「鬼舞」

気高い獣。凛として清冽で、何者も寄せ付けない雰囲気は深山の精気が凝り固まったかのように見える。
その孤独を纏う気配は、山に棲む者を魅了した。
「あぁん、どこにいらっしゃるの、們天丸さまぁ〜」
「行っちゃイヤ〜ん。今日は私を可愛がって下さるって言ったじゃな〜い」
「すまんなぁ、姉さん方。また別の日に今日の分まで可愛がったるさかいに」
左眼を眼帯で覆った軽薄そうな男は、両脇に群れ寄る女達一人一人に別れのもみもみをすると、口々の別れの言葉に愛想良く手を振りながら、屋敷へと急いだ。
「み〜ぶっ」
ひょっこりと障子を開けて顔を出すと、部屋の主は濡れた長い髪を拭いているところだった。
「…們天丸か。俺に何の用だ」
滝にでも打たれてきたのだろうか。白い頬はいつもより一層青白く、どことなく鬼気迫って見えた。
その姿に一瞬どきりと胸が鳴った。
”な、何やの…えらい色っぽいやないの”
壬生はそんな一瞬の們天丸の動揺など知らず、丁寧に髪を拭いている。いつもの羽織と袴は脱いで、単衣の着流し姿だ。
「いや〜、偶には一緒に酒でも飲もか、思うてな」
們天丸は用意の徳利をひょいと掲げて見せた。
「酒か…。まぁいいだろう」
そして二人だけの酒盛りが始まった。
壬生は決して口数が多い方ではない。自然、們天丸がしゃべり続けることになる。
だが、壬生はその話を聞いていない訳ではない。どころか、心なしか楽しんでさえいるように見え、們天丸は些か気をよくした。
酒が進むに連れ、ほんのりと壬生の白い首筋が赤く染まっていく。底なしの們天丸に比べると、壬生は余り酒が強くないようだ。切れ長の目元に紅が掃かれ、それが、冷たい人形のように整った顔立ちに生気を与える。
「何や…それにしても、壬生はえらい別嬪さんやの〜」
思わず素直な讃辞が零れる。考え無しに思ったことを素直に口にしてしまうのが們天丸の長所であり、短所である。
むっと、いつも不機嫌そうな眉が更に不愉快そうに寄せられた。
「詰まらんことを…」
「いやいや、わいは嘘なんて言わへん。ほんまに綺麗やからそう言ったんやで」
「ふん…」
本当につまらなそうに壬生は杯を傾けた。
「そんだけ綺麗やったら、さぞもてたやろうな〜」
「…そう言うお前こそ、いつも女に取り巻かれているだろうが。俺は、女などと関わり合いになるのはごめんだ」
「そら、わいはお姉ちゃん達が好きやからなぁ。けど…壬生はおなごが嫌いなん？」
「・・・下らん。ならばお前はさっさと女のところにでも行けばいいだろう」
やや荒く、壬生は卓に杯を置いた。かつり、と高い音。
「は〜ん、壬生は女知らん、とか？」
その瞬間、們天丸の顔の脇を杯が掠め飛んだ。
「・・・貴様、俺を愚弄しに来たのか？」
酔いが引き、赤みの差していた頬は青白く変わっていた。
「愚弄やなんて…そないなことあれへんて」
両手を顔の前で振って見せるが、心中では、当たりやな、初物もおもろいなぁ、などと呑気なことを考えていた。
「帰れ。貴様の顔など見たくない」
詰まらぬ事で怒ったのを恥じたのだろう。壬生は一つ息を吐くと、浮かし掛けた腰を下ろし、低い声でそう言った。
「そう聞いたら、帰るなんて勿体ないこと出来るわけあらへんやろ。もんちゃんが、気持ち良うしたるさかいに」
すっと們天丸は壬生に体を寄せると、帯の下に片手を這い込ませた。
「何をする…！」
肉を打つ乾いた音。
們天丸は打たれた左頬を抑えた。脳天まで痺れるような素晴らしい一撃だ。
「い…今なら、まだ酒の席の戯れで済ませてやる。さっさと出て行け」
少しだけ頬に赤みが差していた。それは怒りと、わずかばかりの羞恥だろうか。
「そないいけずな事言わんと。優しうしたるさかい」
「們天丸、巫山戯るのもいい加減に…！」
立ち上がりかけた壬生の体が吹っ飛んだ。
「頬張られたまま引っ込んだとあったら、太郎坊に叱られるしなぁ。…一吹きで襖が飛び、二吹きで壬生の体は布団の上、や」
們天丸は肌身離さぬ羽団扇を悠然と揺らして見せた。
「貴様っ…！」
体勢を立て直そうとした壬生の躯の上に、們天丸の体が覆い被さった。
「そないに暴れんと。わいに任せとったらええんや」
びゅっ、と空気を裂いて壬生の足が蹴り上げられた。脇腹を狙ったその白い脛を、們天丸は片手で受け止め、頭上に高々と差し上げた。
「あっ…！」
裾が割れ、白い太腿までむき出しになる。
「・・・こらええ眺めやな」
思わずその奥にまで們天丸の目は吸い付けられる。
「貴様っ…戯けた真似を…っ！」
「まぁ、わいも男相手は初めてやけどな。もんちゃんに任しとき」
てきぱきと們天丸の手は動き、器用に抜き取った壬生の扱きで、手際よくその両手を背後で戒めることに成功していた。
「なっ…！貴様、何のつもりだ…！」
「ん〜、まぁ、縛は四十八手の始め、て昔から言うやろ」
よいしょ、と們天丸は俯せになった壬生の腰の上に馬乗りになった。
「何が…望みだ…、貴様…」
いとも簡単に抵抗の術を封じられた壬生は、唇を噛みしめながら震える声で問いかけた。
「何や〜、震えとるんか、壬生。大丈夫やって、優しうしたるさかい」
背後から們天丸の大きな手が壬生の髪を撫でた。空いた手が、壬生の尻を撫でる。
「さするなっ！」
逃れようと体を捩ってみても、男の体はずっしりと壬生の上に鎮座していた。
「ええ子やから、暴れんといてや」
「あっ…やっ…！」
壬生の耳元に生暖かい息が吹きかけられた。びくりと肩をすくめる仕草に、們天丸の胸は、またもや不覚にきゅんと高鳴った。
”あ〜、こらあかんわ。本気でめっちゃ可愛いやん”
さっと体の位置をずらすと、浴衣の裾を捲り上げる。手慣れたように下帯を剥ぎ取った。
「嫌だ、こんな真似…！」
拒絶の悲鳴すら、心地よく聞こえた。

「嫌だっ…あっ…も、們天、丸…」
白い背に黒髪が散る。普段は束ねられた髪が、今は持ち主の体を彩るようにその身を縁取っている。
「な。そろそろ良うなってきたやろ？」
怒りと未知の恐怖に固くなった体を、先ほどから們天丸は丁寧に愛撫している。一カ所ずつ、気が狂うほどに丁寧に。
最初は耳からだった。耳朶を軽く甘噛みしてやるだけで、壬生の体は跳ね上がって逃れようともがく。
首筋に顔を埋めると、生乾きの髪から清冽な水の香りを感じた。
背後から首筋に男の気配を感じただけで壬生の体は竦んだ。背筋を痺れるような感覚が伝い落ちていく。
それが、快感であることも知らず、ただ逃れようと身をくねらせる。
体が、頭がおかしくなる−。
剣の道一筋であった壬生は、快楽とは無縁の生活を送ってきた。身を焦がす熱が、行き場を知らずに体内で荒れ狂っている。
無論、その宥め方も知らず、解放する術も知らない。
剣で培った平常心も、們天丸の手から紡ぎ出される感覚には無抵抗で、壬生の精神を翻弄する。それほどにその刺激は強烈だった。
苦しい。何かに体が乗っ取られてしまいそうだ。
逃れたくても、男の体の下で無様にあがくだけが精一杯で。
「あ、ここも弱いんやな〜」
ぺろりと們天丸の舌が肩胛骨のくぼみを舐め上げた。
ぶるっと身を震わせる。そこから熱が全身に広がっていくようだ。手足に力が入らなくなってくる。
唇と手が、壬生の全身をゆっくりと這う。們天丸の愛撫は的確だった。伊達に場数を踏んで来た訳ではないのだろう。
だが、そんな男に体を蹂躙されて、壬生は面白くない。それに、何故自分がそんな相手をしなければならないのか分からない。
「相手、に…不自由はしない、だろうに…、貴様、何故…！」
修行の時とは違う、不規則な上がり方をしている吐息の下から壬生は懸命に叫んだ。
「そないなことは後や。今はわいのことだけ感じとってや」
余裕のある男の声に、壬生は唇を噛みしめた。
せめて身を起こそうとするも、この体勢では徒に腰を突き上げるだけだ。上げた尻に気色の悪い熱を帯びた物体が押し当てられ、初めてと言っていい恐怖に、壬生は再び体勢を崩す。
「何や、もう欲しなったんか？案外欲張りさんやな、壬生は」
們天丸の手が壬生の脇腹を撫で上げ、首筋を吸い上げる。
「あっ…やめろ、貴様…！」
暴れる体。
們天丸は片手を布団と壬生の胸の間に差し入れ、硬く充血した胸の突起を摘んだ。
「ひっ…」
執拗な指の動きに、体が震える。熱が上がる。もたらされる感覚が、壬生の体を焦がす。
「ここもええんか？可愛いやっちゃな、壬生は」
「貴様…、こんな、…男同士で…、巫山戯るな…！」
もがく壬生の体を們天丸は強く抱いた。
「冗談とちゃうで。…そら、わいはお姉ちゃんが好きやけどな。…壬生も好きや」
「馬鹿なっ…事を…っ」
耳元で囁く吐息が、熱く壬生を焦がした。普段飄々とした們天丸と思えないくらい、その声には熱があった。
「ほら、な、壬生の此処も、感じてるやろ？」
片手が壬生の中心を柔らかく握った。それは、少しだけ首をもたげ、們天丸の手の中で脈打ち始めていた。
「あっ・・・！」
ぞわりと背筋を這い上がる悪寒と快感。ただ、逃れる為にもがくしかなかった。そうでもしなければ、自分が何かに負けてしまうような気がした。
「そないに腰動かさんといてや。わいも我慢できなくなるやんか」
言いながら、們天丸はゆっくりとその手を前後に動かし始めた。
「やめろっ…こんな…！・・・あぁっ…嫌だ…」
それは、何よりも強烈な快感となって腰の奥を熱く疼かせた。
「ええやろ？　壬生は自分でこいたことないんか？」
背後からでもはっきりと、壬生の頬が赤く染まるのが分かった。
「そんなこと…」
ある、とは言えなかった。們天丸の言う事は事実であったから。壬生は、自分が村正を身に付けねばならぬと知った時から、自分に快楽は無縁だと思っていたのだ。元々、淡泊な性格だからでもあるだろう。
あ〜、可愛いなぁ、と們天丸は壬生の上で笑み崩れた。
「ほな、わいが気持ち良うしたるさかい。もんちゃんの魅力の虜になってもええで。そしたら、ずっとわいが可愛がってやるさかいにな、安心してや」
「馬鹿なっ…！」
とんでもないことを言い出した們天丸に抗議の声を上げようとしても、確実に追い上げられていく体は言う事を利かない。
逃れようとくねる腰が、却って快楽を紡ぎ出す。
「あぁっ…！　駄目だ、もん…て、ま…る…！」
頭の中がおかしくなる。熱くて、苦しくて、逃れたいのに逃げたくない。苦しくて、どうにかなってしまいたい。
それなのに、壬生はどうしたらそれから逃れられるのか分からなかった。
長い髪がうねり、苦しげに打ち振られる。必死に堪えようとしている壬生の姿が、們天丸には可愛く映った。
思わず、壬生を追い立てる手にも力がこもる。
「あっ…、嫌だ…！　もう…！」
せめて手さえ動けば、こんな奴を払いのけるのは造作もないのに。もう、止められない。
白熱の一刹那。何かが壬生の中で膨れあがり、はじけ飛んだ。
「はっ…、はぁっ…」
們天丸の下で、壬生は緩い痙攣を繰り返す。
們天丸の手の中には、今確かに壬生が吐き出した精があった。
「あ〜、ほんま可愛いわ、壬生」
初めて与えられた悦楽に、忘我と虚脱に陥っていた壬生に言うと、們天丸は受け止めた精を壬生の後庭に塗りつけた。
「ひっ…！　何をする、貴様…！」
「堪忍な、わいももう我慢でけへん」
ぬるついた指が差し込まれる。不快を通り越したおぞましさに、吐きそうになる。
「嫌だ…っ、あっ…！何を…あぁっ…」
「何って…経験なくても、壬生かて知っとるやろ、衆道くらい」
「・・・・・・・」
答えはないが、壬生の頬が青ざめたのを見ると、その行為についてなにがしかの知識は持ち合わせているらしい。
「わいも初めてやけどな。ま、安心してもんちゃんに任しとき」
「嫌だ！・・・あっ」
指とは違う熱く脈打つものが、壬生の尻に押し当てられた。
その熱に、今まで感じたことのない恐怖を感じ、壬生は必死に体を捩って抵抗したが、その腰は們天丸の片手にしっかりと抱き抑えられていた。
もがく壬生の腕には、脱がせなかった着物が丸まっている。それが、壬生の体を露わにすることを防いでいるが、逆にその光景に、們天丸は目を細めた。
「ん〜…偶には着たままいうのもおもろいかもなぁ。よっしゃ」
們天丸は帯を解いたが、着物を肩から落とそうとはしなかった。
「やめろ、們天丸…！」
「力抜いてや。…わいも加減できそうにあらへん」
そう言うと、們天丸はゆっくりと腰を進めた。
「あぁっ…あっ、あぁーっ！」
壬生の視界が赤く染まった。引き裂かれる痛みと不快感に、ついぞ上げたことのない悲鳴が上がった。
「あかんて…わいのが千切れそうや。まだ頭しか入れてへんのに」
「い、嫌っ…！…あっ…も、てんま、る…！痛いっ…！」
慣らされても解れてもいない其処から、激痛が生まれる。裂ける、何もかも−。
純粋な痛みに、生理的な涙が浮かび、壬生の白い頬を流れ落ちた。
「あーっ、泣いたらあかんて。な、壬生？」
們天丸が些か慌てた声で宥めるのが聞こえる。暖かい手が、壬生の黒髪を幾度も撫でた。
いやだいやだと、か細い声がただ哀願するように繰り返される。
普段人を寄せ付けようとせず、冷たく見えるほど毅然とした態度を取る壬生とは思えないその姿に、們天丸の胸は締め付けられるように痛んだ。同時に改めて胸の奥から沸き上がってきた思いがある。
酒の上の何の気無しの戯れ。その、男とは思えぬ、だが男しか放つことのできない艶に引かれたのは事実だ。しかし、そこに、何かそれ以外の感情がゆっくりと生まれて渦巻いてくる。
「あ〜、ほんま、可愛いやっちゃ、壬生は」
們天丸は壬生の呼吸を計った。呼吸を合わせると、静かに壬生の奥へと侵入していく。
「やっ…！いやだ、もうっ…！」
体を裂かれる痛みと男の熱に、犯されていく。熱く、どこまでも、熱く。止めどなく涙だけが溢れた。それは痛みか怒りか屈辱か。
とうの昔に忘れ果てていた筈の涙が溢れ、枕を濡らした。
「なんも怖いことなんてあらへんよ。な、楽にしてや」
耳元で囁かれる声も、壬生の頭には届かない。
徐々に動かされる們天丸の腰の動きにつられて、鈍く重い痛みが壬生を引き裂く。
「あぁっ…！あぁっ…！」
痛みに小刻みに震える体を、們天丸は強く抱いた。
熱い体と派手な着物に包みこまれた壬生の姿は、俯瞰してみると大輪の花にも、それに取り込まれているようにも見えた。
強く弱く、或いは深く浅く腰を揺すり上げられる度、最早止めることさえ叶わない嗚咽の声が壬生の唇を割った。
枕に片頬を押しつけ、よがるのではなく苦痛に呻く壬生の表情は、どんな女よりも美しく思えた。
『あ〜、こらただのおぼこよりずんとええわ〜。可愛いなぁ』
満悦の笑みを浮かべながら、們天丸は更に腰を進めた。異物を排除しようと締め付ける襞の動きが、們天丸を逆に煽りたてる。
「あぁ…もう…、…痛い…もんてんま、る…」
咬み千切るほど唇を噛みしめていた壬生が、漸く絞り出した弱々しい声で訴えた。
「もうちぃっとやさかい、な？」
その姿を愛らしいと思いながらも、們天丸は自らの快楽を追求することを止めなかった。女とは違うきつい締め付けと、壬生の姿態に、このまま引くことなど考えられない。
じわりと滲み出した血が、二人の結合部を伝い、壬生の太腿にぬるりと滴る。すぐに乾いては新しく流れ出た血が、その上を赤い蛇のように這う。
その血のぬめりの助けを借り、們天丸は最前よりも激しく腰を突き動かした。
「あぁっ！　ぁ、やっ…！　いやぁぁっ…！」
最奥を抉られ、痛みと熱が波のように壬生の精神を翻弄する。もがくだけで、痛みに体が引き裂かれそうだ。
「あっ…、あぁっ…！　嫌、だ…們天丸…！」
涙に震える声が們天丸の名を呼んだ。苦しげに切なく尾を引く声が、こんなときだからこそ、艶っぽく感じられる。
「あ・・・あかん、わいも出そうや…」
強烈な刺激に、普段の彼よりも早く、們天丸も追い上げられていった。
「中に出すで？」
「嫌だ、いや、いや、いや…！」
「あかん、出る・・・！」
「いやぁっ・・・！」
その瞬間、何もかもが壬生の中から、消えた。

不快な眠りから覚める。障子を通り差し込む日の光は、もう既にかなり高く昇っているようだった。
「寝過ごした…？」
普段朝の早い壬生は自分の不覚に舌打ちしながら、日課の鍛錬に出かけようと身を起こしかけ、脆くも腰から崩れ落ちた。
下腹部から裂けるような痛みが沸き上がり、それが、はっきりと昨夜の事を思い出させた。
「あいつ…們天丸・・・！」
思い出すと腹が立ってくる。壬生は唇を噛みしめた。
改めて見ると、壬生は全裸のままで、両の手首には扱きの痕と思しい赤黒い傷が残されている。見たくはなかったが、視線を下に動かすと、内股には血とそれ以外の何かがべったりとこびりついて、乾ききっていた。
屈辱と怒りに胸を焦がしていると、騒々しい足音。からりと障子を開ける。
「あれ〜、何や、起きてたんか、壬生」
「們天丸、貴様…！」
開け放たれた障子の向こうには、思った通りの男の姿があった。
「まだ寝とっても良かったのにな〜。あ、御屋形様にはちゃんと言うたからな、安心してや」
「貴様、巫山戯た事を…！」
思わず掴みかかろうとしたが、哀しいかな、腰から下は重く怠く、全くと言っていいほど力が入らなかった。へなへなと布団にへたりこむ。
「あかんて〜。そないなカッコされたら、わいも目の遣り場に困るわ〜」
などと言いつつ、們天丸の目は壬生の体に釘付けだった。
はっと気づき、脱ぎ散らかされていた浴衣を手に取ると、肩に羽織る。
「・・・ちょっと待て。お前、そう言えば今、御屋形様にと言っていたな」
「せや。わいと壬生は夫婦になったんやさかい、祝福してやってご報告や」
「みょうと・・・」
実に楽しそうに片眼の男は笑った。
「ん。わいな、もう、壬生のこと大好きやねん。好きや、好き好き〜」
がばっと抱きついてきた男の後頭部を壬生は容赦なく殴りつけた。
「馬鹿を言うな！俺はそんなつもりはない」
「そないな事言うて。壬生は照れ屋さんやなぁ」
振り払われてもめげずに們天丸は壬生の首に抱きついた。
「やめろ、馬鹿！　下らん事を言わず、さっさと消えろ」
「何でやの？」
一瞬言葉に詰まる。穢された身を清めに行きたいなど言ったら、この男は何をするだろう。
「あ、そか。風呂やな。ちゃぁんと支度してきたさかいな。いや〜、わいって気がきくな〜」
們天丸はそれと察したらしい。勝手に箪笥を開け、手ぬぐいやら何やら支度している。
「勝手に俺の部屋を漁るな！」
「けど壬生は動けへんやろ？　任しとき、ちゃんとわいが綺麗にしたるさかい」
うんうん、と自分で頷きながら們天丸は酷く上機嫌だった。
「貴様は少しは謝罪しようとかいう気持ちはないのか」
「え？せやから、責任取って夫婦になろう言うたやないの」
「誰がそんな事を言っている！」
「せやかて、壬生があんまり可愛えから、わいもこう、ついむらむらっと…」
「俺の所為にする気か？」
「あ、せや、初物やったんな〜。東向いて食えば良かった」
「貴様、人を野菜みたいに言うな！」
「あ〜もう、ほんまに好きや〜。壬生、好きやで〜」
「懐くな。人の話を聞け！」
「ほならわいが風呂連れて行ったるからな〜。さ、行こか」
「やめろ、降ろせ…！」
們天丸は、ひょいと壬生の体を抱き上げた。
壬生は抵抗してじたばたと暴れるが、すぐに力尽きた。傷が疼く。
「ほんま可愛えわ。・・・あかん、また張り切ってきそうや…」
「馬鹿、何を言っている…！」
「壬生〜」
どさりと重い物が投げ出される音。続いて何かを殴りつける鈍い音。
「この馬鹿天狗…村正の錆にしてくれる…」
「そないに照れんでもええやんか〜」
「わっ…！　やめろ、馬鹿…！」
今日という日は、まだ終わりそうもなく、それでも平穏な時が刻まれていく。
「あいつら…何を考えているのだ…？」
その頃屋敷の奥では、御屋形様が、們天丸の言動に頭を悩ませていた。

〜終　　幕〜

終わった…！
卯月さん、パス！（笑）
あんまりエロくないエロでごめん（笑）
壬生はね、鳴かされるのが似合うと思うあたいは病気（笑）
ただただ、その為に書き下ろしました。
あぁ、満足だ・・・。
強姦なのに和姦の雰囲気を漂わせる們天丸は難しい…。
所詮私に陽性の男を書くのは無理だったのさ…。
ちなみにタイトルは全然意味ありません（笑）
語感と字面だけで選びました（笑）