「翻弄の一夜」

膝の上、猫が上目遣いで見上げ、にやりと笑う。
こんな時、人は何を思うだろう。
見かけは猫でも中身は人間なのだとしたら。
一瞬の恐怖を覚える暇もなかった。
どーん。
猫なナデューは、やっぱりナデューだった。
思いっきりクレイドルに体当たりすると、貪るように乳首のピアスを舐め始めた。
ぺろ
「アッ…」
ぺろぺろぺろ
「ア、アァッ…ん…っ」
ぅなぁぁぁぁおぅ〜。
勝ち誇った鳴き声。
「やっ、…止めろ、ナデュー…！」
悲鳴は既に微かな喘ぎを含んでいた。
「や、やめろと…言っているだろう…！」
猫などに感じている自分に自己嫌悪を強め、クレイドルは強引にナデュー猫をどけた。
なぁぁぁぁぉ〜
猫が不服そうな鳴き声を上げた。
「…こういうことは、お前が元に戻ってからだ。いいな？」
と、猫に大真面目な顔で説教すると、クレイドルは逃げるようにベッドに潜り込んだ。
尚も不満そうな猫ナデューだったが、諦めたのか、漸く大人しく丸くなった。
ホッと溜息をつくと、クレイドルは浅い眠りに落ちていった。

ゆらゆら　ゆらゆら
夢に見たのは柔らかな波に揺られる自分
心地よくて酔ってしまいそうな　溺れてしまいそうな
温かい　柔らかい
いつまでも抱かれていたい夢
こんなに素直に身を委ねられる自分など夢だと分かっていた
それだからこそ、一瞬の陶酔に身を任せる
ずっと　いつまでも…

なぅ。なぁ〜〜〜〜う
猫は大きく伸びをして起き上がった。
欠伸を一つすると、前足で耳の後ろをこりこりと掻く。
退屈だった。
てってって、とクレイドルの横を歩き、ごそごそと足元から布団の中に潜り込む。
すらりとした足の脇をもぞもぞと通り抜ける。
なぅ
猫は布団の中で満足げに目を細める。
目の前にあるものに、ゆっくりと舌を這わせた。
「あ、ん…」
夢うつつの甘い吐息が聞こえる。
寝ている間は素直だった。
ぺろぺろぺろぺろぺろ
「あっ、あぁ…ん…」
そろそろ覚醒か、猫は舌を使いながらそう思った。
「あぁっ…いや、ナデュー…っ！」
その時に、自分の名を呼ぶのに満足する。
これでもし他の名前だったら、咬み千切っているところだ。
それで漸く目が覚めたらしい。
「ナデューっ！」
ぴちゃぴちゃ
「あぅっ、ん…あぁ…」
既に形を変え始めているものを、ナデュー猫は執拗に舐めた。
「あ…いやだっ…いや…」
手が、必死に猫を押し戻そうとしている。
けれど、しなやかな指には力が入っていなかった。
いつもとは違う、ざらつく舌触りが、微妙に心地よくクレイドルを刺激する。
手から足から、体中から力が抜け、このまま融けてしまいそうな程。
「あ…いや、やめて…ナデュー…」
あえかな媚を含ませた、声。
襲い来る快楽の波に、体が小刻みに震える。
硬い毛に指を絡ませ、押しのけるような仕種を繰り返す。
それは、更なる深みへ誘う媚態に他ならず。
艶めかしい声、覚え込まされた愛撫に身悶えする。
「いや…、いやだ……ぁっん…」
体が熱い。
鼓動が早くなる。
そこだけが独立した火のように燃えるようで。
ざらりとした舌が貪欲に彼自身を舐め上げる度、
脳の奥まで痺れるような快楽が腰の奥から沸き上がる。
「ナデュー…、やめてくれ…ナデュー…」
柔らかい毛玉を、それでもなんとかどかそうとしているのだが。
先走りに濡れる先端を丹念に舐められ、クレイドルは声も立てられずに仰け反った。
「あっ…アァ…ッ、ンッ…」
知らず片手が下肢に伸びる。
苦しい、体がどうにかなってしまいそうだ。
自ら握り、扱き始めるのを見た猫は、すぐさま胸元へと移動した。
牙をリング状のピアスに引っかけ、くいくいと引っ張る。
「アァァァァッ…！　イヤ、ナデュー…ッ！」
絶頂は一気に訪れた。
二三度大きく痙攣する。
自らの手と下腹部を汚すのは、たった今放出したばかりの精で。
「ナデュー……！」
怒りよりも羞恥が先に立つ。
が、当のナデュー猫は至って澄ました顔。
ぅなぁぁぁ〜
満足そうに一声大きく鳴くと、いざもう一戦、とばかりにクレイドルにのしかかった。
クレイドルの白い体に飛び散った精を美味そうに舐め取り始める。
「もう、いい加減にしろ…！」
クレイドルの悲鳴は、リルダーナの夜の森に吸い込まれた。

翌日。
クレイドルはぼろぼろになった体を引きずってアンヌンに戻ってきた。
体中猫の唾液と自分の精の匂いが染みついているようで気持ち悪かった。
とにかく、一刻も早く温泉にでもつかって、この汚れを落としたい。
その一念で目覚めたらすぐに飛んで来たのだ。
蹌踉めく足で漸く温泉に辿り着く。
そこで、クレイドルは世にも珍しいものを見た。
ふぅ〜　ゴクラク　ゴクラク♪
という顔で温泉につかる猫を。
なぁぁぅぅぅぅ〜
クレイドルに気づいた猫は低い声で鳴いた。
”オタノシミはまだまだこれから、だゼ”
クレイドルには、そう聞こえた。
「なんで…、何でまだ戻らないんだ〜〜〜！」
呼べど叫べど救いはなく…。
クレイドルの受難は暫く続く。
〜Ｅｎｄ〜

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1000キリリクとして智様に差し上げた物。
お約束な続きになってしまっておりますが（笑）
いや、本当はもう少し長めに…と思っていたんですけどね。
自粛しました（ウソつけ）
本当に、クレイドルには災難でしかなかった「ナデュー猫化」。
まぁ、二度とはないことと思われますが、それは神のみぞ知る。