「君が生まれたこの日に」

日は昇り、日は沈み、そしてまた昇る。

今日、いつものように巡り来る日。
いつもと同じ朝。隣りに眠る恋人。
その安らかな寝顔を見下ろし、男は一つ頷いた。
誰にも見せたことのないような優しい微笑すら浮かべて。

「おい、居るんだろ、出て来い」
「はぁい、お呼び？」
「…分かってんだろうな、てめぇの役目は」
「あぁん、もう。よく分かってるわよん。ちゃんと打ち合わせしたじゃない」
「よし、ならいい。上手くやれよ」
「あはん。オッケィよ。じゃ、起こして来て」
「…あいつは朝弱いからな」
男は寝室に戻った。

「テス。おい、テス、…起きろ」
「ん・・・やぁ…まだ寝るの・・・」
「まだ寝るの、じゃねぇ。起きろ、朝だぜ」
「んん……ん〜、あれ、ソル〜。お早う、今日も早いね」
ほにゃほにゃとテスタメントは起きあがり、ん〜と大きく伸びをした。
寝起きのテス…可愛いじゃねぇか、とソルは内心ほくほくしているのだが。
そんな気持ちなど欠片も見せず。
「おい、今日はお前が買い物行って来い」
「…どうして？」
ベッドの上で首を傾げる様子もまた愛らしい。
上体にくっきりと残されている情事の痕が、また男心をそそる。
「サキュバスのヤツが一緒に行きてぇとか言ってやがったからな」
「え？そうなの？珍しいなぁ。…まぁ、じゃあいいか」
ベッドから下りようとして何かに気づいたのか、テスタメントは毛布を手繰り寄せた。
「あん？　どうした、テス」
「…着替えるから、出て行って下さい」
「いいじゃねぇか、いつもあんだけ見せてんだからよ」
ボスッ！★
枕がソルの顔面を直撃した。
「いいから出てって！」
大人しく引き下がらざるを得ない、ソルだった。

「じゃぁねぇ〜、行ってくるわん♪」
「後、よろしくね、ソル」
人間ぽく装ったサキュバスと連れだって出かけて行くテスタメント。
「早めに戻って来ますから」
玄関口で『行って来ますのチュウ』をされて、嬉しいソルだった。
「ったく、この俺が…こんなバカバカしい…」
遠ざかる背中を見つめながら呟くが、ほんわりと胸が暖かくなってくる。
いつか、どこかで見た夢のような…。
「っと…ニヤついてる場合じゃねぇな。早くしねぇと」
踵を返し、台所へと向かう。
顎に手を当ててシンクを見つめる。
「…さて、上手くいくかどうか・・・」
あとは、時間との勝負だった。

夕方、とっぷりと日が暮れてから、漸くテスタメントは戻ってきた。
「た…只今〜。あ〜、疲れた」
しかし、家の中の灯りは消されている。
星明かりを頼りに、奥へと進む。
「・・・ソル？　…いないの？」
食堂の扉を開けると、空中に一つ、ぽつんと火が浮かんでいた。
「え、あ…ソル、どうしたの？」
たった一つの炎に照らされて、闇の中に浮かび上がる男の顔。
その赤茶の目が、真摯にテスタメントを見つめていた。
「…今日は、お前の誕生日だろ」
テスタメントの赤い瞳が驚いたように見開かれる。
「あ・・・うん、そうだったね」
もう、数十年もそんなものと無縁だった。
忘れていた訳ではないが、思い出したくないとどこかで思っていた。
今日、この日に自分が生まれなかったら…。
「…ハッピーバースデー、テス」
思いがけない一言が、深くテスタメントの胸に染み居る。
「…祝って、くれるの…？」
ソルは、低い声で言った。
「当たり前だ。…俺が、お前の誕生日を祝ってやらねぇでどうすんだ」
「うん・・・・・・ありがとう、ソル。嬉しい………」
テスタメントの目に涙が溢れて来た。
「…泣くな。メシが冷めるから、食ってから泣け」
「あ、そうだ…。夕飯、どうしたの」
ぱっと室内に灯りが点くと、テーブルには豪勢な食事がどん・どん・どん、と並んでいた。
「えっ…これ、まさか、ソル？」
ビックリした顔でソルを見、また食事を見る。
「まぁ、な」
「へぇ〜、意外。ちゃんと人間が食べられそうなモノ、出来てるじゃない」
と、どこから現れたか、空中にはサキュバスの姿あった。
「煩ぇ。どうせてめぇは食わねぇんだろうが」
「ふん、あたしがテスタを連れ出さなきゃ、こんなことできなかったでしょ」
そうなのだ、買い物に付き合わせるふりをして、長々外出させていたのは、このサキュバスの入れ知恵なのだ。
あたしが行かなきゃ、テスタってばきっとすぐ帰って来ちゃうわよ、とか言って。
「ありがとう、とっても嬉しい。二人とも」
テスタメントは、これ以上はないほどの極上の微笑みを浮かべた。
それは、とてもギアとは思えないほどの美しさで。
一瞬ソルもサキュバスも見とれるほどだった。
結局、二人ともその笑顔が見たくて、こんな共同謀議を凝らしたのだ。
「じゃ、食べようか。ソル」
夕食は、和やかに進んだ。

「誕生日プレゼントの一環」とか言って食後に寝室で一汗流し、ぼ〜っとしていると。
先にシャワーを浴びてきたソルが戻ってきた。
「ソル、美味しかったよ、すごく」
「そうか。ま、俺も久しぶりだったからな」
「意外な才能・・・今度から食事作ってもらおうかなぁ」
お世辞抜きで美味しいと感じたテスタメントだった。
「冗談じゃねぇ。誰がやるか」
「だって、今日は作ってくれたじゃない」
ソルはローブを脱ぎ捨てると、ベッドに潜り込んだ。
「…今日は、お前のために作ったんだ。
お前が生まれた、今日のために、な」
「うん・・・・・・」
隣りに寄り添うと、胸に顔を寄せる。
肩を抱く手が、いつもより優しかった。
「愛してる、テス・・・お前が………生まれて来て、よかった…」
「ありがとう、ソル…。私も、愛してる…もう、離れられない」
「…離さねぇよ」

時は移ろい行き、日々は繰り返される。
けれど、今日だけは総てが輝いている。
ただ、君の生まれたこの日に、心からの感謝を捧げん…。

〜Ｅｎｄ〜

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遅くなりましたが、テスタメント、お誕生日おめでと〜。
ということで、記念創作。
しかし…不調でした。どうもまとまりがないなぁ…。
来年こそは…！（笑）
ウチのテスってば、人のことには一生懸命になる割に、
自分のことって、割とぽんやりしているらしい。
まぁ、別にいいやって感じで。
ということで、テスタん、お誕生日おめでとう。これからもよろしく。