「I was born to love you」 「いい加減うぜぇ野郎だ。そんなに殺して欲しいのか」 強い手が首を掴み、ぎりぎりと細首を締め上げる。 「貴様などに…殺される、ものか…」 傷だらけの躰から立ち上る、濃密な血の匂いに誘われたのか。 男は獲物を地面に投げ出し、灼熱の嵐と化してその躰を引き裂き、奪い、犯した。 深紅の褥に乱れる黒髪。 廃墟に虚ろに響く、血塗れの苦鳴。 テスタメントはそれを上げているのが自分の口だということに、やっと気づいた。 「あ・・・・・・」 「おい、…どうした、テス？」 上から覗き込んでいるのは、隣りに寝ていた恋人の、心配そうな顔。 滅多に見たことのない表情。 「あ…、あぁ、ごめん。…何でもないんだ。起こしちゃったね」 無理に微笑んで見せる。不愉快な夢の、重い残滓を振り払おうとするように。 「…何の、夢だ？」 「え…？ ……うぅん、何でもない、昔の…夢」 顔を伏せる。今は、ソルの顔をまともに見られない気がした。 「ふん…、何でもねぇって声じゃなかったぜ？」 逞しい腕が、テスタメントの細身を抱き寄せた。 「ほんとに…何でもない、から…」 微かに頬が赤くなる。灯りがなくてよかったとテスタメントは安堵した。 以前、ソルに犯されていた頃の夢だなんて、恥ずかしくて言えたものではなかった。 何も言わずにソルはテスタメントの躰を上に乗せた。 「…ソルの躰、…あったかい…」 その逞しい胸に顔を埋め、テスタメントはうっとりと呟いた。 こうして躰を重ね、鼓動を溶け合わせることに至福を感じるようになって、暫く経つ。 もしかしたら、自分はこの為にギアにされたのかもしれないと錯覚すら起こさせるほどに。 「でも、重くない？」 「いや、重くねぇ。…いいから、寝ろ」 大きな手が、ぽん、とテスタメントの頭を叩いた。 「ん…、そうだね。でも…」 ずるずると躰を下にずり下げ、テスタメントはソルの下腹部の辺りに頬を押しつけた。 「何だ？」 「…ここが、一番熱い…。ちっとも寝てないじゃない」 器用な手が、先程まで自分をよがらせていたものをやんわりと包み込んだ。 「…お前があんな、死にそうにイイ声で起こしやがったからな」 そういう声には、どこか苦笑が含まれていた。 「…じゃあ、こうしたら？」 ちろり、と赤い舌が先端を舐め上げる。 「そんなに寝かせて欲しくねぇのかよ」 ソルの手がテスタメントの頭を抑えつけた。 望まれるまま、テスタメントの紅い唇がそこに重なり、ゆっくりと呑み込んでいく。 喉の奥まで届くものに、それでも懸命に舌を這わせ、吸い上げる。 その度にテスタメントの口の中で、それは着実に硬くなっていった。 そのことが、テスタメントには嬉しい。 どうすればソルが悦ぶか、今はそれだけしか頭になかった。 「…よし、もういい」 黒髪に絡ませていた指を離す。 このまま口の中に射出してしまおうかとも思ったが、イカされるだけというのはソルの性に合わなかった。 「・・・ねぇ、出してよ…」 潤んだ紅い瞳が甘えるように見上げ、柔らかい声が優しくねだる。 かつてとは余りにかけ離れたその姿、それが、愛しい。 そうしたのが自分なのだと思うほどに、愛おしさが募る。 「ほら、乗れよ」 腕を取り、引き上げる。 「ん・・・」 おずおずと躰を起こし、ソルの腰を跨ぐと、ゆっくりと腰を落としていく。 「あっ・・・」 思いの外、抵抗もなくそれを収めてしまった自分自身に驚く。 「何だよ、お前も、待ってたのか？」 力強い腕が、テスタメントの細い躰を壊れるほどに抱きしめる。 鼓動も呼吸も一つに溶け合う一瞬。 慎みも恥じらいも忘れて、テスタメントの腰は独りでに動き出していた。 「あぁっ、…あんっ…あぁ、あぁっ……！」 自らの重みで、躰の尤も奥深いところを抉るように突き上げる。 躰の芯から快楽が引きずり出されてくる。 テスタメントの耳は、自らの性器が上げている悦びの声を聞き取っていた。 淫らに濡れた、快楽の叫びを。 「んっ…！ う、ふぅっ…ん、あぁっ…」 束の間、正気に戻ると、己のあられもない姿が思い起こされて、ソルの肩口に顔を埋める。 せめて、この声だけでも押し殺そうと。 「ほら、もっと腰、振れよ」 わざと自分では動かずに、ソルが催促する。 乱れ狂い、際限なく求め続ける姿が見たかった。 「い、いやっ…もう…！ ソル、あぁ…ソル…」 ぴったりと合わさった躰、このままずっと一つになっていたい。 それは、どちらもが持っている同じ想いだった。 自分は、この男を愛する為に生まれ、そしてこの人ならざる躰になったのだと、今は確信していた。 「テス・・・イイ子だ。…だから、…イけ」 「あ、あっ…イイッ、…ソル、イクゥッ…！」 黒髪が、闇にのたうち、崩れ落ちた。 翌朝、と言っても起きたから朝だと思っただけで、実際は昼近かった。 テスタメントがぼんやりする頭で昨夜のことを思い返していると、上機嫌なソルが戻ってきた。 もう既にきちんと服を着ている。 此処にいる時は大抵ごろごろしているのに珍しいな〜、などと思っていると。 「ほら、これ着ろ」 ぽん、と投げて寄越されたのは、真っ白なエプロン。 「あ、おニューのエプロンだ…」 まだ覚醒しきってないテスタメントであった。 「…あれ、私の服は？」 きょろきょろと辺りを見回すが、パジャマも服も見あたらない。 ソルは煙草に火を点け、大きく煙を吐き出した。 「お前の服は、俺が全部ガンフレイムで始末しといてやったぜ」 「・・・えっ？」 つかつかとまだベッドに座っているテスタメントに歩み寄るソル。 「見ろよ、これ」 ぐい、と衣服をはだけたソルの肩口には、はっきりと紫色の歯形が残っていた。 「あ・・・！ それって…」 「…痛かったぜ。治るまで暫くかかるだろうなぁ」 「ご、ごめんなさい。あの・・・その・・・」 「咬み千切る程、良かったか？」 「いや、あの・・・ごめんなさい、痛かったでしょ…？」 ソルは意地悪な笑みを浮かべた。 「あぁ、痛かったぜ。だから、仕置きだ。今日は一日それだけでいろ」 それ…純白の小さなエプロン。 「ヤ！」 即座に否定してから、はっと気づくテスタメント。 「ま、まさか…私の服…」 「だから、全部始末したって言ったろうがよ。…あぁ、これだけは燃えなかったけどな」 顎をしゃくった先に転がっているもの、メタル製の貞操帯（笑） 「ソルのばか〜〜〜！」 「いいから、言うこと聞きやがれってんだ」 ソファーにどっかりと座り込み、テスタメントの苦情など馬耳東風。 こうなってしまっては、もうどうしようもない。 とうとうテスタメントも諦めざるを得なかった。 まぁ、どうせ二人っきりなんだし。 そう思うと恥ずかしいのすら、何故か刺激的だった。 「・・・じゃあ、食事の支度してきます」 歩み去るテスタメントの裸の背中に、ソルの視線が痛かった。 「ったく、いい目の保養だぜ」 居間ではソルが楽しそうな含み笑いをもらしていた。 「あ〜、もうソルったら、何考えてんだろう・・・」 台所では、テスタメントがぶつぶつ言いながら食事を作っていた。 それでも、何となく幸せを感じている自分がおかしくもあり。 「…まぁ、しょうがないかな」 何が仕方ないのか分からないが、自分自身を納得させる。 と、そこへ。 「やっほー、テスちゃ〜ん、ご飯食べさせて〜♪」 何という間の悪さ。飛び込んでくるイギリス人。 「…ッキャアァァァァァッ！！！」 その悲鳴は、果たしてどちらのものだったのか。 数秒後、黒こげになったアクセルが宙を飛んでいるのが目撃されている。 「もう二度とこんなカッコしないからっ！」 大いに泣きじゃくるテスタメント。 次は家中に鍵をかけてからやらせようと考えているソル。 二人の想いを呑み込んで、森は飽くまでも静寂だった。
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