「俺と猫」

これは、夢だ。
そう思いながらも、尚甘美な夢の続きを貪ろうとする。
そんな時間が俺は好きだ。
不意に異様な重さが体にかかり、俺は心地よい夢から引き戻されようとしている。
…何だ、またあいつなのか…？
布団の中に這い込んでくる、何かの気配。
…煩い、俺は眠いんだ。
とろとろと夢と現の間を彷徨いながら、俺は胸の中で怒鳴った。
ザラリ、とした感触が胸を這う。
やめろ、ナデュー…。
気怠い腕を上げ、振り払おうとする。
…が、いる筈の体には当たらなかった。
…これも、夢なのか？
だが、胸元の気配は消えていない。
夜着の中にまで入り込んでくる。
くすぐったい。

…っ！！

「ナデュー…っ！」

完全に覚醒した俺は飛び起きた。
俺の胸元には、濃い焦げ茶色の、大きな猫がいた。
中途半端な毛の長さに、赤い瞳。
それが、俺の乳首につけてあるピアスを引っ張っているのだ。
…ナデュー、…なのか？

「なぁぅ〜〜〜〜」

鳴き声まで可愛げなく太々しい。
しきりとピアスにじゃれかかる。
…やめろ、くすぐったいんだ。
俺は猫の首根っこを掴んで…。
…持ち上がらない。デカくて重すぎる。

「…アンヌンに猫などいらんな」

俺は猫を抱え上げた。
猫は喜んだのか、首筋を激しく嘗める。
…だから、くすぐったいから止めろ。
そして、俺は夜のリルダーナへ飛んだ。

ここならいい。
俺は、以前ナデューが用意した隠れ家にいた。
ぽい、と放り出すと、猫はソファーの上で大きな顔をする。
全く、どうしてこいつが猫になっている？
凡そイメージからかけ離れているというものを。
…あいつなら、もっと獰猛な生き物が相応しい。
…何を考えている、俺は…！

そんな俺の感慨などお構いなしに、猫ナデューが辺りをうろつく。
しかし、煩い。
猫というのは忍びやかに行動するモノではないのか？

ドダン、ガチャン、バリバリ、ドシン。

壁にはぶつかる、カーテンは引きちぎる。
おまけに、俺のワインの瓶まで棚から落とす。
…絶対にわざとだな。
その証拠に、ヤツは床に零れたワインを美味そうに嘗めている。
何てヤツだ。
俺は半ば腹を立て、半ば呆れながら、そんなナデューを見ていた。

「ぅにゃぁぁおぅ〜〜〜」

猫が、不意に俺の足元にすり寄ってきた。
酔っているのか、多少足元がふらついているようだ。
やはり猫だからだろう。
普段のヤツなら、酔うような量では絶対にない。
夜着の裾から頭を突っ込む。
そう言えば、着替えもしないで出て来たのだったな。

「あっ…！！」

不覚にも声が洩れた。
不意を衝かれたのだ。
猫は俺の膝を激しく嘗めていた。

「やめろ、ナデュー…！」

引き剥がす。が、離れない。
…爪が、痛い。
爪を立てられた肌から、血がにじみ出していた。

「…ナデュー」

俺は溜息をついた。
何でこいつはこんなに我が侭なんだ。
と思ったら、俺の膝の上に乗った。
居場所を定めようと、前後の足でぐにぐにと夜着を押し始める。
…ここで寝るつもりなのか？
…まあいいだろう。
寝れば、多少は静かになる。
だが、その考えは甘かった。
猫ナデューは、あっと思う間もなく、俺の夜着をはだけてしまったのだ。

ふぅ、やれやれ。

そう言いたげな顔で、素足の間に横になる。
硬い毛が、とてもくすぐったい。

「こら、ナデュー」

どかそうと、低い声で叱りつける。
猫が上目遣いで俺を見上げ、…ニヤリと笑った。
ちろり、と赤い舌が口の周りを嘗める。
それは、全くあいつそのもので…。

その夜から、俺は少しだけ猫が嫌いになった。
もう二度と、あいつが猫になどならないように。
俺は、そう祈るしかなかった。
〜Ｅｎｄ〜

******
「猫づくし」第２弾（と言っても、実際は三つ目）。
今回はナデューに猫になって頂きました。
が、良い子のみんなのために、管理人は涙を呑んで自粛しました（笑）
久々にヤバい話になりそうだったし（笑）
流石に、それは…。
しかし、猫にすら翻弄される姫が…（笑）
おまけに、この猫可愛くないし（笑）
でも、書いてて、とっても楽しかったでした。
どうせ自己満足よぉ〜！