未然の愛未然の愛 雑多な物事に縛られることが嫌いだった。 すべてに自由でいたいと思った。 誰にも何にも縛られず、囚われず。 ただ自分のことだけを考えていれば楽だった。 それなのに…。 たった一人の存在に出会ってしまった。 自分より大切な存在。 自分にとって必要不可欠な存在。 失いたくない。 この世に生のある限り、一緒に……。 大きなベッドが部屋の中央に置かれている。 その部屋の中をわずかに照らすキャンドルの明かりが、 白いシーツとやわらかい毛布の中に二つの影を作っていた。 「ナデュー……。好きだ」 クレイドルはナデューの腕の中で呟いた。 褐色の肌に小さく唇を落としながら。 「オマエからンなこと言うなんてよ。どうしちまったンだ」 「…想ってるばかりじゃダメだということに、気が付いた。 言葉にして、行動して、気持ちを表に出さないと伝わらない…」 「そンで？」 「だから、ナデューに……」 ナデューはクレイドルをさらに抱きしめると、その金の髪にキスをした。 「きちんと言っておこうと思った…」 クレイドルもナデューを抱きしめた。 ナデューの鼓動を耳で感じ取りながら、軽く目を閉じる。 ナデューが自分の中にいる、そんな気がした。 「なァ、オマエの言葉はスッゲェ嬉しいけどよ。 どうせならもっとオレを欲しがってくンねェか。欲求不満になっちまうぜ」 「…どこが欲求不満なんだ。毎日こうして一緒にいるじゃないか」 クレイドルは顔を上げてナデューを見た。 ナデューもクレイドルを見る。 キャンドルの焔が作り出す影がクレイドルの表情を揺らしていた。 透き通るような白い頬に、ナデューは指を滑らす。 「寝ても覚めてもオマエと一緒にいたい。 オレはいつだってオマエが欲しいンだ。 だからオマエにもオレを欲しがって欲しいンだよ、クレイドル」 クレイドルの冷たくなり始めていた唇にナデューが自分の唇を重ねた。 次第に温まる唇をさらに強く奪う。 ふたりの躯の中から熱いモノが込み上げてきた。 いつからこんなに好きになっちまったンだ。 いつからこんなに気になっちまったンだ。 いつからこんなに欲しくなっちまったンだ。 いつから……。 …こんなに……。 クレイドルじゃないと、ダメになっちまったンだ…。 いつからこんなに好きになったのだろう。 いつからこんなに惹かれ合ったのだろう。 いつからこんなに求め合うようになったのだろう。 いつから……。 …こんなに……。 ナデューじゃないと、ダメになったのだろう…。 互いの気持ちが交錯する。 それがぶつかり合った時に伝わる気持ち。 ナデューにはクレイドルが、クレイドルにはナデューが必要だということが……。 「なァ、オレはオマエの言葉を全部聞いてやる。 だからクレイドル、オマエのこれからを全部オレにくれねェか」 「…俺の方が分が悪いような気がする」 「あァ！？どこが」 「俺の言葉を聞いてくれるというのはいい。 俺のこれからをナデューにやるっていうのもな」 「だったらいいじゃねェか」 「…俺も、ナデューのこれからすべてが欲しい」 「クレイドル」 「俺の言葉は全部聞いてくれるんだろう？」 「当然だ」 永遠に続くかのようなこれからの時間。 わかり合ってるはずの気持ち。 それなのに、確かめずにはいられない。 言葉を投げかける。 ……気持ち 指先で触れる。 ……存在 唇を重ねる。 ……「愛してる」 たった一つの言葉を……。 「……ナデュー」 「なンだ」 「…やっぱり好きじゃない」 「あァ！？何言ってンだ？」 「………愛してる」 「フン、脅かすンじゃねぇよ。 …なァ、クレイドル。オマエのこと、この世でいちばん愛してるぜ」 言葉の呪縛。 求められるなら、縛られてもいい。 求めたら、縛りたい。 恋愛の矛盾。 そしてこの世に生のある限り。 それから……………。
***** かがみ様のサイト「鏡花水月」様の30000hit記念フリー創作。 いつもながら、とても綺麗な情景が目に浮かびます♪ 嬉しいので、折角だから頂いてきてしまいました。 相変わらずらぶらぶで幸せな二人です(^^)
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