夜宴　〜Escort〜

『聖なる香薬』、ナーヴェリーが完成してから数日。
アンヌンの住人達も次第にフラヒスへ足を運ぶようになっていた。
しかし、まだ以前のように定住するといったわけではなく、
気が向けば行き来するといった気分次第のものであった。
そして今夜、和解を成したことを祝うための晩餐会が、
ここフラヒスで行われうようとしていた。
宮殿の中はいつもと違った浮き足立った雰囲気が立ち込めていた。
追われるように走り回る使いの者達の姿も見られる。

そんな喧騒から離れた距離にある部屋の中では、
外の雰囲気とはまったく逆にピリピリした空気が充満していた。
ベッドの端に腰掛けたクレイドルにナデューがケンカ腰で問い詰める。
「なんだってオマエはそうイヤがるンだ？いいじゃねェか少しくらいよ〜」
ナデューに掴まれた肩が痛い。
力が入った指先から伝わるナデューの想い。
「…ここではイヤだ。それだけだ……」
真っ直ぐにナデューを見ることができなくて、顔を背けてしまう。
「何がイヤか言ってみな。そうしなきゃわかンねェんだよ、オレには…」
ナデューはクレイドルの頭を抱えると、自分の胸にぎゅっと押し付けた。
「まだ何か不安なのか？オレじゃダメなのか？」
先程とは逆の優しい口調になった。
「…違う、そうじゃない…。オレは……」
ナデューに抱かれたまま首を振る。
クレイドルが黙ってしまったので、ナデューも敢えて口を挟まなかった。
ナデューの鼓動が気持ちを落ち着かせる。聴いていると心が安らぐ。
「…恥ずかしい…だけだ……」
ぼそっと呟くクレイドルの言葉がナデューには聞こえなかった。
「ン？聞こえなかった。クレイドル、もう一度言ってみな」
「…恥ずかしい、そう言ったんだ……」
ナデューはクレイドルをそっと離すと、床に膝を付き目線の高さを合わせた。
「バカ、何が恥ずかしいって？オレ達のことか、それともこれからヤることか？」
クレイドルの額に自分の額をくっ付ける。
お互いの微熱が伝わりあう。
「…違う。オマエと一緒にいるのを見られるのが…。
他のヤツラに見られるのが……、恥ずかしい…だけだ」
「何で恥ずかしいンだ？オレとオマエの仲なんて、皆知ってやがるぜ。
今更だろう、そんなことはよ〜」
ナデューはクレイドルがそんなことでどうして恥ずかしがるのかわからなかった。
「今更…なのかもしれないが、それでもオレは公の場でオマエといるのは…。
オマエは人目を憚らず、オレに構うだろう。それが……」
「構う…か。それは人前でイチャイチャするってェことか？
フン、そんなの気にすンなよ。それにそれはオマエの気の回しすぎだ」
クレイドルの唇に自分の唇を重ね合わせる。
「安定剤…だ。わかった、ヤツラの前じゃイチャイチャしねェよ。それでいいンだろ」
「ナデュー。悪い、ワガママばかり言って…」
「そんなことはいいぜ、クレイドル。
その代わりと言っちゃぁなンだがよ、あとでその分返してくれればいいぜ」
いつものナデューのニヤリが口元に浮かぶ。
「ああ、わかった」
クレイドルはナデューのその言葉に安心した。
そして、ナデューの笑みの意味をこのときのクレイドルは知る由もなかった。

晩餐の用意ができたと知らせが来た。
ふたりは揃って部屋を出る。
ナデューは廊下に誰もいないのを確認すると、クレイドルの手を握った。
「ナ、ナデュー！オマエさっき何もしないと約束したじゃないか」
クレイドルは顔が赤くなるのを感じながら、それでも手を離そうと躍起になる。
しかし、思いのほか力強く握られているので手を離すことができない。
「約束だ〜？そんなのヤツラの前ではしねェって言っただけだぜ。
今は誰もいねェんだからいいじゃねェか」
その言葉を聞いてクレイドルは大きな溜息を吐いた。
「オマエに頼んだオレがバカだった……」
ナデューはそんなクレイドルを連れて、晩餐会へ向かった。
そろそろ会場へ着くという頃、後ろから声を掛けてくる者がいた。シトラとソリュードだ。
「仲がよろしいことで、羨ましいねえ。目の毒、目の毒ってね」
「目の毒ってことはないんじゃないか、シトラ。むしろ微笑ましい…かな」
そう言っただけでふたりはナデューたちを追い越していった。
「…シトラとソリュードか。よかった他のヤツラじゃなくて。ナデュー、そろそろ着く。手を離せ」
ナデューはクレイドルに振り向くと一言、こう言った。
「イヤだ」
あまりに簡潔だったので、クレイドルは一瞬言葉を失った。
「イヤだって、ナデュー。さっき言ったじゃないか、イチャイチャしないと。
オマエは約束を破るのか？」
「別に破っちゃいないぜ。手を繋いでるだけじゃねェか。
こんなのイチャイチャするうちには入らないぜ、クレイドル」
目の前が真っ暗になる。
ナデューはこういうヤツだったと思い出す。
いつもより優しかったキスに騙された。
茫然自失しているうちに晩餐の席へ通される。
クレイドルの心配をよそに、周囲はナデューとクレイドルを見てはいなかった。
席に着くとナデューが耳元で囁いた。
「心配するほどのこともねェだろ、クレイドル。
堂々としてりゃ、誰も何も言わなェンだよ。だ・か・ら、安心してろ」
ナデューはそう言うと、繋いでいた手を口元に寄せクレイドルの甲にキスをした。
「…ナデュー、こういうのをイチャイチャするって言うんだ……」
溜息混じりにそう言うのがやっとだった。
しかしナデューに言わせれば、それはエスコートだったのだ。
愛しい人を守る、ただそれだけの行為。

そして、和解の晩餐会は始まる。
澄み切った夜空には光る自然の芸術。
今宵の宴を祝うかのように、星が幾つも流れていた。

　−FIN−

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かがみ様より頂きました４１００Ｈｉｔのキリリク♪
兎に角幸せでラブラブな二人を、ということで「フラヒスに戻った二人」でリクしましたら、
こんなに素敵なラブラブっぷり！脱帽ですわ〜。
アップのお願いも快くオーケーして下さいまして、ありがとうございます。
最後のクレイドルの諦めたような台詞がスゴク好き(^^)
あの白い頬がほんのりと赤く染まってるんだわ〜とか。
妄想を逞しくしてしまいましたワ。
この「ティルナティリ一の幸せ者っ！」（笑）
ありがとうございました、かがみ様♪