月の魔力
蒼白い月の光を浴びるオマエの横顔が、
今夜はやけにキレイに見えやがる。
闇夜に浮かぶこの世のものではない美しさ。
まるで天からの『贈り物』っていったふうにな。
「…ナデュー、オレを睨みつけるのはやめろ。さっきから気になって仕方がない」
クレイドルは、夜空に浮かぶ月から隣にいるナデューに視線を移すと、ぶっきらぼうにそう言った。
「睨んでたわけじゃねェ。見惚れてたんだ。それに気になって仕方がねェなら、オレを見ろ。
オレはオマエしか見てねェのに、オマエはオレより月ばかり見てやがる。
オレより月のほうが気になるってことか？なぁ、クレイドル」
ナデューは真っ直ぐクレイドルの瞳を見つめながらそう言うと、最後にニヤリと笑った。
「……ナデュー、オレはそういうわけじゃ…なくて……」
ナデューの視線を感じ、身体中が熱を帯びる。
返す言葉もたどたどしくなる。
それを隠そうと、クレイドルは身体の向きを変えナデューに背を向けようとした。
その瞬間を見逃さず、ナデューはクレイドルの腕を引き抱き寄せた。
「そういうわけじゃなくて、なんだよ。なぁ、言ってみろよ、クレイドル」
クレイドルの耳元で息を吹きかけるように囁く。
そして耳たぶにカプッっと噛み付いた。
「…っ……」
「言いたいことは、もっとはっきり言おうぜ」
耳たぶに、そして身体の中で感じるナデューの唇と息遣い。…存在。
それを悟られたくなくて、クレイドルは必死で違うことを考えガマンする。
いや、しようとしていた。それなのに。
「口に出したほうがもっと気持ちよくなれるんだぜ。誰に聞かれるわけでもねえ。
ここにはオレとオマエしかいねェんだし、遠慮することねえよ、クレイドル」
ナデューにはクレイドルの考えていることなどお見通しだ。
それなのにそれを隠そうとしているクレイドルが可愛くて、つい苛めたくなってしまうのだ。
ナデューの両手がクレイドルの頬に触れる。
そっと包み込み顔を上げさせる。ふたりの視線が重なり合う。
「…ナデュー……」
「ん、なんだ？クレイドル」
クレイドルは一瞬視線を逸らしたが、またナデューに戻す。
そして思い切ったように言う。
「本当はオマエの視線が気になったわけじゃないんだ。気になったのは…。
月の光がオレの中の何かを呼び覚ますような、呼ぶような、そんな感覚がして…。だから……」
ナデューの手に伝わるクレイドルの体温が徐々に上がっていく。
「だから？」
ナデューの顔が段々と近づく。
クレイドルの左瞼に軽く唇を寄せる。
「だからどうしたんだ？」
両手をクレイドルの頬から離すとそっと抱き寄せた。
「…だから、怖かった。怖いのにオレは目を逸らすことができなくて。
月の光に引き込まれそうになったとき、オマエがいたから……。
オマエが隣にいてくれて、月の光より強くオレを呼んでくれたから戻ってこられた。…ナデュー……」
クレイドルがナデューの肩に顔を埋め、胸の中でそっと呟く。
（…愛してる……。オレを…独りにしないでくれ。オレを離さないでくれ…。）
ナデューはそんなクレイドルの心の言葉が聞こえたかのように、力強く抱きしめた。
そして、優しく囁くように言う。
「怖がることなンかねェよ。オマエは独りじゃないし、オレはオマエの隣にいる。
今までだってこれからだってよ。ずっとだ。だから安心して月でもなんでも見てろ。
どっかに行きそうになったら、またオレが引き戻してやるからよ。
だから…そんなに不安になるな。怖がるな。だが、たまにはこんなカワイイのもいいけどよ」
ナデューはクレイドルの今にも泣き出しそうな顔を上げると、今まで以上に優しく唇を重ねた。
時間をかけてゆっくりと、安心を与えるように。その唇から愛情を注ぎ込むように。
クレイドルもそれに応える。
自分の愛情をナデューに注ぎ込む。
優しく激しく、深く濃厚に。自分の想いをいっぱい込めて…。
クレイドルが引き込まれそうになった、神秘的な月の魔力。
その月の光がふたりを包み込む。
今度は祝福するかのように。温かく見守るかのように。
天からの『贈り物』は、ここにもう一つあった。
ふたりを強く結びつける、静かな時の流れ。
― FIN ―
イギア様
こんなんでよければもらってください。
いえ、もう押し付けちゃいます（笑）。
あとはお好きなようにしてくれちゃってかまいません。
今回思い切ってクレイドルをかわいく？してみました。
姫なクレイドルと王子なナデューを目指したのに、
なんだかちょっと…ずれてます？（苦笑）
一応解説なんぞを…。
ナデューはクレイドルが月ばかり見ているのが気に入らなくて、
ちょっと意地悪をしてみたくなっただけなのに。
それはクレイドルを助けることとなった。
月に恐怖を感じていたクレイドルは、ナデューの存在に助けられる。
自分を愛してくれて、守ってくれて。
普段素直になれないクレイドルが、こんなにも言葉にするのは珍しいこと。
ナデューにもそれはわかっていた。
だからこそ、愛して守って抱きしめた。
お互いがお互いを必要とする。お互いの愛情を確かめ合う。
そんなふたりを見守るのは、夜空に浮かぶ月。
先程クレイドルを引き込もうとした月が、今度はふたりを守る側に。
恐怖心を克服した者のみに与えられる、静かな空間。
ってとこでしょうか。
それでは、お目汚しとなってしまいましたがこれにて。
ではでは〜(⌒0⌒)／~~
かがみ
ありがとうございました〜。
数少ないナデュクレの同志かがみ様から、まさか頂けるとは思ってもおりませんでしたよ〜。
素直なクレイドルが可愛い♪
そして、ちょっぴりヤキモチ焼きのナデュー。もう、すっかりラブラブね。
くは〜、感激ですぅ。ほんとに、ありがとうございましたｍ（＿ ＿）ｍ
