めるへん・５

「めるへん５」
～テスにゃんの冒険～

これは、テスにゃんがソルにゃんと一緒に暮らすようになる少し前のお話です。
ソルにゃんは毎日遊びに来ます。
そして、お土産に美味しいおたかなを持ってきてくれます。
テスにゃんはそれが嬉しくてたまりません。
「そうだ、ソルの所へお礼を言いに行こう」
あるお天気の良い朝、テスにゃんはそう思い立ちました。
本当のことを言うと、早くソルにゃんに会いたいのです。
「父さんは一人でおんもに出ちゃいけないよって言うけど…。でも、ソルに会いたいんだもん」
小さな胸に大きな決意を秘め、テスにゃんはそっとお家から出ていきました。
今日はぽかぽかの良いお天気です。
「えっと、えっと…ソルはいつもこっちから来てるから、こっち♪」
門の隙間から抜け出ると、お外にはテスにゃんの見たこともない風景が広がっていました。
「わぁ…！」
沢山のお家、沢山の人。聞き慣れない音に見慣れない物。
何もかもが驚きでした。
「うわぁ～、面白いの～♪」
テスにゃんは楽しくなってきました。
足取りも軽く大きな道を歩いていきます。
するとそこへ。
「おぅおぅ、何だ、てめぇは」
「見慣れねぇ面じゃねぇか」
近所の野良猫がテスにゃんに近寄ってきました。
ヤダ、怖いの…。
急に怖くなってテスにゃんは慌てて逃げ出しました。
「あっ、逃げるな！」
「待ちやがれっ」
野良猫たちは追い掛けてきます。それもこれも、テスにゃんが綺麗だからでした。
テスにゃんは必死で逃げました。
一生懸命走って走って…。
もう・・・駄目・・・。
あんまり沢山走ったことのないテスにゃんは、すっかり疲れてしまいました。
漸く振り切った時は、もう一人では動けないくらいへとへとでした。
「ここ・・・どこだろう・・・？」
きょろきょろと辺りを見回しますが、全く見覚えのない景色です。
「お家は…？　ソルはどこ…？」
不安で胸がどきどきしてきました。
物陰でテスにゃんは泣き出していました。
「ナンダ、お前は・・・」
いきなり、ただの猫とは思えないほど威圧的な声が聞こえてきました。
「にゃっ！　だ、誰っ？！」
のそりと姿を現したのは、ソルにゃんよりもずっと大きな猫でした。
この辺りの野良猫たちのボス、ジャス猫です。
「い、いや・・・」
思わずテスにゃんは後ずさりしていました。
「…見知らぬ顔ダナ。味見をスルか…」
ゆっくりとジャス猫は近寄って来ます。
「あ～～～～～～ん、ソルゥ～～～～！」
何だか訳が分からないまま、テスにゃんは泣きだしました。
このままでは、何か恐ろしいことをされてしまいそうです。
「大人しく、ワガ足元に這うがヨイ…」
「いや～～～～～～、助けてぇ～～～～～！！」
ジャス猫が不意にのしかかって来ました。
危うし、テスにゃん！
「ヴォルカニックヴァイパー！！」
その時、炎を身に纏って飛んできたのは…。
そう、ソルにゃんです。
フーッ、フギャーッ！！
二人は盛大なケンカを始めましたが、誰もソルにゃんに敵う筈がありません。
テスにゃんの為なら、ソルにゃんは無敵なのですから。
やがて、ジャス猫は逃げていきました。
「ふん、俺のテスに手ぇ出そうとするからだぜ…」
「あ～ん、ソル～、怖かったの～！」
テスにゃんはソルにゃんに抱きついて泣いていました。
「ん…もう怖くねぇぜ」
ソルにゃんは、テスにゃんの涙に濡れたほっぺをそっと舐めてあげました。
「怖いの…おんも嫌…」
ひっく、ひっく…テスにゃんはすっかり怯えています。
「ったく…しゃぁねぇな。ついて来いよ」
ソルにゃんが優しく促します。
「なぁに？どこに行くの？」
テスにゃんが涙に濡れた目を上げました。
「…今日は、俺んとこ泊まってけよ」
「ソルのお家？…うん、嬉しい」
テスにゃんは、花が綻ぶようににっこりと笑いました。
何て可愛いんだ…！
思わずソルにゃんは心の中で叫びました。
全く、あんなことの後でなければ、この場で乗っかってしまいたいくらいです。
でも、ソルにゃんはぐっと我慢しました。
二人は並んで歩き出しました。

ソルにゃんのお家は、どこかの物置の隅でした。
勿論、勝手に住み着いているのです。
どこから持ってきたものか、ふかふかの毛布までありました。
「ほら、寝ろよ。何か食うもん、持ってきてやるから」
「うん・・・。怖いから早く戻ってきてね？」
「あぁ、待ってろ…」
テスにゃんのおでこにちゅ、をしてソルにゃんは出ていきました。
テスにゃんはソルにゃんを待っている間、毛布に丸くなることにしました。
暫く経って。
「おう、テス、今帰ったぜ」
どこから盗って来たものか、ソルにゃんはおっきなおたかなを銜えていました。
ふーすか、ふーすか…。
テスにゃんは毛布の上でぐっすりと眠っていました。
よっぽど疲れたのでしょう。
時折お耳がぴくぴくしたり、あんよがぱたぱた動いたりしています。
「・・・むにゃ…、…ソル・・・」
寝言でソルにゃんの名前を呼んでいました。

チクショー、可愛いぜ～～～～～！！！
最早ドラゴンインストールせんばかりの勢いで、ソルにゃんは思いました。
でも、こんなによく眠っているテスにゃんを起こすのは可哀相です。
仕方なく枕元におたかなを置くと、ソルにゃんもテスにゃんの隣に丸くなりました。
…早いとこ、こいつを俺のものにしねぇとな。
ソルにゃんはそう決心しました。

翌朝、テスにゃんはソルにゃんに連れられて、無事お家に帰ってきました。
「おぉ、テスタメントや！　どこに行っておったんじゃ。心配したぞ？」
あのね～、父さん、昨夜はソルのお家にお泊まりしたの。
「ん、何じゃ、何を興奮している？　ん、怖かったか、そうかそうか」
おたかなさん食べたの。美味しかったの。
「よしよし、すぐお風呂に入ろうな」
お風呂好き♪
人間と猫はお話できません。
テスにゃんはお父さんに抱っこされて行ってしまいました。
「・・・やれやれだぜ」
ソルにゃんは呟くと、テスにゃんと一緒に暮らそうと思っている新しいお家へ向かいました。
いつか、ここに二人で住もうと、色々と準備をしているのです。
「なんたって、あいつは俺のもんなんだからな…」
ソルにゃんは、ほのぼのとテスにゃんの姿を想い出していました。
総ての用意が調ったら、二人はここで暮らし始めることでしょう。
それは、そう遠くない日なのです。
～Ｅｎｄ～