夫婦と猫夫婦

「めるへん・４」
～夫婦との出会い編～

ソルにゃんは見知らぬ森を歩いていました。
テスにゃんと一緒に暮らし始めて暫く経っています。
今日は美味しい物を沢山集めて来ようと、いつもより遠出して来ました。
でも、何故かあまり美味しそうな物が見つかりません。
ソルにゃんは疲れてきてしまいました。
『やれやれだぜ・・・』
どれくらい歩いたことでしょう。
目の前に、一件のお家がありました。
ほてほてと中に入ると、とてもいい匂いがしました。
どこか懐かしいような匂いです。
ソルにゃんはその匂いに誘われるように奥へ奥へと入り込んで行きました。
一番奥のお部屋には、お布団がありました。
ちっと休むか、とソルにゃんは呟いてお布団の上に丸くなりました。
ふかふかで暖かくていい気持ちです。
すぐにうとうとと眠くなってきました。
と、そのお布団がもぞもぞと動いたと思うと。
「あれ～、猫ちゃんだ♪　どっから入ってきたの、お前」
ソルにゃんはいきなりがしっと掴まれてしまいました。
にゃっにゃっ！
ばたばたともがいていると。
「怖くないよぉ。暴れないで、ね」
ふんわりと人間に抱きしめられていました。
身をよじってそこから飛び降りると、一声威嚇…と思ったのですが。
「わ、可愛い(^^)ソルに似てるね、お前」
長い黒い髪をした、美しい人間がにこにことソルにゃんを見ていました。
『な、なんだ、こいつ…！　テスに似てるじゃねぇか』
ソルにゃんはびっくりしました。
「待っててね、今何かご飯作ってあげるから」
もそもそと起き出して、その人間はどこかへ行ってしまいました。
この隙に逃げ出そうと思ったのですが、どこも固く閉ざされています。
窓も閉まっていますし、扉はとても頑丈そうな木で出来ていました。
暫く室内をうろうろと探してみましたが、他に出入りできそうな場所はありません。
『・・・ヘヴィだぜ』

仕方なく、ソルにゃんはお布団の上で丸くなりました。

テスにゃんはソルにゃんの帰りを待っていました。
朝早くから出かけて、夕方になっても帰って来ません。
『ソル・・・どこ行っちゃったんだろう・・・』
テスにゃんは不安になりました。
一人で待っているのは淋しくて仕方がありません。
『でもでも…ソルはお家で待ってろって言ってたし…』
もしかしたら、うんと遠くに行っていて、帰りが遅れているのかもしれません。
明日の朝になったら戻ってくるかもしれないのです。
だから、テスにゃんは淋しくても我慢して待つことにしました。
テスにゃんは泣きながらその日は眠りました。
ところが、朝になってもソルにゃんが帰って来た様子はありません。
『どうしたんだろう…。もしかして迷子になっちゃったのかな…』
もうテスにゃんは待っていられませんでした。
『私が探しに行ってあげなきゃ…！』
そう決心すると、テスにゃんはソルにゃんの出かけた方へ向かいました。
『どっちかな…、こっちの方がおっきい道だから、こっちかなぁ？』
とっとっと…。テスにゃんは一人で歩いています。
森の中はぽかぽかして、今日もいいお天気でした。
『あったか～～～い♪　いい気持ち…』
お花が咲いていて、お昼寝するのに丁度いい日溜まりがあちこちにあります。
テスにゃんは思わずうとうとしてきます。
『はっ…！いけない、いけない…私はソルを探さなきゃいけないんだ』
そう思ってみても、昨夜は一人で淋しくてあまり眠れなかったテスにゃん。
ついつい、お花に囲まれて眠ってしまいそうになります。
それに、余り沢山お外を歩いたことがないでので、ちょっと疲れてもきました。
『う゛～、だめだめ…。………でも、ちょっとだけ…』
んしょ、とテスにゃんはちょっと高くなった場所に丸くなりました。
ほんわかと暖かくて、すぐに眠くなってきました。

『ソル・・・どこにいるのかなぁ・・・』
うとうとと夢路を辿りながらも、考えるのはソルにゃんのことばかり。
夢の中で、テスにゃんはソルにゃんを見つけていました。
『ソル・・・会いたかったよ…』
くすくす…テスにゃんは笑っていました。
「…んだ、こんなとこにネコ？　何でこんなとこに寝てやがんだ？」
あれ、人の気配がする？と思ったとき、テスにゃんはもう掴み上げられていました。
『ミーーーーーーッ！！！』
首の後ろを掴まれて、テスにゃんは空中でじたばたしていました。
「コラ、んな暴れんなって…」
声の主はテスにゃんをぎゅぅっと抱きしめました。
みっ、みっ…。
テスにゃんはその人間の腕の中で泣いていました。
とても、ビックリしたのです。
『離して。離して～～～～』
その人間は、困ったように腕の中で泣きじゃくるテスにゃんを見ていました。
やがて、人間は歩き出しました。
「・・・おら」
テスにゃんの目の前に一輪のお花が差し出されました。
『みっ？』
綺麗なお花でした。甘い、良い香りがします。
テスにゃんの鼻先でひらひらとお花が揺れていました。
『み～？　みっ、みっ』
お手々の先でちょいちょいと触ると、お花はゆらゆらと揺れ、花粉が零れました。
『にゃっ♪』
ぱぁっとテスにゃんの表情が明るくなりました。
嬉しそうにお花をたしたししています。
「・・・やれやれだぜ」
テスにゃんを抱っこしながら、人間は更に森の奥深くへと進んでいきました。
テスにゃんは抱っこは嫌いではありません。
いつしかその人間の腕の中で、テスにゃんはこっくりこっくりしていました。

「おぅ、テス、今戻ったぜ」
「あ、お帰りなさい、ソル。早かったね」
「・・・土産だ」
ソルは腕の中の猫をテスタメントに渡した。
「わ、可愛い♪　どうしたの、この子？」
テスタメントはぐっすりと眠っている猫を嬉しそうに受け取った。
「…森で拾った」
無愛想な言い方だったが、それ以上どうとも言い様がない。
テスタメントの喜ぶ顔を見たいから拾った、とは言えないソルだった。
「お前…小せぇもん、好きだろ？」
「…もしかして、私の…為？」
無言でソルはそっぽを向いたが、僅かに頬が赤くなっていた。
「嬉しい…すごく、嬉しい。ありがとう、ソル」
テスタメントは飛びきりの笑顔を見せた。
そう、この顔が見たかったのだ。
ソルは内心でそう呟いていた。
愛する人の笑顔は、何よりも美しいのだから。
「あ、そうだ。私も見せたいものがあるの。ちょっと待ってて」
テスタメントは腕の中の猫をそっとソファーに寝かせると、寝室に向かった。

『あ～、くそ。腹減ったぜ。…テスの奴、心配してんだろうな…』
ソルにゃんはお部屋の中をぐるぐると歩き回っていました。
昨日ここでご飯を食べさせてもらって、ついお泊まりしてしまったのです。
本当はテスにゃんの所に帰りたかったのですが、何故かこの人間には逆らえないのでした。
「おいで、にゃんこちゃん」
ドアが開いた、と思ったらソルにゃんはあの綺麗な人間に抱っこされていました。
逃げようとじたばたもがいても、耳の後ろをくすぐられ、力が入りません。
「そんなに暴れないで。イイ子だから、ね？」
優しい声が聞こえてきます。
こんな人間に会ったことは、ソルにゃんにはありませんでした。
「ほら、ソル。昨日迷い込んで来たの。ソルにそっくり♪」
ソルにゃんの目の前に、またまた見知らぬ人間がいました。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
一人と一匹は沈黙したまま睨み合いました。
「ね、可愛いでしょ。さっきの子と一緒に飼ってもいい？」
ソルにゃんはその時、大好きな匂いに気が付きました。
間違い有りません。テスにゃんの匂いです。
ソルにゃんは何とか身を捩ってそこから飛び降りました。
『テス・・・っ！』
『あ、ソルゥ～～～～～！』
なぁぁぁぁ～～～～～うぅ～。
二匹はしっかりと抱き合いました。
「…何だか、知り合いみたいだね」
「あぁ・・・」
ちょっと呆気にとられた二人が見ている前で、ソルにゃんとテスにゃんは感動の再会です。
『会いたかったの。淋しかったの、ソル』
『ばか、泣くな…』
『だって…だって…ソルどっか行っちゃったのかと思って…』
『俺がお前を置いていく筈、ねぇだろ』
『だって・・・だって・・・』
ソルにゃんは、テスにゃんのほっぺを舐めてあげました。
『…おら、こうだ』
『あぁんっ…！』
「やっ…やだ、この子ったら…！　…もう、ホントソルそっくりなんだから～」
いきなりテスにゃんに乗っかったソルにゃんを見て、黒髪の人間が顔を赤くしました。
「…俺はこんなに年中盛ってねぇぞ」
憮然とした表情でもう一人の人間が言います。
「・・・どーだか・・・・・・」
黒髪の人間はそう言うと、毛繕いをしているソルにゃんとテスにゃんを抱き上げました。
「私はテスタメント。今日からここがお前達のお家だよ」
『にゃっ？』
テスにゃんはおっきな赤い目でその人間を見上げました。
「ふ～ん、やっぱりコイツはお前に似てるぜ」
テスにゃんをここまで連れてきた人間が、ひょいとテスにゃんを掴み上げました。
「お前の名前はテスだな」
「・・・私と同じ名前なの？」
『私はテスだよぉ～～』
「ほら見ろ、こいつも賛成してるぜ」
「…まぁ、いいけど。可愛いもんね。じゃあ、こっちはソルだね」
「…何でだ。こんな可愛くねぇ猫。捨てちまえ」
黒髪の美しい人は言いました。
「私の傍にはいつもソルがいないとダメなの」
それは、愛の告白なのでしょうか。
ぶっきらぼうな人は、にやりと笑いました。
「いいぜ、じゃ、お前がイイという迄いてやろうじゃねぇか」
「……うん、嬉しい」
そして二人はしっかりと抱き合いました。
一方のソルにゃんとテスにゃんです。
『テス、お前どうすんだ？』
『ソルはどう思うの？　私はソルと一緒ならどこでもいいの』
『・・・まぁ、メシは食えるな』
『じゃあ、ずっと一緒にいられる？』
『・・・あぁ』
『嬉しい♪もうどこにも行っちゃ嫌だよ？』
ソルにゃんとテスにゃんも、しっかりと抱き合いました。
こうして、森の中のお家は、二人と二匹が暮らし始めるようになったのでした。
～Ｅｎｄ～