「ずっといっしょ」

今日は１０月１９日。暑かった夏から急に肌寒くなり始めた頃。
今日はひろくんのお誕生日です。
ひろくんのお家で、まーくんと一緒にお誕生会です。
一緒に来ると言い張ったちーちゃんやきっぺーくんを何とか遮って、二人だけでお誕生日を祝うのです。
ひろくんは嬉しくてドキドキでした
「まぁ、いらっしゃい、まーくん。来てくれてありがとうね」
ひろくんのママがにこにこと出迎えてくれました。
最近「お兄ちゃん」になったひろくんは、もう自分の部屋を与えられています。
俺かてお兄ちゃんやのに。とまーくんはちょっと羨ましく思いました。
「さぁ、ゆっくりしていってね」
ひろくんのママがケーキとジュースを運んできてくれました。
イチゴのショートケーキとオレンジジュースです。
「おめでと〜、おめでと〜、ひろくん、おめでと〜♪」
まーくんが自作（？）のお誕生日の歌を歌ってお祝いしてくれました。
「ありがとうございます、まーくん」
ご機嫌なひろくんはにっこりです。
二人はそれから仲良く並んでケーキを食べ始めました。
「美味かね〜」
にこにことまーくんは美味しそうにケーキを頬張っています。
「あ・・・まーくん、ほっぺに…」
まーくんの滑らかな頬に白いクリームが付いているのに気付いたひろくんが、そっと指で拭ってあげました。
「あんがと」
そう言って、まーくんはクリームの付いたひろくんの指をぱくっと銜えました。
「へへへ〜」
まーくんはとても上機嫌のようでした。悪戯っぽく笑っています。
ぼく、この手はもう絶対洗わない…！
まーくんに舐められた指を握りしめて、ひろくんはそう心に誓うのでした。
「あ、そうじゃ」
ケーキを食べ終わってお腹一杯になったまーくんが、何やらかばんからごそごそと取り出しました。
「はい、ひろくんにお誕生日プレゼントじゃ」
「ぼくにくれるんですか。ありがとうございます」
それは、カードのようでした。綺麗な色の画用紙です。
開いてみると「ひろくん　おたんじょうび　おめでとう」と可愛らしいまーくんの字で書かれています。
その下に、白い方を表にした緑色の折り紙で、やっこさんが貼ってありました。やっこさんにはメガネが描かれています。
その胸に鉛筆で「ひろくん」と書かれていました。
「これ、僕ですか？」
「うん。俺いっしょうけんめい折ったとよ」
まーくんは胸を張りました。
「とっても嬉しいです！ぼく、一生宝物にしますね！」
ぎゅぅ、とひろくんはまーくんに抱き付きました。
「ひろくん、苦しいよ〜」
ばたばたとまーくんが暴れます。
「あ、そうだ」
不意に何かを思いついて、ひろくんは起き上がると、折り紙を探しました。
青い折り紙でまーくんと同じようにやっこさんを折ると、色鉛筆でお顔を描きます。可愛い口元にぽつりと一点のホクロ。
胸に「まーくん」と書きました。
「僕一人じゃさみしいですから」
と言ってひろくんはやっこさんを並べて貼りました。
「これで、まーくんとぼくはずっといっしょです」
「んと、じゃあ、俺とひろくんはずっと友達な？」
ただの友達じゃなくて、何か分からないけどもっと違うものがいい！とひろくんは思いましたが、それを何と言っていいか分かりません。
だから、はい、と答えて大きく頷きました。
ずっとずっと一緒にいたい、それは、純情な子供の願い、或いは誓い。
その想いは変わることなく続いていくのでしょうか。
「うみゃ…ひろくん、俺、何か眠うなってきた…」
お腹も一杯になって沢山遊んだまーくんは、お目々をごしごしと擦りながら言いました。
「え？…じゃあ、もう帰りますか…？」
ひろくんはしょんぼりです。もっともっと、まーくんと一緒にいたいと思っていました。
「うぅん、…まだ、平気…」
そう言いながらも、まーくんはうとうとと船を漕いでいました。
「うにゃ…平気…、ちょっとだけ…」
もうまーくんは何を言っているのか分かりません。
銀色の頭がゆらゆらと前後に揺れています。
大きなお目々殆ど閉じられていました。
「まーくん」
ひろくんがそっと呼びかけると返事はありませんでした。そのままころんとまーくんは横になってしまいます。
「・・・まーくん」
ちょっとビックリしながら、ひろくんはまーくんの寝顔を見つめました。
いつも保育園のお昼寝の時間に見ている筈なのに、何故かとても胸がドキドキしてきました。
ふーすかふーすかと、まーくんは安らかな寝息を立てて眠っています。
閉じた瞼から長い睫毛が影を落としていました。紅い唇が少し開いて白い歯が覗いています。
『ど、どうしよう…。ドキドキが止まらないです…！』
知らず、ひろくんのお顔は真っ赤になっていました。
「まーくん、こんな処で寝たらお風邪をひきますよ」
そっと声を掛けてみても、まーくんは目を覚ます様子はありません。
ひろくんは自分のベッドから急いで枕を持ってくると、まーくんの頭の下に宛がってあげました。
そのままじっとまーくんを見つめます。
『まーくんは可愛い。まーくんは綺麗。・・・まーくんが僕のお嫁さんになってくれたらいいのに』
ひろくんはまーくんの寝顔を見ながら、ずっとそんなことを考えていました。
そして、その穏やかな寝顔に誘い込まれるように、いつしかひろくんもまーくんのお隣にころんとなって、眠ってしまったのでした。

夕方、ひろくんのママがそろそろまーくんを送って行こうと思ってひろくんのお部屋を覗いてみると。
「まーくん・・・むにゃ…」
「うにゃ…にゃ・・・」
仲良く枕を並べてお昼寝している二人がいました。
「あらあら」
少し困ったように笑いながら、ママはお布団を二人にかけてあげました。
ひろくんの手には、しっかりとカードが握られています。
「ひろちゃんは、本当にまーくんが好きなのね」
ママは微笑みながら二人の頭を撫でると、静かにお部屋を出て行きました。
素敵なお誕生日に、乾杯。

〜Ｅｎｄ〜