「あの子を脱がせ隊」

「ロン！」
「なん？　コレ、当たり？」
仁王は、きょとんとした顔で丸井を見た。
「へっへ〜。さぁ、脱いでもらうぜ」
丸井は勝ち誇った顔で牌をさらした。
「うおぉ、やったぜ、ブン太！」
男どもの野太い歓声が上がる。
さぁ脱げ、チョーカーか、エプロンか、ヘッドドレスか。
これから一枚一枚じっくり脱がせてやるぜ。
野郎どもの目は、如実にそう語っていた。
「ま、しゃーないの。これも約束やしのう」
そう言って、仁王はゆっくりと衣装に手を掛けた。
ごくり、と生唾を飲み込む男達の目の前に、ひらりと翻る黒い物体。
「！！！！」
挑発するようにひらひらと仁王はそれをみせびらかした。
「コレ一枚、幾らくれる？」
教室を揺るがす、熱気に満ちた興奮のどよめき。
「バッカ、俺が勝ったんだから、それは俺のモンだぜ」
うおぉぉぉっ、寄越せっ、羨ましいぜ、ブン太！！
と言うような意味不明の雄叫び。
ちょっと待て、いくら女物でもヤローの穿いてたパンツだぞ。
そういう常識的なツッコミをする人物は、幸か不幸かここにはいなかった。
今頃体育館でサンバでも踊っているに違いない。
「仁王くん！！何をやっているのですか、貴方は…！」
そこへ飛び込んできたのは、プレゼンテーター柳に、先程の競売の金を払って来た柳生であった。
「何って、脱衣麻雀やけど？」
至極当然、と言った顔で仁王が答えた。
「駄目です、それぐらいなら私が脱ぎます！」
うるせぇ、てめえのヌードなんぞ見たくねぇ！
ひっこめ、変態紳士！
次々と飛ばされる盛大な野次も知らぬ顔で。
「柳生もやる？」
ちらりと柳生を見上げる仁王の表情は、充分に計算されたものだった。
「あの…すみませんが、麻雀というのはやったことがなくて…」
本当に申し訳なさそうに柳生が言う。
仁王の顔が、嬉しそうに笑み崩れた。
誰も見たことのない、そんな表情に誰もが見とれる。
仁王としては「得意科目：全科目」などとふざけた事をヌカす男にも、
知らないことがあるというのが嬉しくて仕方がないだけなのだが。
いいから帰れよ、という殺気立った男どもの視線など意に介さず。
「なら、俺が教えちゃるけん、座り」
ガタガタと近くの椅子を引き寄せようとする柳生を制し、仁王は席を立った。
「ここ。はよ座り」
言われるがままに腰を下ろす紳士。
他の野郎どもは、何が起こるのかとただ見つめるばかりだ。
「足、開いて」
よっこいしょ、と柳生の足の間に腰を下ろす仁王。
フワリとスカートが広がった。
「ににににに仁王くん…！」
柳生、てめぇ、コノ野郎…！と男どもは視線だけで柳生を殺しかねまじき勢いだ。
所在なげにわたわたと柳生の両手が宙を彷徨う。
「これなら、後ろから見えるやろ？」
わざとその胸に背中を預ける。
「お前らさー、イチャつくのいい加減にしてくんね？」
呆れたように丸井が言う。
折角のお楽しみがおじゃんだ。
「俺はいつでもいいけん、続きしよ」
にっこりと笑う顔が凶悪なまでに魅力的だ。
「あ、それと、ここスースーするけん、抑えとーて」
仁王は宙を泳ぐ柳生の手を掴まえると、いきなり己の股間に押し当てた。
忽ち柳生の顔が熟れたトマトよりも赤くなり、他の男どもは股間を押さえて俯く。
もう片方の手も掴まえ、自分の胸に回す。
背後から仁王を抱きすくめる形になった柳生の心臓は、暴発寸前だった。
す、と仁王の目が細められる。
「あんっ…、そこ、駄目…！」
ぐはぁぁっ…！
という意味不明の叫びを上げたのは誰だったのか。
「…悪ぃ、俺、棄権する…」
鼻と股間を抑え、不自由な体勢でよろよろと男どもは這うように教室を出て行った。
これから暫くは今の瞬間がオカズになるに違いない。
普段部室で見ている筈の丸井でさえ、思わず不覚をとった。
それもこれも、仁王の格好と、後ろにいる七三逆光眼鏡のせいに違いない。
それが、妖しい雰囲気を醸し出しているのが悪いんだ。
自らをそう納得させる丸井だった。
「なん？　俺の勝ちやの。良かったのう、柳生」
上目遣いに笑ってみせる、その笑みに柳生は見惚れた。
「仁王くん、今夜は寝かせませんよ…」
そして紳士は自らの絶倫ぶりを、仁王に証明してみせるのであった。
〜Ｅｎｄ〜

******
「CAMELIA05」のめいちこ様に捧げました。
仁王・文化祭女装麻雀でございます。
前段階をお知りになりたい方は、めいちこ様の素敵サイトへどうぞ。
色仕掛けで野郎を誑かす詐欺師…あぁ、いいなぁ…(笑)