予鈴のチャイムがしたけど、気持ちいいから動きたくない。
　あの時もこんな感じだったっけ。寝てたら、声がした。
「何をしている。入学式が始まるぞ、講堂に行きなさい」
「ん〜…いいよ、面倒だもん」
　横になって、暖かい日差しを浴びてたのに、影がかかった。
　俺は眠かったし、目を閉じたまま答えた。そしたら、ちょっと怖い声。
「教師として見過ごす訳にはいかない」
「……あのねぇ、先生。俺ね、テニス部に入るんだよ」
　かみ合わない答えをした。それから俺はそっと目を開けて、テニスコートを見る。
「だからね、俺はここで１人で入学式するの。コートが見えるから、ちょうどいいよ」
　そう言ったら、影が動いて、眩しい光が戻ってきた。
　いなくなったのかなって思ったら、隣に座って、俺の頭を撫でてきた。
「偶然だな。私はテニス部の監督をしている。榊だ」
「そっか。じゃ、先生が俺の入学式して。俺、芥川ジロー」
　ニッコリ笑って起きあがると、一瞬驚いた顔してから、先生、苦笑いしたんだよ。
　今でもちゃんと憶えてるんだよ。大好きな先生と一番最初に逢った時の事。
「芥川、行きなさい」
「キスしてくれたら、行くよ」
　そうしたら、俺、ちゃんと授業に行くし、部活も行くよ。
　二年経った今、俺は同じ場所で同じ人に少し駄々を捏ねるように言った。
「…世話の掛かる」
　先生が寝ていた俺の髪を撫でて、それから唇に優しいキス。
　とっても嬉しい一番のキス。
　気持ちいいな、動きたくない。だけど、約束しちゃったから。
　俺は起きあがって、教室に向かう。
「先生も早く授業に出ないとダメだよ？」
　ニコッと笑い、俺は走り出す。
　やっぱりあの時と同じ。先生は苦笑いをして、俺を見ていた。