ。説明して下さい。君は誰なのですか」
「説明しとう暇なんてなか！俺は帰るんじゃ…！」
少年は柳生の手を振り払おうとしたが、思った以上に柳生の力が強く、振り解く事ができなかった。
「・・・私のベッドに潜り込んできて、只で帰す訳にはいきませんね」
「ばか！きさんが勝手に連れてきたんじゃろがっ！」
柳生は怪訝そうに首を傾げた。
「私が…？私は、今夜は猫と一緒に寝ていた筈ですが…」
そこで、ふと気付く。少年の頭の上に生えているものに。
「耳・・・？ まさか、そんな・・・」
「分かったっちゃろ。なら、そーゆー事で」
急いで出て行こうとする少年を、柳生は必死に掴まえた。
「待って下さい、それならば、君は…まさか・・・」
「離せって！ そうじゃち言うとるじゃろ！」
柳生も身を起こし、少年の細い躯を引き寄せた。
猫のように少年は暴れる。
「何故行かなくてはならないのですか。ずっと此処にいて下さい」
「でも・・・、俺はこん姿ば人間に見られたら…」
ちょっと困ったように少年は俯いた。
「いいんですよ。ね、お願いです。私の傍にいて下さい」
「でも・・・」
気持ちを落ち着かせようと、柳生は少年の耳の後ろを優しく掻いてやった。
嬉しそうに猫の耳がぴくぴくと動いた。
目を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らす姿は、全く猫そのものだ。
「はぅっ…！いけん、いけん…！こげんことしとう場合やなか」
一瞬の忘我から醒め、少年はブルブルと首を横に振った。
「どうせもう見てしまったのですから、今更遅いですよ」
「・・・お前さん、俺ん姿見てもあんま驚かんとね？」
少年はチラリと金色の目で上目遣いに柳生を見上げた。
「いいえ、とても驚いていますよ。…ほら」
柳生は少年の片手を取ると、そっと自分の左胸に押し当てた。
「・・・ドキドキしよる」
少年の掌に、少し早く鳴る胸の鼓動が伝わってきた。
「えぇ。とてもビックリしています。君があまりにも可愛いので」
「？」
「あぁ、そうですね、ところで君の名前は？」
柳生は少年の髪を撫でてやりながら尋ねた。
「俺はニオ。…仁王雅治ニャ」
「仁王くん…。佳い名前ですね、では、これからそう呼んであげましょう」
柳生の目の前の少年は、漸く人前で擬人化してしまった混乱から回復してきたようだ。
柳生に髪を撫でられても大人しくしている。
「君はずっとここにいればいいんですよ。ね？」
「ん〜…けど…」
少年、ニオニャは細い眉を寄せて少し考え込んだ。
「俺…ずっとこんままじゃおられん。でも、猫のまんまでもおられんとよ。そんでもよか？」
柳生は嬉しそうな笑みを浮かべて頷いた。
「えぇ、構いませんとも。ずっとずっと、可愛がってあげますからね」
「…贅沢さしてくれっと？」
「勿論です！」
間髪入れずに柳生は肯定した。
少しだけ逡巡し、そしてニオニャは小さく頷いた。
「なら、いーたい」
その躯を、柳生は強く抱き締めた。ニオニャは怯えたように躯を硬くしていた。
「良かった…君がそう言ってくれて」
たしたし、と細い腕が柳生の胸を叩いた。
「苦しかよ。離し」
「あぁ…すみません。…さ、寝ましょうね」
ニオニャはくるんとベッドの上に丸くなった。
元々服を着る習慣のない猫のことだ。自分が全裸であることなど、気にも留めないのであろう。
だが、柳生の目の前にはニオニャの白くなだらかな背と、小さな尻、そしてすらりと長く伸びた銀色の尻尾が露わに晒されていた。
『か…可愛いっ…！！』
その瞬間、一気に柳生の中の何かが覚醒した。
「さぁ、私が抱っこをしてあげますからね」
ニオニャに布団を掛けてやると、背後から柳生はニオニャの細い首の下に腕を回した。
少しだけくすぐったそうにもぞもぞとしていたが、柔らかい布団の誘惑に負けたのか、ニオニャは起きようとはしなかった。
柳生の腕の中に、少年は収まって眠っている。
背の高さは同じくらいだろうか。だが、柳生よりも華奢と言えそうだ。こう見えても柳生はテニス部のレギュラーで、相当なトレーニングを積んでいるのだ。
『何と可愛いのでしょう…、偶然拾った可愛い子猫が、こんなに可愛い子ネコになるなんて…、私は世界で一番の幸せ者かもしれません…』
うっとりと胸の内でそんなことを呟いてみる。鼻先に、少年の甘い香りが仄かに漂うようで。
はたり、はたり、とニオニャの尻尾が柳生の太股の辺りを擦りながら揺れる。
それがこそばゆいと思いつつ、また心地よい刺激となる。
「ん・・・、なぁ、やぎう…」
寝入ったと思っていたのだが、もぞりと身動きして、少年が小さく声を掛けてきた。
「はい、何でしょうか」
耳元で優しく囁いてやると、ニオニャは怪訝そうな声で更に問うた。
「あんなぁ…ニンゲンには前に尻尾があるとね？」
「え？」
もじもじと身動きしていたかと思うと、いきなりニオニャの尻尾がぴしゃりと柳生の股間をはたいた。
「なっ…！何をするんですか！」
「きさんの尻尾がさっきから俺の尻に当たるんニャ！しかも、何か熱か！それにビクビクしよる！さっさとかたしんしゃい！」
「あ・・・」
柳生は視線を下に落とした。
見えはしないが、それは確かに必要以上に熱く硬くなっているのは分かる。
「…済みません、君が余りにも可愛らしいもので…」
「俺の所為とね？」
口を尖らせてニオニャが言う、その様子もまた柳生の劣情をそそるばかり。
「いえ、そうではなくて…。君だって、同じ物を持っているではありませんか」
す、と柳生は片手を仁王の前に回した。まるで力なく萎れているそれを、軽く握りこむ。
フニャー！
ダッと物凄い勢いで布団から飛び出し、ニオニャは威嚇した。
「何するんニャ！」
尻尾も髪の毛も逆立っている。
「あぁ、すみません、そんなに怒らないで」
「俺ん事苛めよるんなら、出てく！」
キツイ琥珀色の目が、少しだけ潤んでいるようだった。
またもや柳生の愚息が騒ぎ出すが、懸命に自制し、柳生は先程の行為を謝った。
『焦る必要はありません。…まだ、盛りというものがあるのですからね…』
などという下心は押し隠して。
結局布団に戻るよう説得するのに、殆ど一晩費やした柳生だった。
そして、朝目覚めてみれば、布団の上には丸くなって眠る可愛い猫が一匹…。
あれは夢だったのだろうか。いや、夢などではない。まだ、この腕の中に、あの温もりと感触が残っているのだから。
次の満月が待ち遠しい柳生だった。〜Ｅｎｄ〜
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ニオニャの秘密です^^
また微妙に下ネタ入ってますが…(笑)
紳士は変態です。
その一念を筆（キーボード）に込めて書きました(笑)
さ〜て、次はどうなることやら。
必要以上にニオニャをウブに書きすぎましたな(笑)
でも、楽しかったからいいの。
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