「たのもう！」
二十一世紀になった現在、些か時代錯誤的とも思える呼び声を掛けられているのは、古めかしい道場でも清雅な山寺でもなかった。
広～いグラウンドと無駄に大きい校舎の建ち並ぶ、とある学校の敷地内だった。
立海大学付属中学校男子テニス部部室前、である。
「うっせーなぁ、誰だよ」
がちゃりとドアを開けたのは、小柄に天然パーマ(?)の生気に溢れた少年だった。
「あっ！アンタは青学の変態メガネ…！」
「切原・・・（怒）」
少年－切原赤也は珍客を大袈裟に指差して言った。
「柳さーん、変態が来たッスよ～！」
部室の奥に向かって声を掛ける。
「騒々しいな、何事だ」
後光でも背負っていそうな程神々しく現れたのは、スラリとした長身にサラサラヘアーの立海大№３、参謀の柳蓮二であった。
「教授…、もう少し後輩はちゃんと躾けた方がいいな」
そこにいるのは、柳の旧友で元ダブルスパートナーの乾である。
「何だ、貞治か。偵察にしては随分と堂々としているな。何の用だ、珍しい」
「懐旧談をしに来た訳でもないし、偵察でもない。…柳生はいるか？」
「柳生？あぁ、あいつなら今頃グラウンドにいるが」
そうか、と背を向けた乾を、柳は不思議そうに見つめた。
「他校の生徒に校内を勝手に歩かれては困るな、俺も一緒に行こう」
「あ、じゃあ俺も行くッス～」
そして三人はグラウンドへと向かう。
「柳生、話がある」
グラウンドに出た乾は、いましもダブルス練習を始めようとした紳士に声を掛けた。
「おや…青学の乾くんではありませんか。私に話とは何ですか？」
「惚けないでもらおう。君は昨日俺の薫にのっぴきならぬ事をしてくれたそうだな」
「薫…？ あぁ、昨日の海堂くんのことですね」
クスリ、と小さく柳生は笑みを洩らした。
「昨日は楽しかったですよ。そう伝えておいて下さいね」
「！お前、薫になんて事を…！」
思わず常日頃の冷静さを捨てて柳生に殴りかかろうとした乾の前に立ちはだかる一つの影。
「待ちんしゃい。きさん、柳生がきさんとこの後輩に何かしたとでも…？」
「そうだ、俺の薫にあんな恥ずかしい真似を…！」
・・・・・・。
当事者以外は気付いた。乾が自分の後輩を何と呼んでいるのか。
そして、相当重症なのだということも。
「ふん…柳生があげな目つき悪か奴ば強姦したち言うんか？」
目つきについては仁王は人のことは言えない筈だ。
「そうだ！…いや、そうだとは言い切れないがそれに類する真似をされたのは確かだ」
「巫山戯んな！柳生にはこん俺がおるとね。なしてあげん奴…」
「仁王か…。君の噂は色々と俺の耳にも届いているよ」
乾は黒縁の眼鏡をくいっと押し上げた。
「相手構わずの仁王…、とね」
「・・・ガセネタやの。きさんの情報収集能力も大したことなかとね」
「嘘かどうか、自分の胸に聞いてみたらどうだい。第一君と俺の薫とでは月とすっぽんだ。柳生がつい薫の愛らしさにふらふらと迷うような事態が起こる可能性は５０％を越える」
「なん言うと！きさんが彼奴をキチンと管理しよらんけ、そげな妄想ば考えつくとね！自分の能なしば棚にあげよって、阿呆なことほざきよる」
「そちらこそ、ちゃんと管理してくれないと困る。まぁ、君が他の男の相手で忙しかったというなら話は別だが」
「・・・ひろ～、あん変態メガネが俺んこと侮辱しよるよ～」
仁王は柳生に泣きついてみせた。
「あぁ、可哀相に。貴方はこんなに可愛いというのに。酷い人ですね、彼は」
宥めるようにその髪を撫でてやりながら柳生が囁いた。
「…彼奴より、俺ん方が可愛かろ？」
「えぇ、勿論です。…まぁ、彼もなかなか…」
少し記憶を辿るような顔をした柳生の頭を、仁王のラケットが叩いた。
「ひろの浮気者！」
その点に関しては仁王に非難する資格はない筈だが…。
「ブン太～、ひろが浮気しよるけ、俺としよ」
「何でそこで俺に振るんだよ！絶対ヤだ！」
「ええっちゃろ。気持ちようしちゃるけ」
「ヤだ！絶対ヤダ！俺にはジャッカルがいるの！」
ぱん、と仁王は名案を思いついたように両手を打ち合わせた。
「やったら三人でもよか」
「「良くねぇっ！」」
二人掛かりで叫ぶ。仁王の場合、あながち冗談とも言えないのが困る。
「仁王くん、浮気は許しませんよ」
「…ひろは浮気者やけ、俺は今夜はブン太と寝る」
「だから、寝ねぇって！」
勝手に展開し始めるドラマの前に、火種となった乾は入り込む隙がなかった。
ぽん、とその乾の肩を叩く者が。
「教授…」
「ああなったら収拾がつかん。これで今日の練習メニューがパーだ。博士、どう落とし前をつけてくれる？」
「…つかぬ事を聞くが、いつもこうなのか？」
「答える義務はないな。さあ、貞治、どうしてくれる？」
何となく暗澹とした気分になる博士だった。
王者立海。実はどこよりも面白い集団なのかもしれない。乾は○秘ノートにそう書き込もうと決心した。～Ｅｎｄ～
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下らない。ほんと、下らない(笑)
何となくね、あまりに今週のジャンプが衝撃的だったもんで(笑)
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