「In the DARKNESS」

きっかけは些細なこと。
目の前の白い裸身に見入りながら、ソルはそのことを思い出していた。
偶然行き会い、不意に突き上げてきた欲望。
それは、テスタメントを見る度、いつも感じている衝動だった。
全く、この相手にしかそういった感情を持つことがなくなってしまったのは、どうしたことか。
だが、そうとは言わず一言。
「犯らせろ」
当然、テスタメントは拒んだ。
「私の体が欲しいだけなのか？」
「ふん…、じゃあ”愛してる”とでも言って欲しいのか？」
皮肉に口元を歪め、手にしていた煙草を投げ捨てる。
「…お前の言葉など信じない」
「・・・どっちでも構わねぇ、さっさと股開け」
そこまで言えばもう、後戻りはできない。
テスタメントは逃げ、ソルは追う。それだけだ。
この時ばかりは、いつもと立場が逆だ。
幾度も刃を交えつつ、やがて二人は人気のない場所に出る。
もしかしたら、誘っているのではないかとすら思うほど。
今宵は細い三日月ばかりの昏い夜。
寂れた墓地に二人のギア。
「そろそろ終いにしてやるぜ…」
獲物に狙いをつけた狩人の目でソルは呟いた。
その後のことは、余りに電光石火で何をどうしたものか。
嫌がる体を捉え、服を引き裂いて十字形の墓石に縛り付ける。
人ならざる能力を封じるために、自らの抑制装置をかぶせた。
身動き一つ出来ぬように自らのベルトで縛り上げ、封炎剣までその間に差し込んだ。
弱い月光の下、白々と浮かび上がる白い体。
そのまま、どれくらいその体を見つめていたことだろう。
どれ程暴れようともがこうと、容易に抜け出すことなど不可能だった。
美しい唇から、幾度も拒否と哀願の言葉が洩れる。
そのどれも、ソルは黙殺し、ただ見つめる。
どこからか拝借してきた酒瓶を傾けつつ、飽きることもなく。
たださえ白い肌が、寒さのために一層蒼白く、微かに震えている。
無論、それは恐怖などではなく、純粋に寒さの為で。
恨むような嘆くような視線すら、ソルの心を心地よくくすぐる。
何故なのか、当人も分かってはいなかった。
ただ、美しいと思う。
力ずくで奪うようになってから、もう久しいけれど、その美しさは損なわれることもなく。
その白い肌の上に氷を結ばせてみたい、などという埒もない妄想が浮かんでくる。
少しずつ、水を掛け、白い肌をいよいよ白く彩らせる。
それくらいでは死ぬ筈もない。何しろギアなのだから。
白銀の森に凍てつく人。生ける氷像。
ただ愛撫する時だけ、生ける身に戻り、そしてまた彼に溶かされる日まで凍り付く。
そう、誰の目にも触れることなく・・・。
そう考えて、ソルは飛躍した思考に苦笑せざるを得なかった。
何を愚かしいことを考えているのかと。
「寒い・・・」
小さな声で、テスタメントが呟いた。
唇は薄紫色に変わり、青ざめた頬は、死人のよう。
正に死神に相応しい美しくも凄艶な姿。
抑えようもなく暴力的な欲望が、体の芯から突き上げてくる。
ソルは、囚われた美しいギアに口づけた。
ひいやりと冷たい髪に、滑らかな頬に、瞼に、唇に。
「あ・・・、いや・・・」
抗う声は弱く、忍びやかに甘い。
ゆっくりと膝を落とす。
ベルトに拘束された磁器のような肌に舌を這わせる。
両腕で細い体をかき抱く。
マリアの足下に縋り付く、敬虔な信徒の如き、その姿。
ソルの熱い吐息が、蒼白い死神の肌を温もらせていく。
「ソル・・・」
ベルトを解く。但し、上半身だけは動かせぬよう。
「こんな場所では…」
「どこだって変わりゃしねぇよ…」
ガラン、と音を立てて剣が大地に投げ出された。
気の遠くなるほど丁寧に、露わになった下半身を舌で愛撫する。
不謹慎な行為に熱くなった吐息が、冷たい夜の空気を焦がした。
「あぁ・・・」
ソルは立ち上がり、服を脱いだ。
十字架に架けられたままのテスタメントの両足を持ち上げる。
「あっ…！　嫌…ソル・・・！」
透き通るような頬に、ぽっと血の気が差した。
「・・・いくぜ？」
拒むようにもがく足を抱え込み、腰を進める。
白い足がぐい、と闇の中に突き上げられ、反射的にソルの腰に回される。
「嫌、こんな・・・！　あぁっ…ソル・・・！」
殉教者の姿で身悶え、叫ぶのは美貌の死神。
背徳の炎に貫かれ、総ての罪と共に地獄へ堕ちる、美しい堕天使の姿。
その耳元で、低い声で悪魔が囁く。
”お前を愛している”
”お前だけだ”と。
細波のように低く、永遠に…。
〜Ｅｎｄ〜