「それじゃあ、赤也の卒業と就職を祝って、乾杯」
「かんぱ〜い♪」
あの頃と殆ど変わらない光景。けれど、今は未成年の集まりではない。
そして、殆どの人間が就職し、社会人になっていた。
プロ・テニスプレーヤーになった真田。
きっちり正装して来ている所為か、どう見ても証券マンか公務員にしか見えない。
その隣で相変わらず計り知れない笑みを浮かべている幸村。
その性質を活かしてか、保父さんになった。
大学へは行かずに高校卒業後働き始めたジャッカルは、その運動能力を活用してスタントマンになった。
折角髪を伸ばせると思ったのに、カツラを被りやすい、と言う理由から、相変わらずスキンヘッドのままだ。
そのジャッカルの隣であの皿この皿から料理を取りまくる丸井。
「一生俺が食わせてやるから」という言葉に、思い切りよくジャッカルの家に転がり込んだ。
現在は暇つぶしにスポーツインストラクターなどやっている。
いつものように端正な柳は、現在公認会計士の資格を取るために、父の事務所で働いている。
彼の手に掛かっては、グラスの日本酒などまるで水のようだった。
そして、卒業したての赤也は、父のコネで入れる筈の会社を蹴って、春からフリーター生活が待っている。
苦手の英語を覚えなければならない職場などまっぴらだった。
最後に、まだ一人だけ現役の学生である柳生。医学部だけは六年であるからだ。
「医者になると何かと便利ですから」という理由で医大へ通っている。
だが、一人足りない。銀の髪をした詐欺師の姿が見えなかった。
「何であいつと連絡取れねぇんだろ。柳生知らね？」
「いいえ、一向に」
丸井が、学生時代最も仲の良かった柳生に尋ねるが、柳生の返事は素っ気ないものだった。
そんなメンツで始まった飲み会である。
さて、宴も酣。
「そーいや、俺、この間初・合コンしたんだぜ」
「なんだよ〜、ジャッカル、女とする暇があったら、俺に美味いモン食わせろよ〜」
「だから〜、あん時は奢りだったんだって」
仲の良い二人の姿は微笑ましかった。
「なぁなぁ、柳生はしたことある？」
ほろ酔い気分のブン太が、うっかり隣で飲んでいた柳生に声を掛ける。
「え？…あぁ、ありますよ、それくらい」
「マジ？なぁなぁ、教えろよ〜」
ブン太がそう言ったのは、柳生が女の話などするのが珍しかったからだ。
いつも仁王の事しか話さない男だから興味を惹かれた、それだけだった。
「そう、あれは桜の花の舞い散る、美しい春の夜のことでした…」
ウヰスキーグラスを片手に、柳生が少し遠い目をして語り始める。
「あの時私は１６になる前でしたか…二人で、夜道を歩いていたんです」
うんうん、と頷きながら聞いているが、ブン太は少し違和感を感じた。
しかし、酒の力の前では、そんな微かな疑問など吹き飛んでしまう。
「月も花も美しい…けれど、隣を歩く彼はそれよりももっと綺麗で…」
彼？彼女じゃなくて？今度こそブン太の頭に疑問符が浮かんだ。
「銀の髪に花びらが一片…私は取って上げようと手を伸ばしました」
珍しくロマンティックに語る柳生の声に、いつの間にか全員が耳を傾けていた。
「彼は月の光を浴びて私の前に立ち止まりました。…まるで夢か幻のように美しく、儚く消えてしまいそうで…壊してしまいたいくらい綺麗で…。だから、きっと彼は私に奪われるために存在してるのだとその時確信して…其の腕を掴むと私は彼を桜の木下闇に引きずりこんで、幹に押しつけて衣服を剥ぎ取った…逃げようとするのを髪を掴んで引き戻して、幹に縋らせて背後から激しく…」
「わ〜〜〜〜〜！！！！」
奇声を発したのは赤也とブン太だった。
「なななな何言ってんスか、柳生先輩！」
「それのどこが合コンなんだよ！」
話を中断された柳生はさも心外といった表情で答えた。
「初・強姦話ではなかったのですか？」
「ちがーーーーーう！」
その時、誰もが気付いた。柳生の目が遠くを見ているのではなく、只単に据わっているのを。
「兎に角、これからが良いところなのですから、黙って聞きたまえ」
「やだ〜、ジャッカル助けて〜〜〜」
「貴様、精市の前で何たる事を言うのだ、たるんどるぞ！」
真っ赤になって怒鳴る真田。その顔の赤さは怒りの故か酒の為せる業か。
「…何を言っているのですか、真田くんだって幸村くんとしているのでしょう」
気色ばむ真田に、鼻で笑って答える柳生。
「な、な、な・・・」
怒りの余り声も出ない真田を正面から見据えて、柳生は続けた。
「話を聞くときは人の目を見て聞けと言われているでしょう。しっかりと私の目を見て聞きなさい」
騒ぎに加わるでもなく静観していた柳が、その時口を開いた。
「…ちなみに念のため聞くが、その相手は誰だったんだ？」
「勿論仁王くんですよ、当然でしょう。私が仁王くん以外で勃つとお思いですか？・・・さ、それではじっくりと聞いて頂きましょうか」
柳生は真田とジャッカルを生け贄に選んだらしい。懇々と何が何やら分からない話が続いていた。
「ねぇ、柳、ひょっとして仁王は・・・」
「あぁ、そうだな。恐らく柳生に…」
それ以上言わずとも、幸村は何か察したようだった。
二人は目を見交わして深い溜息をついた。
詐欺師・仁王雅治には、この先どんな未来が待っているのだろう。
「…まぁ、いいよね、当人達が幸せなら」
「あぁ、俺達がどうこう言う筋のことではないしな」
二人は知っていた、仁王のためなら世界を壊せる男・柳生の恐ろしさを。
無理にでも引き離そう等としたら、一体何をするのか。
ここはもう、傍観の一手しかないのだろう。
コレクター・柳生に幸在れ。〜その後〜
「ひろ、遅かとよ」
「これでも急いで帰ってきたんですよ」
「待ちくたびれたとね。俺、寝る」
「いいんですか、貴方の好物があるというのに」
「なん？肉？」
「私です」
「…ケダモノ」
「おや、お嫌いでしたか？」
「嫌いとは言うとらんけど…」
「そうでしょう？今朝だってあんなに、ねぇ？」
「…ほんま、絶倫やの」
「貴方がいやらしくて可愛いからですよ。さ、此方へ来たまえ」
「・・・うん」貴方を縛り付けて
貴方の足下に額ずいて
祈りを捧げる様に貴方に愛を誓おう…******
所要時間一時間半！(笑)
早い、早いぞ、アキラ並だ！(笑)
高校卒業後、仁王をマンションに監禁してしまった紳士。
滅多なことでは外に出してあげないのです。
自分と一緒でないとね。
酒の席なんて以ての外！
仁王のフェロモン全開になっちまうから(笑)
そんな紳士の笑い話です(笑)
え、笑えない？そうですか、お目汚しで失礼しました。
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