「ディズィー、食料が残り少なくなってきた。取ってきてやろう」
テスタメントは立ち上がった。長い艶やかな黒髪がさらりと零れて、とっても綺麗。
私は見送る。この、二人で暮らしている家から出てはいけないと、いつもテスタメントに言われているから。
でも、最近気になることがあるの。
以前は食料が見つかったらすぐに帰ってきてくれたのに、近頃は朝からでかけて、日が落ちるまで帰って来ない。
勿論、沢山食料は持ってきてくれるんだけど、どうもそれだけじゃないみたい。
だから、どこで何をしているのか、どうしても確かめたいの。
うぅん、疑っている訳じゃないの。ただ、誰かに騙されているんじゃないか、それが心配なだけ。
冷静そうに見えても、人が好いのよね。すごく優しいし。
私はそっと後を追った。
あら、森の奥に向かっていくわ。あっちの方に何か美味しい物でもあるのかしら。
私に見られて居るとも知らず、テスタメントは、木の実なんかもいでいる。
果物を持参した籠に詰め、時々道ばたの花をじっと見つめたりして。…可愛い(^^)
…何もないわね。私の思い過ごしだったのかしら。
「・・・よぉ」
誰かしら、あの男。まるで、テスタメントを待っていたみたいに現れたわ。
私はその男に…
　１．ある種の懐かしさを感じた。
→２．一生のライバルになると直感した。
　３．胸をときめかせた。
答えは無論２番だわ。
あ、ちょっと待って、何をするの…！
「やめろと、言っているのに…！」
テスタメントの叫び声。…でも、心なしか顔が嬉しそうに見えるのは何故かしら。
男はいきなりテスタメントに襲いかかると、無理矢理衣服を剥ぎ始めた。
…でも、やっぱり手慣れているみたい。あっという間に全部脱がせ終わってしまったもの。
あっ、止めて、そんなことしちゃ駄目…！
見ていられなくなった私は、両手で顔を覆った。
「指ノ隙間カラ見エテイルヨウダゾ・・・」
ネクロ、お黙りっ！
私の耳には、風に乗ってテスタメントがあンあン言わされている声が聞こえてくる。
………随分色っぽいわね。
「心臓ノ動悸ガ早イヨウダワ・・・」
ウンディーネもお黙りっ！！
「ソル、…あぁ、ソル・・・」
テスタメントの幸せそうな声。その男の首に腕を回して、キスをしていた。
・・・何なの、あの男はっ！　偉そうに尻尾なんか生やしちゃって。
「オ前ニモアルデハナイカ」
煩いわね、私はいいの。ギアなんだから。
それから、草の上で繰り広げられる光景を、私は最後まで見届けてしまった。
うぅん、違うわ、これは覗き趣味なんかじゃない。私の義務だもの。
だって、テスタメントは私の大事な騎士。私のものだもの。
それから、放心したようなテスタメントにもう一度キスをすると、その男がこっちへ向かって歩いて来た。
いけない、誰かに見られたら、私がギアだとばれてしまう…！
私は踵を返すと、走り出そうとした。
「・・・おい、待て」
背後からかけられた低い声。私は足を止めた。
男は物も言わず目で少し離れた場所を指した。私は逆らわず、その男に付いていった。

「…てめぇがディズィーとか言う小娘か」
「私の気配に気づいていたの？」
男は唇の端を少し持ち上げて笑った。獰猛な笑みだった。
「それに、何故私のことを知っているの？」
男はポケットから煙草を取り出すと火を点けた。
「・・・犯った後の一服は最高だぜ」
私はムッとした。
「お願い、答えて！　そうしないと、私・・・！」
私の内部で、人とは異なる力が高まっていく。
「…やる気か？　いいぜ、受けて立ってやらぁ…！」
男も煙草を投げ捨てた。

　ＨＥＡＶＥＮ ｏｒ ＨＥＬＬ？　Ｌｅｔ’ｓ　Ｒｏｃｋ！

「ちょっと、何してるの、二人とも、やめてっ…！」
遠くでテスタメントの悲鳴が聞こえた、と思ったら・・・。
私とその男の間にテスタメントの大鎌が割り込んできた。
「ソルっ…！　いきなり、いなくなったと思ったら…！」
走り出てきたテスタメントは、何とかスカートだけは穿いていたけど、いつものチューブトップはつけていない。
キャ、恥ずかしい♪…でも、胸の辺りは赤い痕がくっきりと散りばめられている。
…ちゃんと、「見えない位置」に。…計算しているのね、この男。
「あ、あの、テスタメントさん…その人は…？」
私はわざと訊ねた。聞かなくても大凡の見当はついているわ。
「あ…あの、ソル・・・なんだけど…」
どうもはっきりしない。心なしか頬が赤い。勿論、私が見ていたことには気付いていないみたい。
「はっきり言ってやれよ、恋人だってな」
火を噴く剣を地面に突き刺し、男はまた煙草に火を点けていた。
「ソ、ソルったら…！」
一気にテスタメントの顔が真っ赤になった。図星って顔だわ。
「・・・まさか、テスタメントさん、その人と行ってしまうんじゃ…！」
私は涙を溜めた目で、テスタメントを見上げた。
「いや、あの、違うんだよ、ディズィー。…だからね、あの・・・」
慌てふためいているテスタメントの姿なんて、滅多に見たことないわ。
「ふん…俺とテスの間には、てめぇなんぞよりもっと深い縁があるんだよ」
ソル、と言ったかしら。余裕綽々の顔で煙を吐き出している。ムカつく男ね。
テスタメントは私の騎士。私のもの。渡さないわ。
「酷い、…酷いわ・・・！」
お姫様の騎士が王様に食べられてしまうなんて…！　こんなお伽話はないわよ！
私は駆け出した。テスタメントが追ってくることを期待して。
「あ、ディズィー、待って…！」
「追う必要はねぇぜ。…あの娘、ずっと俺達を見てたんだからよ」
「え？　まさか、ディズィーがそんな…」
「…じゃ、どうしてタイミング良くあいつがこんなとこにいんだよ」
「・・・それは…。…でも、追い掛けないと」
「・・・行かせねぇよ。お前は俺のモンだって言ったろうがよ」
「あ、ちょっと、ソル…！　やめてっ…！」
何故か、私の耳にはそんな会話まではっきりと聞こえた。
悔しい。負けないんだから…！

それから三日、テスタメントは戻って来なかった。
きっと、あのソルにあンあン言わされているのね。もう隠す必要がないから。
そんな私の目の前に現れたのは、一人の男。
伊達っぽい黒メガネに黒いコートと洒落た帽子。
「お前さんを迎えに来たもんだ」
・・・いいわ、行っちゃおう。どうせ、テスタメントは戻ってこない。
でも、私は諦めた訳じゃないわよ。いつか、きっとテスタメントも私の物にしてみせるから。
それまで、待っていなさい、ソル＝バッドガイ！

〜更に数日〜
漸く家に戻ってきたテスタメントと、くっついてきたソル。
「あ…ディズィーがいない・・・」
「俺達に気兼ねして出て行ったんだろうぜ。いいじゃねぇか。これでゆっくりやれる」
「でも・・・」
「さぁて、お前には先ず、俺のいない間にあんな小娘と仲良くしていたお仕置きだな」
「ま、またそれなの〜〜〜〜」
やっぱりこういうオチなのであった。

〜Ｅｎｄ〜