「男の夢」
さて、と…。
この間はアクセルの野郎が邪魔しに来やがったからな。
今日こそはあんなことにならねぇように、きちんとロックしておくか…。
ソルは朝早く起きると、テスタメントを起こさぬようにそっと寝室を後にした。
窓からドアから家中の鍵という鍵を全部閉める。大きな窓には遮光カーテンを引く。
仕上げはキッチンの中を、少しだけいじっておく。
これで準備は万端。
ソルは寝室に戻った。
無論、と言うべきなのか、テスタメントはまだ夢の苑に遊んでいた。
「…テス、おい・・・テス・・・」
軽く肩を揺さぶるが、それぐらいで起きるテスタメントではなかった。
「やぁ・・・なの。・・・寝る」
もそもそと布団の中に潜り込もうとする。
ソルはその様子ににやりと笑った。
これで「起こしてやる」口実が先ず一つ。
「しょうがねぇなぁ、起きろって言ってんだろ」
とか言いつつ素早くその隣りに潜り込んだ。
「ん・・・暖かい・・・」
夢うつつの侭、テスタメントが抱きついてくる。
その裸の体を抱きしめ、唇を合わせる。
何の反応もなかったのは一瞬で、直ぐに腕を背に回し、舌を絡ませて応えてくる。
「ん、ふぅ・・・」
甘い喘ぎ声が上がる。
「ソルゥ・・・・・・」
半覚醒の状態で、テスタメントはソルにしっかりと抱きついていた。
「起きたか？」
「あ、うん・・・」
寝惚け眼で答えるが、どう見てもまだ眠そうだった。
「ほら、起きろよ、テス…」
「きゃっ…！」
細い体がぴくりと撥ね上がる。
ソルの指が、テスタメントの敏感な胸の果実をきゅ、と摘み上げていた。
「あっ…やん・・・、ソル」
「漸く起きたか」
笑いながら、ソルは恋人の体を抱きしめる。
「もう・・・何て起こし方するんだ…」
そう言いながら、テスタメントもソルにぴったりとくっついている。
「疼いてくる、か？」
耳元で低い声で囁いてやると、切なげな吐息が聞こえた。
「・・・分かってるくせに。意地悪なソル」
普段なら、このまま押し倒して朝の一番、なのだが、今日は目的があった。
滑らかな肌を撫でてやりながら、ソルは更に耳元で囁いた。
「…おい、昨夜の約束、覚えてるだろ？」
「約束…？ 約束なんてしたっけ…？」
テスタメントは首を傾げた。昨夜…寝る前…食事中…。思い当たる節がない。
「忘れちまったのか。昨夜、俺の腕の中で、よ」
ぱっとテスタメントの頬が赤くなった。
この十日ほどソルが留守にしていた所為もあり、昨夜は殊の外激しい一夜だった。
切れ切れに思い出してみても、恥じらいもなく求めている自分の姿ばかりが浮かんでくる。
そんな状態で、約束などと言われても覚えている筈がない。
「ご、ごめん…覚えてないや・・・」
「そうか。じゃぁ、これだ」
と言ってソルが取り出したのは、見覚えのある純白のエプロン。
「え？ ソル…もしかして………」
にや、とソルは笑った。
「良いかって聞いたら、分かったって言ったぜ、お前はよ」
「そ、そんな…あんな時に言われたって…」
おろおろと言い訳してみるが、どう言ったところで聞くようなソルではない。
「あ〜、コーヒー飲みてぇな」
催促するように言われて、ごろりと仰向けに横になってしまった。
「・・・・・・ダメ？」
甘えるようにすり寄って聞いてみる。
「ダメ」
思った通りソルの答えはとりつく島もなかった。
もう、一度も二度も同じだな、そう思うことにしたテスタメントだった。
はぁ、と溜息を一つついて起き上がると、エプロンを着ける。
前はともかく、どうしても後ろが気になってしまう。
だが、ソルは横になっているし、キッチンへ行ってしまえば見えないだろう。
そう思い、いそいそとキッチンへ向かう。
お湯を沸かし、コーヒーの支度をする。
あ、そうだ、サラダ作ろう、とか思い立ってごそごそと野菜を探す。
「あれぇ…ボウルがない……あ、ドレッシングは…？」
おかしい。有るべき筈の場所に、有るべき物が無い。
昨夜ちゃんと綺麗にしてから寝たのに。
「どうした、探し物か、テス」
はっと振り向けば、にやにやと笑いながらソルがいつの間にかそこに立っていた。
慌てて両手で後ろを隠す。
「ソル・・・、まさか、お前が…」
「何の事だよ」
空惚けるソルに、テスタメントはつかつかと歩み寄った。
「お前、この中をかき回したんだろう？」
「さぁ、覚えがねぇな」
飽くまで白を切るソルを、半泣きの顔で睨むと、テスタメントは道具探しを始めた。
わざわざ、こうしてあちこち動き回るように、ソルが細工をしたのに違いないのだ。
思うつぼに填ってしまった自分が情けなくもあり、またどうしてこんなことをさせたいのか、よく分からなくもあり。
テスタメントは暫く無言で台所の片づけをしていた。
これでは朝食も作れない。
目の前をテスタメントの形の良い尻が行ったり来たりしている。
これがまた、見えそうで見えないところがイイ、などとソルは内心満足していた。
「おい、コーヒーまだか」
自分の椅子に腰を下ろして、目の保養を楽しんでいたソルが、横柄に聞いてくる。
「まだ。…誰のせいで、こんな…」
食器棚の上に隠すように置かれていたボウルを取ろうと、テスタメントは椅子に昇っているところだった。
「・・・いい格好だぜ」
「キャッ…！」
やっと手にしたボウルを取り落としそうになる。
「やっ、やめてったら、ソル…！」
背筋を舐める舌先がくすぐったい。
片手がすらりとした太股をやわやわと撫でていた。
「いいじゃねぇか。目の前でこんなイイ格好されたら、よ…」
「誰がさせてるの！」
振り向きざま、思わず手にしていたボウルでガツン！
「・・・ってぇ〜〜〜〜」
「もう、ソルのバカ」
そう強気に言ってみても、赤く上気した頬は隠しようもない。
テスタメントは椅子から降りると、コーヒーを淹れた。
辺りに立ちこめる、コーヒーの香りが清々しい。
ソルのカップにはブラックで。
これで「砂糖は二つ、ミルクはたっぷりでね。なるべく薄くして」なんて言われたら、泣いてしまうところだ。
「はい、コーヒー。飲んだら部屋戻って」
「何でだよ。見せろ」
「・・・気になるから、や」
「…じゃあ、メシ食ったら戻る。それでいいだろ」
むぅ〜、とテスタメントは考え込んだ。
言い出したら聞かない性分だから、多分食事が済むまでは戻らないだろう。
こうしてまた押し切られることになるのだ。
「大人しく待っててね。今支度するから」
そうしてまた、ソルの視界を白い半裸体が行き来する。
「テス・・・」
「あっ・・・！」
いきなり後ろから抱きすくめられた。片手がエプロンの胸元から這い込んでくる。
もう片方の手は、裸の股間を後ろからまさぐっていた。
「い、いや・・・ソル…」
片手にレタスを持ったまま、テスタメントの体はソルの胸に納まっていた。
「ダメだったら…、ソル・・・」
力無く、テスタメントの手からレタスが転がり落ちた。
「もう待てねぇ…」
犯りたい盛りのガキでもねぇのに、と苦笑したが、ソルは自分を抑えるつもりはなかった。
愛しい「女」がこんな格好でウロついて、ソノ気にならない奴は男じゃねぇ。
自分で演出した癖に、甚だ身勝手にそう納得する。
指先から、ぴちゃぴちゃという濡れた音がする。
「音、いや・・・」
息が弾む。見られていて興奮していたのも、また事実だから、僅かな刺激に反応してしまう。
「…待ってたんだろ？」
熱い蜜を滴らせる秘部に、ソルの指が入り込んでくる。
「あぁんっ…！ ち、違うよぉっ…！」
仰け反った胸を太い指が探る。
既に固くなっていた乳首を指先で擦り上げると、秘所がきゅぅっと締まった。
「イイか…？」
黒髪に隠された項に舌を這わせながら聞く。
小刻みに震える躰が、隠しようもなく快楽を感じていることを伝えてくる。
差し入れられた指が、内壁を擦るように動く。
足から力が抜けていきそうになる。
胸に回された腕に縋るように立っているのがやっとだ。
「あっ…、ソル…いや、もっと・・・あぁ、…あ、ふぅ…ん…」
鼻にかかった甘い喘ぎ声がソルの耳に溢れる。
「いやなのか、もっとか、どっちなんだよ…」
言いながら、もう一本指を差し入れる。それだけで、もうキツイ。
ゆっくり抜き差ししてやると、それだけで蜜が溢れてくる。
「あぁ…、イイ、いいの・・・ソル…だから、もっと…」
哀願する声が切なく震えている。
躰の奥から湧いてくる快楽に、思わず涙が浮かんでくる。
「早くぅ…ねぇ、ソル、…もっと、ね・・・」
躰が乾いていく。熱い欲だけがテスタメントを支配していた。
「さて…どうするかな」
ぴちゃぴちゃといやらしく音を立てながら、ソルの指が内部で動いた。
「あぅっ…！ そこ、ダメ…死んじゃう…」
今にも息絶えそうな声に、くちゅ、と音を立てて指が引き抜かれた。
「あっ…！ やっ、ソル・・・」
名残惜しそうに愛液が指先から滴り、テスタメントの太股を濡らした。
「こんなになっちまってるぜ？」
わざと愛液に濡れた指を目の前に突きだして見せた。
「やっ…、やだ、もう・・・」
顔どころか、首筋まで赤くなった。
その肩口に軽く歯を立ててやると、切ない喘ぎが零れる。
ソルはジーンズの前をくつろげると、太くなったペニスを掴みだした。
「…入れて欲しいか？」
テスタメントの尻にその熱いものが押し当てられている。
その熱が欲を募らせ、躰の奥が快楽の予感に疼いてくる。
「ん…欲しい、よぉ…ソル・・・早くぅ…」
艶めいた声で催促する。我知らず腰を突き出す形になってしまっていた。
縋り付いた腕に無意識のうちに爪を立てる。
「俺が、欲しい、か…？」
こくこくと頷く。躰を貫く楔を待って、テスタメントは気が狂いそうだった。
「あっ、あぁっ…」
背後から、ゆっくりと挿入されると、待ち望んでいた感覚に体中がわなないた。
前に崩れそうになる躰を、力強い腕が支えた。
後ろからではなく、下から突き上げられる感覚が、いつもとは違う場所を刺激する。
「いいっ…どうして…あっ…あぁっ・・・すごく、いい・・・」
「・・・俺も、いいぜ…」
立っているせいなのだろう。いつもより数倍締め付けがいい。ソルは満足だった。
白いエプロンの上から、既に硬くなっているテスタメントの男を握った。
最後の瞬間を待って、それも切なげに震えている。
腰の動きに合わせて擦り上げると、抑えきれなくなった叫びがテスタメントの唇を割った。
最早、躰も心も総て、ソルに支配されている。
他には何も考えられなかった。いや、考えたくなかった。
いつも、この熱さに抱きしめられていたいのだと、快楽に溺れる心が叫ぶ。
秘部と太股の間を圧迫するペニスの感触と、前を擦られる快楽に、テスタメントの意識は愉悦の果てに押し流されて行った。
「あぁんっ…あぁ…、いや、ソルっ、…もう、ダメェッ・・・！」
一声、高い悲鳴を上げて、テスタメントは絶頂に達した。
数瞬の放心状態から醒めると、まだ先程の体勢のまま、ソルの腕の中にいた。
躰の一部はまだ繋がったままだった。
テスタメントの中で、時折痙攣しているのが感じられる。
多分、同時に達していたのだろう。
何となく、下腹の内が暖かいような気さえしてくる。
「ソル・・・」
ウットリと呟く。このまま、離れたくなかった。
「テス・・・すまねぇな…。お前があんまり可愛いもんで、つい、犯っちまった…」
耳元で囁く声が好きだった。この声で言われたら、どんなことでも聞いてしまう。
「うぅん…いいの。…嬉しいよ、ソルが悦んでくれて…」
触れ合った肌が熱い。
今、ただこの温もりだけを感じていたかった。
「さて…じゃあシャワーでも浴びてくるか」
次の瞬間、器用に躰の向きを変えさせられたテスタメントは、ソルにしがみつくように抱き上げられていた。
勿論、繋がったまま、である。
「きゃぁぁぁぁ！ 何、これ…！ 下ろしてぇぇっ」
テスタメントの叫びは、やがて甘く切ない吐息に変わっていった。
〜Ｅｎｄ〜
